転生ニートは迷宮王

三黒

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第2章

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「大罪・色欲を確認」
「この前と雰囲気が全然違う……やっと本気を出してくれたってコト、かしらっ!」 
 
 ラビが例の黒い剣でレルアに切りかかった。まだリフェア母の姿のせいで、どことは言わんが揺れる揺れる。非常に目のやり場に困る。いやそんなことで困ってる場合じゃないが。
 
「――具現化リディア……排除優先度を変更」
「っ、ラビ! 気を付けろ、そいつは――」 
 
 ギィン! という鈍くも甲高い金属音が響く。直後黒い剣にヒビが入り、中腹から派手に折れた。
 
「――現出せよアグナルツ。確かにアタシは戦闘は得意な方じゃないけど……まるで別人ね」
「ああ、ほとんど別人に近い。今レルアを動かしてるのは神だって話だからな」
「! なるほど、どうりで雰囲気が違うわけね」 
 
 再び生み出した剣は数回の打ち合いで砕ける。
 
「うなじか目を狙ってくれ、そこを落とせば神からの接続が切れる!」 
「ええ……そうしてはいるのだけど……!」 
 
 ああ、わかった上で魔術を使ってなかったのか。だが元々近接戦闘は得意じゃないみたいだし防戦一方だ。俺も早く動かないと。
 
「リフィスト!」
「待たんか童、違和感ぞ。素因エレメントの流れが乱れておる」
「んなもんここ来る前から乱れまくりじゃねーか」
 
 何を今更、と思ったがリフィストは深刻な表情で首を横に振る。  
 
「なんとなく感じないかえ? 先程から気味が悪い、静かすぎる。まるで嵐の前の……」
 
 一際高い金属音と共に、砕けた剣の破片が飛んできた。静かだって? この剣戟けんげきには静けさの欠片も感じられないんだが。
 
「そうではない。素因エレメントの流れに激しさがないということぞ。何か、ゆるりと引き寄せられるがごとき……」
 
「――――術式解析完了。古代魔術・解呪ファストへの耐性を付与。術式構築開始」
「あら、困ったわね。アタシは普通の解呪ディスペルは使えないのに」
 
 レルアが両腕をだらんと投げ出す。剣は光の粒子となって消えていく。
 素因エレメントの流れが急に活発になった。静けさの意味がわかったがもう遅い気がしてくる。
 いや、むしろ今か? 一見無防備に見える。置換レプリアスで急襲をかければ或いは……
 
「――ノィ土の精霊に命ずリズィル・グラエル・サイア堅檻をアグネウ――」
 
 パキ、と薄い氷を割ったような音と共に、ラビの周りの素因エレメントが霧散した。
 
「ここの素因エレメントはほとんどが既に天使に隷属しておる! 信じたくはないが、最早我らは簡単な魔術しか使えぬ」 
 
 おいおい、どこの「黒の王」だよ。だがこの間ゼーヴェに聞いところでは、「黒の王」の発動下でも置換レプリアスやら遅延ディロウやらは使えるって話だ。あの魔術と作りが同じかまではわからないが、試してみる価値はある。
 
「――双頭の竜は翼無き天使を嗤う」
 
 おお、これまた懐かしい詠唱だな。俺が貸したラノベの魔術だ。効果はなんと全員即死。
 
「即死!? そんなもの防ぎようが――!」
「まぁ落ち着けリフィスト。この魔術には致命的な欠陥がある」
 
 ラノベ本編でも禁術の一つとして扱われてたヤバい魔術だし、現に主人公たちも追い詰められたかのように見えた。
 だが、この魔術は使。実際は即死どころか髪の毛一本消えなかった。確かその場で軽い爆発が起こっただけだ。
 
「――光の呪縛は汝が内に、影の呪縛は汝が外に――」
「使えぬだと? 使えぬとはどういうことか?」 
「バカみたいに大量の魔力が必要なんだよ。それこそ無詠唱の簡単な魔術で、大国一つ焼け野原にできるくらいのな」 
 
 要するにポンコツ魔術。ベビー〇タンが調子乗って唱えるイオ〇ズンみたいなもんだ。しかし MPがたりない!
 ………………いや、待てよ。大量の魔力MP、あるじゃん。
 今のレルア、神から無限に供給受けてんじゃん。マジやばくね。
 
「――蒼き星は水底に輝き、纏いし邪悪を無に還さん!」
「いっっっっっけぇぇぇぇえええリフィストぉぉぉぉぉおおおおお!! ――置換レプリアス!!」
具現化リディアぁ!」 
 
 リフィストは移動しながら短剣を作り出し、逆手に握る。レルアの目の前に出た瞬間、その勢いのまま左眼球に向かって振り下ろした。
 が。
 それは解呪防壁ディスペラーシルトを破壊すると同時に柄の部分まで砕け散った。
 あと一歩。あと一歩だったってのに。
 
「第七深淵魔術――」
 
 リフィストはその場にへたり込んだ。遅延ディロウで詠唱を遅らせるか? それとも俺も置換レプリアスで飛んでみる? いっそ使えるかも効くかもわからない圧空フルシアとか使っちゃう? むしろ強制送還デポラシエの罠でも仕掛けてみるか。つーかもう悩んでる暇もない。が、何使っても無駄な気がする。一周回って不発かもしれない。神にでも祈ってみるか。
 
「――破滅の「風の矢よエアル・ロス!」
 
 ラビの手から、高速で何かが放たれ――
 
 ――それは、レルアの左目に綺麗に突き刺さった。レルアの上半身がのけぞり、そのまま後ろに倒れ込む。魔力の威圧感が消えていく。素因エレメントが通常の落ち着きを取り戻す。
 
 
 いくら経っても、即死魔術は飛んでこない。
 
 
「生き……てる……?」
 
『称号:神を退けし者を獲得しました』 
 
 ラビが指を鳴らすと、真っ白い空間は崩れ、塵となって消えていく。
 
「ロード! ご無事ですか!」
「あー、多分……?」 
「ラビ、マスター! 大丈夫? 怪我してない!?」 
 
 理解が追い付かない。最後の一瞬の隙に魔術を間に合わせたのか。確かに解呪ディスペルが使えないとは言っていたが、簡単な魔術が使えないとは言っていない。
 それにしても、あの隙を突いたってマジかよ。最後の最後――全魔力を注ぎ込んで、少しだけ防壁が解ける瞬間を。
 
「ラビ、強すぎんだろ……」 
「あら、これでも戦いは苦手な方なのよ? ま、これで借りは返せたかしらね」 
 
 ラビはリフェアの頭を撫でながら答えた。なんでそんな元気に立って微笑んでられるんだ。
 流石は大罪ってとこか。力も記憶も引き継いで何度も転生してるだけある。
 まぁとにかく助かったんだ。いつまでもぼーっとしてるわけにもいかないな。
 
「ゼーヴェ、レルアの目の治療を頼む」
「承知しました」
 
 派手に刺さったから完全に治るかはわからないが、ゼーヴェで無理なら今の俺らで治せるやつはいない。
 
「リフィスト、いつまでへたり込んでんだ。助かったんだぞ。そしてラビ、ありがとな」
「どういたしまして。お安い御用……とまではいかなかったけど、全員無事で何よりだわ」
 
 神と敵対して一人も死なず撃退したってことだもんな。奇跡かよ。しかもこっちレルアいなかったし。
 
「ああ、童……助かったのかえ……我らは」
「そうだぞ。もっと嬉しそうな顔をしろよ」 
「はは、そんな疲れきった顔で言われてものう。……巻き込んで悪かったの」

 あ、そういやこうなった原因なんなんだっけ? レルアが先に帰ってて……?
 
「恐らく我が教会から逃げ出すのを「視」た神が、天使への接続を開始したのだろうよ。童の天使は、きっとここへ帰った時点で神の干渉を受けていたんだろうて」
「……なるほどな。ま、こんな職業選んでるくらいだし、いずれは敵対することになってたかもしれん。今はひとまず助かったことを喜ぼうぜ」
「……うむ。感謝するぞ、童」 

 のんびり迷宮運営してくつもりが、いつの間にか神と戦ったりすることになろうとは。こういう事態に対応できるように、時空魔術ももう少し強化しておかないとな。
 とりあえず、レルアの目が覚めたら派手にパーティーしよう。これは決定事項だ。神とかいう半分ラスボスみたいなのを撃退したんだし。派手にやるぞ派手に。 
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