どうか、私のことを思い出さないで下さい

七宮 ゆえ

文字の大きさ
14 / 15

14話

しおりを挟む





「……フェリクス」
「いや、セルが珍しく分かりやすく動揺してくれるものだから、つい」

若干低くなった声とともに恨みがましそうに睨まれるが、フェリクスは実に楽しそうにあけすけと言い放つ。その声音は事実、込み上げてくる笑みを隠しきれていない。
その様子に、図星であるセルシウスは反論することなど出来ず、ただ罰の悪そうな表情で身じろいだ。

「でも本当に、昔からセルはレティーシアには素直に反応するよな」

普段は王族としての仮面が崩れることの無い完璧な〝王太子殿下〟であるのに対し、レティーシア本人がいるときやレティーシアの話題が出た時などは、そんな仮面は彼に無いに等しくなる。
特にレティーシアがいないときに自分が彼女の話題を出すと、途端にその心理の見えない表情が崩れ落ちるのだから愉快……いや、王太子としてどうなのかと思わずにはいられない。

「まあでも、それだけセルにとってはレティーシアが特別なんだろうけど」
「……悪いか?」
「いいや、全く」

まあ、王族としては問題だよなと思わずにいられないことも無いのだけれど、セルシウスは公私が分けられているので大丈夫だろう。
そんな思いを込めてフェリクスが頷けば、セルシウスは僅かに目を細めた。

「で、話を戻すけれどレティーシアがどうかしたのか?」
「ああ、そういえばそうだった」
「自分で話を振っておいて忘れるなよ……」

セルシウスが呆れたように呟くが、その言葉をフェリクスは無視する。
都合の悪いことは聞き流すのがフェリクスの主義であった。

「直球に言うとセル、レティーシアが欲しいなら多少強引でも取り敢えず外堀から埋めた方が良い」
「は?」
「レティーシアはお前が何を勘づいていようが、何がなんでも隠し通す気でいるらしい」

具体的に何をとは言わない。しかしそれでもフェリクスが何を言わんとしているのかをセルシウスは心得ていた。
背もたれに深くもたれかかりながら、セルシウスは長めの溜息を吐く。

「そうか……一番の難関はレティーシア自身なのか……」
「昔から、レティーシアは一度決めたら何がなんでも貫き通そうとするから手強いんだよな」

途方に暮れたようにぽつりと呟けば、フェリクスも腕を組みながら頷く。

「まあ、頑張れ」
「他人事みたいに言うなよ」
「実際他人事なんだけど?」

フェリクスがそう返せば、セルシウスはまた一つ溜息を吐くのだった。



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

魔性の女に幼馴染を奪われたのですが、やはり真実の愛には敵わないようですね。

Hibah
恋愛
伯爵の息子オスカーは容姿端麗、若き騎士としての名声が高かった。幼馴染であるエリザベスはそんなオスカーを恋い慕っていたが、イザベラという女性が急に現れ、オスカーの心を奪ってしまう。イザベラは魔性の女で、男を誘惑し、女を妬ませることが唯一の楽しみだった。オスカーを奪ったイザベラの真の目的は、社交界で人気のあるエリザベスの心に深い絶望を与えることにあった。

婚約破棄、ありがとうございます

奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。

あなたのおかげで吹っ切れました〜私のお金目当てならお望み通りに。ただし利子付きです

じじ
恋愛
「あんな女、金だけのためさ」 アリアナ=ゾーイはその日、初めて婚約者のハンゼ公爵の本音を知った。 金銭だけが目的の結婚。それを知った私が泣いて暮らすとでも?おあいにくさま。あなたに恋した少女は、あなたの本音を聞いた瞬間消え去ったわ。 私が金づるにしか見えないのなら、お望み通りあなたのためにお金を用意しますわ…ただし、利子付きで。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

公爵さま、私が本物です!

水川サキ
恋愛
将来結婚しよう、と約束したナスカ伯爵家の令嬢フローラとアストリウス公爵家の若き当主セオドア。 しかし、父である伯爵は後妻の娘であるマギーを公爵家に嫁がせたいあまり、フローラと入れ替えさせる。 フローラはマギーとなり、呪術師によって自分の本当の名を口にできなくなる。 マギーとなったフローラは使用人の姿で屋根裏部屋に閉じ込められ、フローラになったマギーは美しいドレス姿で公爵家に嫁ぐ。 フローラは胸中で必死に訴える。 「お願い、気づいて! 公爵さま、私が本物のフローラです!」 ※設定ゆるゆるご都合主義

なんでも奪っていく妹に、婚約者まで奪われました

ねむ太朗
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、小さい頃から、妹のエルーシアにネックレスや髪飾りなどのお気に入りの物を奪われてきた。 とうとう、婚約者のルシアンまでも妹に奪われてしまい……

私も一応、後宮妃なのですが。

秦朱音|はたあかね
恋愛
女心の分からないポンコツ皇帝 × 幼馴染の後宮妃による中華後宮ラブコメ? 十二歳で後宮入りした翠蘭(すいらん)は、初恋の相手である皇帝・令賢(れいけん)の妃 兼 幼馴染。毎晩のように色んな妃の元を訪れる皇帝だったが、なぜだか翠蘭のことは愛してくれない。それどころか皇帝は、翠蘭に他の妃との恋愛相談をしてくる始末。 惨めになった翠蘭は、後宮を出て皇帝から離れようと考える。しかしそれを知らない皇帝は……! ※初々しい二人のすれ違い初恋のお話です ※10,000字程度の短編 ※他サイトにも掲載予定です ※HOTランキング入りありがとうございます!(37位 2022.11.3)

婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」

佐藤 美奈
恋愛
「僕はアンジェラと婚約破棄する!本当は幼馴染のニーナを愛しているんだ」 アンジェラ・グラール公爵令嬢とロバート・エヴァンス王子との婚約発表および、お披露目イベントが行われていたが突然のロバートの主張で会場から大きなどよめきが起きた。 「お前は何を言っているんだ!頭がおかしくなったのか?」 アンドレア国王の怒鳴り声が響いて静まった会場。その舞台で親子喧嘩が始まって収拾のつかぬ混乱ぶりは目を覆わんばかりでした。 気まずい雰囲気が漂っている中、婚約披露パーティーは早々に切り上げられることになった。アンジェラの一生一度の晴れ舞台は、婚約者のロバートに台なしにされてしまった。

処理中です...