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第2章
65 決着
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「大罪・色欲を確認」
「この前と雰囲気が全然違う……やっと本気を出してくれたってコト、かしらっ!」
ラビが例の黒い剣でレルアに切りかかった。まだリフェア母の姿のせいで、どことは言わんが揺れる揺れる。非常に目のやり場に困る。いやそんなことで困ってる場合じゃないが。
「――具現化……排除優先度を変更」
「っ、ラビ! 気を付けろ、そいつは――」
ギィン! という鈍くも甲高い金属音が響く。直後黒い剣にヒビが入り、中腹から派手に折れた。
「――現出せよ。確かにアタシは戦闘は得意な方じゃないけど……まるで別人ね」
「ああ、ほとんど別人に近い。今レルアを動かしてるのは神だって話だからな」
「! なるほど、どうりで雰囲気が違うわけね」
再び生み出した剣は数回の打ち合いで砕ける。
「うなじか目を狙ってくれ、そこを落とせば神からの接続が切れる!」
「ええ……そうしてはいるのだけど……!」
ああ、わかった上で魔術を使ってなかったのか。だが元々近接戦闘は得意じゃないみたいだし防戦一方だ。俺も早く動かないと。
「リフィスト!」
「待たんか童、違和感ぞ。素因の流れが乱れておる」
「んなもんここ来る前から乱れまくりじゃねーか」
何を今更、と思ったがリフィストは深刻な表情で首を横に振る。
「なんとなく感じないかえ? 先程から気味が悪い、静かすぎる。まるで嵐の前の……」
一際高い金属音と共に、砕けた剣の破片が飛んできた。静かだって? この剣戟には静けさの欠片も感じられないんだが。
「そうではない。素因の流れに激しさがないということぞ。何か、ゆるりと引き寄せられるがごとき……」
「――――術式解析完了。古代魔術・解呪への耐性を付与。術式構築開始」
「あら、困ったわね。アタシは普通の解呪は使えないのに」
レルアが両腕をだらんと投げ出す。剣は光の粒子となって消えていく。
素因の流れが急に活発になった。静けさの意味がわかったがもう遅い気がしてくる。
いや、むしろ今か? 一見無防備に見える。置換で急襲をかければ或いは……
「――我、土の精霊に命ず。堅檻を――」
パキ、と薄い氷を割ったような音と共に、ラビの周りの素因が霧散した。
「ここの素因はほとんどが既に天使に隷属しておる! 信じたくはないが、最早我らは簡単な魔術しか使えぬ」
おいおい、どこの「黒の王」だよ。だがこの間ゼーヴェに聞いところでは、「黒の王」の発動下でも置換やら遅延やらは使えるって話だ。あの魔術と作りが同じかまではわからないが、試してみる価値はある。
「――双頭の竜は翼無き天使を嗤う」
おお、これまた懐かしい詠唱だな。俺が貸したラノベの魔術だ。効果はなんと全員即死。
「即死!? そんなもの防ぎようが――!」
「まぁ落ち着けリフィスト。この魔術には致命的な欠陥がある」
ラノベ本編でも禁術の一つとして扱われてたヤバい魔術だし、現に主人公たちも追い詰められたかのように見えた。
だが、この魔術は使えない。実際は即死どころか髪の毛一本消えなかった。確かその場で軽い爆発が起こっただけだ。
「――光の呪縛は汝が内に、影の呪縛は汝が外に――」
「使えぬだと? 使えぬとはどういうことか?」
「バカみたいに大量の魔力が必要なんだよ。それこそ無詠唱の簡単な魔術で、大国一つ焼け野原にできるくらいのな」
要するにポンコツ魔術。ベビー〇タンが調子乗って唱えるイオ〇ズンみたいなもんだ。しかし MPがたりない!
………………いや、待てよ。大量の魔力、あるじゃん。
今のレルア、神から無限に供給受けてんじゃん。マジやばくね。
「――蒼き星は水底に輝き、纏いし邪悪を無に還さん!」
「いっっっっっけぇぇぇぇえええリフィストぉぉぉぉぉおおおおお!! ――置換!!」
「具現化ぁ!」
リフィストは移動しながら短剣を作り出し、逆手に握る。レルアの目の前に出た瞬間、その勢いのまま左眼球に向かって振り下ろした。
が。
それは解呪防壁を破壊すると同時に柄の部分まで砕け散った。
あと一歩。あと一歩だったってのに。
「第七深淵魔術――」
リフィストはその場にへたり込んだ。遅延で詠唱を遅らせるか? それとも俺も置換で飛んでみる? いっそ使えるかも効くかもわからない圧空とか使っちゃう? むしろ強制送還の罠でも仕掛けてみるか。つーかもう悩んでる暇もない。が、何使っても無駄な気がする。一周回って不発かもしれない。神にでも祈ってみるか。
「――破滅の「風の矢よ!」
ラビの手から、高速で何かが放たれ――
――それは、レルアの左目に綺麗に突き刺さった。レルアの上半身がのけぞり、そのまま後ろに倒れ込む。魔力の威圧感が消えていく。素因が通常の落ち着きを取り戻す。
いくら経っても、即死魔術は飛んでこない。
「生き……てる……?」
『称号:神を退けし者を獲得しました』
ラビが指を鳴らすと、真っ白い空間は崩れ、塵となって消えていく。
「ロード! ご無事ですか!」
「あー、多分……?」
「ラビ、マスター! 大丈夫? 怪我してない!?」
理解が追い付かない。最後の一瞬の隙に魔術を間に合わせたのか。確かに解呪が使えないとは言っていたが、簡単な魔術が使えないとは言っていない。
それにしても、あの隙を突いたってマジかよ。最後の最後――全魔力を注ぎ込んで、少しだけ防壁が解ける瞬間を。
「ラビ、強すぎんだろ……」
「あら、これでも戦いは苦手な方なのよ? ま、これで借りは返せたかしらね」
ラビはリフェアの頭を撫でながら答えた。なんでそんな元気に立って微笑んでられるんだ。
流石は大罪ってとこか。力も記憶も引き継いで何度も転生してるだけある。
まぁとにかく助かったんだ。いつまでもぼーっとしてるわけにもいかないな。
「ゼーヴェ、レルアの目の治療を頼む」
「承知しました」
派手に刺さったから完全に治るかはわからないが、ゼーヴェで無理なら今の俺らで治せるやつはいない。
「リフィスト、いつまでへたり込んでんだ。助かったんだぞ。そしてラビ、ありがとな」
「どういたしまして。お安い御用……とまではいかなかったけど、全員無事で何よりだわ」
神と敵対して一人も死なず撃退したってことだもんな。奇跡かよ。しかもこっちレルアいなかったし。
「ああ、童……助かったのかえ……我らは」
「そうだぞ。もっと嬉しそうな顔をしろよ」
「はは、そんな疲れきった顔で言われてものう。……巻き込んで悪かったの」
あ、そういやこうなった原因なんなんだっけ? レルアが先に帰ってて……?
「恐らく我が教会から逃げ出すのを「視」た神が、天使への接続を開始したのだろうよ。童の天使は、きっとここへ帰った時点で神の干渉を受けていたんだろうて」
「……なるほどな。ま、こんな職業選んでるくらいだし、いずれは敵対することになってたかもしれん。今はひとまず助かったことを喜ぼうぜ」
「……うむ。感謝するぞ、童」
のんびり迷宮運営してくつもりが、いつの間にか神と戦ったりすることになろうとは。こういう事態に対応できるように、時空魔術ももう少し強化しておかないとな。
とりあえず、レルアの目が覚めたら派手にパーティーしよう。これは決定事項だ。神とかいう半分ラスボスみたいなのを撃退したんだし。派手にやるぞ派手に。
「この前と雰囲気が全然違う……やっと本気を出してくれたってコト、かしらっ!」
ラビが例の黒い剣でレルアに切りかかった。まだリフェア母の姿のせいで、どことは言わんが揺れる揺れる。非常に目のやり場に困る。いやそんなことで困ってる場合じゃないが。
「――具現化……排除優先度を変更」
「っ、ラビ! 気を付けろ、そいつは――」
ギィン! という鈍くも甲高い金属音が響く。直後黒い剣にヒビが入り、中腹から派手に折れた。
「――現出せよ。確かにアタシは戦闘は得意な方じゃないけど……まるで別人ね」
「ああ、ほとんど別人に近い。今レルアを動かしてるのは神だって話だからな」
「! なるほど、どうりで雰囲気が違うわけね」
再び生み出した剣は数回の打ち合いで砕ける。
「うなじか目を狙ってくれ、そこを落とせば神からの接続が切れる!」
「ええ……そうしてはいるのだけど……!」
ああ、わかった上で魔術を使ってなかったのか。だが元々近接戦闘は得意じゃないみたいだし防戦一方だ。俺も早く動かないと。
「リフィスト!」
「待たんか童、違和感ぞ。素因の流れが乱れておる」
「んなもんここ来る前から乱れまくりじゃねーか」
何を今更、と思ったがリフィストは深刻な表情で首を横に振る。
「なんとなく感じないかえ? 先程から気味が悪い、静かすぎる。まるで嵐の前の……」
一際高い金属音と共に、砕けた剣の破片が飛んできた。静かだって? この剣戟には静けさの欠片も感じられないんだが。
「そうではない。素因の流れに激しさがないということぞ。何か、ゆるりと引き寄せられるがごとき……」
「――――術式解析完了。古代魔術・解呪への耐性を付与。術式構築開始」
「あら、困ったわね。アタシは普通の解呪は使えないのに」
レルアが両腕をだらんと投げ出す。剣は光の粒子となって消えていく。
素因の流れが急に活発になった。静けさの意味がわかったがもう遅い気がしてくる。
いや、むしろ今か? 一見無防備に見える。置換で急襲をかければ或いは……
「――我、土の精霊に命ず。堅檻を――」
パキ、と薄い氷を割ったような音と共に、ラビの周りの素因が霧散した。
「ここの素因はほとんどが既に天使に隷属しておる! 信じたくはないが、最早我らは簡単な魔術しか使えぬ」
おいおい、どこの「黒の王」だよ。だがこの間ゼーヴェに聞いところでは、「黒の王」の発動下でも置換やら遅延やらは使えるって話だ。あの魔術と作りが同じかまではわからないが、試してみる価値はある。
「――双頭の竜は翼無き天使を嗤う」
おお、これまた懐かしい詠唱だな。俺が貸したラノベの魔術だ。効果はなんと全員即死。
「即死!? そんなもの防ぎようが――!」
「まぁ落ち着けリフィスト。この魔術には致命的な欠陥がある」
ラノベ本編でも禁術の一つとして扱われてたヤバい魔術だし、現に主人公たちも追い詰められたかのように見えた。
だが、この魔術は使えない。実際は即死どころか髪の毛一本消えなかった。確かその場で軽い爆発が起こっただけだ。
「――光の呪縛は汝が内に、影の呪縛は汝が外に――」
「使えぬだと? 使えぬとはどういうことか?」
「バカみたいに大量の魔力が必要なんだよ。それこそ無詠唱の簡単な魔術で、大国一つ焼け野原にできるくらいのな」
要するにポンコツ魔術。ベビー〇タンが調子乗って唱えるイオ〇ズンみたいなもんだ。しかし MPがたりない!
………………いや、待てよ。大量の魔力、あるじゃん。
今のレルア、神から無限に供給受けてんじゃん。マジやばくね。
「――蒼き星は水底に輝き、纏いし邪悪を無に還さん!」
「いっっっっっけぇぇぇぇえええリフィストぉぉぉぉぉおおおおお!! ――置換!!」
「具現化ぁ!」
リフィストは移動しながら短剣を作り出し、逆手に握る。レルアの目の前に出た瞬間、その勢いのまま左眼球に向かって振り下ろした。
が。
それは解呪防壁を破壊すると同時に柄の部分まで砕け散った。
あと一歩。あと一歩だったってのに。
「第七深淵魔術――」
リフィストはその場にへたり込んだ。遅延で詠唱を遅らせるか? それとも俺も置換で飛んでみる? いっそ使えるかも効くかもわからない圧空とか使っちゃう? むしろ強制送還の罠でも仕掛けてみるか。つーかもう悩んでる暇もない。が、何使っても無駄な気がする。一周回って不発かもしれない。神にでも祈ってみるか。
「――破滅の「風の矢よ!」
ラビの手から、高速で何かが放たれ――
――それは、レルアの左目に綺麗に突き刺さった。レルアの上半身がのけぞり、そのまま後ろに倒れ込む。魔力の威圧感が消えていく。素因が通常の落ち着きを取り戻す。
いくら経っても、即死魔術は飛んでこない。
「生き……てる……?」
『称号:神を退けし者を獲得しました』
ラビが指を鳴らすと、真っ白い空間は崩れ、塵となって消えていく。
「ロード! ご無事ですか!」
「あー、多分……?」
「ラビ、マスター! 大丈夫? 怪我してない!?」
理解が追い付かない。最後の一瞬の隙に魔術を間に合わせたのか。確かに解呪が使えないとは言っていたが、簡単な魔術が使えないとは言っていない。
それにしても、あの隙を突いたってマジかよ。最後の最後――全魔力を注ぎ込んで、少しだけ防壁が解ける瞬間を。
「ラビ、強すぎんだろ……」
「あら、これでも戦いは苦手な方なのよ? ま、これで借りは返せたかしらね」
ラビはリフェアの頭を撫でながら答えた。なんでそんな元気に立って微笑んでられるんだ。
流石は大罪ってとこか。力も記憶も引き継いで何度も転生してるだけある。
まぁとにかく助かったんだ。いつまでもぼーっとしてるわけにもいかないな。
「ゼーヴェ、レルアの目の治療を頼む」
「承知しました」
派手に刺さったから完全に治るかはわからないが、ゼーヴェで無理なら今の俺らで治せるやつはいない。
「リフィスト、いつまでへたり込んでんだ。助かったんだぞ。そしてラビ、ありがとな」
「どういたしまして。お安い御用……とまではいかなかったけど、全員無事で何よりだわ」
神と敵対して一人も死なず撃退したってことだもんな。奇跡かよ。しかもこっちレルアいなかったし。
「ああ、童……助かったのかえ……我らは」
「そうだぞ。もっと嬉しそうな顔をしろよ」
「はは、そんな疲れきった顔で言われてものう。……巻き込んで悪かったの」
あ、そういやこうなった原因なんなんだっけ? レルアが先に帰ってて……?
「恐らく我が教会から逃げ出すのを「視」た神が、天使への接続を開始したのだろうよ。童の天使は、きっとここへ帰った時点で神の干渉を受けていたんだろうて」
「……なるほどな。ま、こんな職業選んでるくらいだし、いずれは敵対することになってたかもしれん。今はひとまず助かったことを喜ぼうぜ」
「……うむ。感謝するぞ、童」
のんびり迷宮運営してくつもりが、いつの間にか神と戦ったりすることになろうとは。こういう事態に対応できるように、時空魔術ももう少し強化しておかないとな。
とりあえず、レルアの目が覚めたら派手にパーティーしよう。これは決定事項だ。神とかいう半分ラスボスみたいなのを撃退したんだし。派手にやるぞ派手に。
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