転生ニートは迷宮王

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第5章

125 スーツ

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 ……とは言ったものの、誰を連れてくか。流石に一人で行くのは危険すぎるが、あまり大人数すぎても万が一の対応が遅れる。
 まずゼーヴェとリフィストは顔が割れてるから無理だろ。レルアも指名手配中だっけか。王の側近に隠蔽バルドが通用するか分からないし、もしバレたら厄介なことになる。
 で、リフェアとラビも無理。俺の影に隠れれば或いは……ってとこだが、行くにしても用事がないときとかにしよう。こっちは見つかると特にヤバい。
 アルデムには結界の維持のために残ってもらわないとだな。リッチのラティスはまだ新人だし、少し危なっかしい。
 となるとアイラと――あとカインか。丁度生き返ってゴーストと一緒に訓練中だ。
 天使の二人がいないのは不安っちゃ不安だが、俺も少しは戦えるしアイラもカインもレイスだ。仮に戦闘になっても、逃げ帰ることくらいは余裕でできるはず。
 
(あー幹部に連絡。全員リビングに来てくれ) 
 
 街にいるやつも何人かいるしそこそこ時間かかるかな、と思っていたが、意外にも十分ほどで集まった。
 
「みんな忙しい中よく集まってくれた。早速本題に入るが、つい先程シレンシアから使者が来た」
「それって聖騎士のこと?」
「――リフェア、お前気付いてたのか」
「当然! だって隠れないと殺されちゃうもの」
 
 そう言って笑ってみせるリフェア。なんつーか、心が痛い。俺はやっぱり聖騎士とは仲良くできない。
 
「……まあそういうわけで、シレンシアに顔を出すことになった。色々考えたんだが、今回は俺とアイラ、そしてカインで行く」
「オレもかよォ!?」
「ああその通りだ。何か異論のある者?」
 
 何やらブツブツ言ってるカインは放っておく。こいつも大概危なっかしいが、最近は多少成長してきた……と思う。
 
「しかしロード。これは何かの罠という可能性はございませんか?」 
「……ゼーヴェの言う通りです。アイラもカインも優秀ですが、それはあくまで一般的な冒険者、レイスの中ではという話。聖騎士や宮廷筆頭騎士アルクヴレスなどには到底敵いません」
 
 確かに五割くらいは罠の可能性もあると思うが、俺は割と初見殺しの魔術が使えるしな。常に二人の近くにいれば、瞬時に転移ラムルトで帰れるし。
  
「まあ、そんな強いやつらが出てくる前に退散するさ。王の近くにいたら常に警戒しとくし、すぐここに戻ってこれるようにする。転移ラムルトだってあるわけだし、今んとこ俺の時空魔術が効かなかった人間はいない」 
 
 あのローレンツにだって効いたんだ。多分大抵の状態異常耐性は貫通する。
 
「私の影をマスターの影に潜らせておくわ。強力な護衛というわけではないけれど、不意の一撃くらいなら防げるはず」
「おお、助かる」
 
 リフェアが呼び出した影が地を這い、俺の影に溶けるようにして沈んでいく。
 レルアとゼーヴェはまだ若干不安そうな顔だったが、まあ大丈夫だろ。前回城にいったときは記憶がなかったが、今回はバッチリある。それに一人じゃない。
 
「出発は明朝八時。移動には俺の転移ラムルトを使う。留守中に何かあったらレルアかゼーヴェに言うようにしてくれ。その二人でも解決が難しかったら……危険ではあるが、隠蔽バルドとかで隠れてシレンシアに来て、俺に念話をくれ」
 
 レルアとゼーヴェで解決不可能な問題を俺がどうこうできるとも思えないが。一応な。
 
 さて、あとは――服が必要か。ちゃんとしたやつ。ユニ〇ロで王城はちょっとな。
 スーツとか買おう。ネクタイは結び方忘れたので無し。こっちネクタイ文化とかないだろ多分。
 
「アイラとカインはちょっと残ってほしい。城に着てく用の服を買おうと思うんだが、サイズが分からないからな。――それじゃ、解散」
「服だァ? ンなもんこれでいいんじゃねェか?」
「ダメなんだよ。……っつーか、俺が前にいたとこではダメだった。ほれ採寸すんぞ」 
 
 DPショッピングは中々に便利で、数値を入れれば自動でサイズを調整してくれるらしい。上は肩幅着丈胴回り、あと左右の袖丈か。
 
「おいマスターなんだそれェ? 武器か? 採寸ってのは決闘のことなのかァ?」
「なわけあるか。いいから両腕上げろ」  
 
 メジャーを知らないのはわかるが、採寸も知らないのか。服があるってことは採寸もあるはずだよな?
 つーか思った以上に戦闘脳すぎる。人選ミスったかな。だが他に選択肢はなかった。足を引っ張ることはない……と思う……思いたい。
 
「おい、へへ、なんだよマスターァ! くすぐってェぞ!」
「我慢しろ。ええと、胴回りが80センチ……」 
 
 下はウエスト、股上に左右股下、あと渡り幅に膝幅裾幅と。ああ、革靴用に足のサイズも見ておこう。
 
 全身測り終える頃には、カインも大人しくなっていた。購入に進む、と……種類はよく分からないので、とりあえず一番上に表示されていたものにする。
 スーツと革靴合わせて4,000DPか。結構いいお値段だな。DPに余裕があって良かった。
 
「よし、着方は分かるか?」
「あァ、だけどよォマスター。一体どうなってんだァ?」 
「どう、って何がだ?」 
 
 スーツをベタベタ触って怪訝そうな顔をするカイン。DPで買ったことに今更驚くはずがないし、生地とかに興味があるタイプでもないだろ。
 
「オレはさっきから魔力流してんのによォ、全然サイズ変わらねェじゃねェか」
「……魔力でサイズが変わる? 何言ってんだ」
「あァ? マスターこそ何言ってんだァ? 魔力で変わらなかったらどうやって……」
 
 と、そこで何かに気付いたのか、カインが笑い始めた。
 
「な、なんだよ」
「マスターァ! まさかとは思うがよォ、さっきのは魔力がェ奴の方法じゃねェよなァ?」
「魔力がない? 魔力があるやつは採寸なんてしないってのか?」
「……そう。マスターの方法は古すぎる。今は大きさは魔力で調整するのが主流」
 
 マジか。ここ最近で一番驚いてるぞ。こっちにはそういう繊維があるのか。
 よく思うが、この世界は向こうに比べて遅れてるってわけではないらしい。魔法があることによって、向こうとは違う方向に発展してる部分も多い。エネルギー関連とかな。
 飯だって安くて美味いし、道路とかの整備も綺麗にされてる。上下水道とかの仕組みは分からないが、多分上手いこと回ってるんだと思う。
 
「……まあとにかく俺がいたとこではこうやって測ってたんだよ。じゃあ次アイラ……っと、これは俺じゃなくてレルアとかに頼んだ方がいいか」 
「……ううん。マスターで……いい」 
「そ、そうか」
 
 とは言っても困ったな。なるべくアイラに触れないように慎重にメジャーを巻いていく。
 
「……んっ……」
「わ、悪い。キツかったか」
「……違う。少しくすぐったかっただけ」   
 
 なんで今更恥ずかしそうにするんだ。これだったらレルアに頼んだ方が良かっただろ。
 つーかアイラこんなに可愛かったっけ。普段無表情なのにこういうときだけちょっと感情出してくるの反則だぞ。
 そういや服も新しくなってるな。前リフェアたちにDPショップ貸したときに買ったのかね。
 詳しくは知らないがモノトーンコーデっていうのか? 肩出しの白いトップスに、黒いロングスカート。黒髪だからより映える。
 前の黒ドレスも可愛かったが、こういう向こうの現代ファッションみたいなのも似合うな。
 
「――よし、採寸終わりだ」
 
 やりきった。魅了耐性がなければ危なかった。
 購入、と……着替え場所で気付いたが、まだ三騎将の部屋なかったな。訓練所の方の詰所に個室はあるが、それじゃあまりに粗末すぎる。今度この階層にそれぞれの部屋を作ろう。
 ――ついでにカインの分も作ってやるか。いつも死んでるせいで半分物置になりそうだが。
 
「動きにくい服だなァ」
「! もう着替えたのか。まあサイズは合ってるみたいだな」
「それでもよォ、動きにくいンだよ。破っていいかァ?」
「いやダメだダメだ我慢してくれ。着れることがわかったら、朝までは普段の服でいてもらっても構わん」
 
 軽く剣を振るう動作をするカイン。ヒヤヒヤする。戦闘になったら破れるとか気にしてられないが、最初から破ってくのはまずいぞ。
 
「……マスター」
「ああ悪い、アイラは一回詰所の個室とかで着替えてくれるか。問題がなさそうなら、朝それ着てリビングまで来てくれればいい」
「……うん、わかった」
 
 アイラ、スラっとした体型だしスーツも似合いそうだな。
 さーて、俺も買って着替えてみるとするか。
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