社畜さん、ヒモになる〜助けた少女は大富豪の令嬢だった〜

空野進

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28.

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 花火を使い切ると莉愛は少しだけ寂しそうな顔をしていた。


「結構すぐになくなってしまいますね」
「また一緒にすれば良いよ。このくらいなら店に行けば買ってこれるからな」
「そうですね。今度は使い切れないくらいたくさん買ってきますね!」
「ははっ……、それは辞めてくれ。莉愛だと本当に使い切れないほど山のように買ってきそうだからな」
「うぅ……、じゃあほどほどにしておきますね」


 ほどほどでも怖いな。
 ただ、莉愛が嬉しそうにしているのでこれ以上俺から何かいうことはなかった。

 大量の花火を保管する場所だけ考えておこう。

 そんなことを考えながら部屋へと戻ってくる。

 流石に今日はいろんなことがあったからな。思ったより体が疲れているのかもしれない。
 なんだか体がふらついている。

 これはさすがに休まないとダメか。

 俺は服を着替えることもせずにそのまま倒れこむようにベッドで眠りについた。


 ◇


 翌日、俺は頭がぼんやりとしながらもいつもと変わらない時間に起きてきた。
 ただ、頭はフラフラとふらつき、体の節々は痛んでいる。

 ちょっと無理をしたかもしれないな。
 まぁ、数日すれば元に戻るだろう。

 そんなことを思いながら莉愛を起こしに行く。


「莉愛、起きてるか?」
「有場さん、起きてますよ」


 扉をノックするとすでに着替えを済ませている莉愛が笑顔で出てくる。
 ただ、俺の顔を見て不思議そうにしていた。


「有場さん、顔赤いですよ? どうかしましたか?」
「いや、俺はいつも通りだが?」
「そんなことないですよ。ちょっと失礼しますね……」


 莉愛が近づいてくる。
 そして、必死に背伸びをしてくる。


「うーん、届かないです……。あの、少し屈んでもらっていいですか?」


 莉愛に言われるがまま腰を下げると莉愛が自分の頭を俺の額につけてくる。


「り、莉愛?」
「やっぱり熱いですね……。有場さん、風邪をひいてないですか?」
「そんなことないぞ? このくらいなら十分平熱――」
「だ、ダメです! 今お医者さんを呼んできますので有場さんは休んでおいてください!」


 莉愛が慌てて俺を部屋に押し戻してくる。
 そして、俺がベッドに戻ったのを確認すると莉愛は「少し待っててください!」と言って出て行ってしまった。

 こんな時間になってベッドで寝ているのは新鮮だな。
 目を閉じるとそのまま意識を失いそうになる。
 莉愛の言う通り、本当に風邪なのだろうか?

 ……そういえば昨日の祭りの報告書はまだ書いてなかったなぁ。
 あれなら寝ながらかけるか……。

 俺はベッドから抜け出して、机に置いてあるタブレットを取りに行く。
 ただ、足取りがふらつくので、何もないところで転けそうになってしまう。
 するとそんな僕を莉愛が抱き支えてくれる。


「もう、有場さんのことだから勝手に動いてると思いました! もう直ぐお医者さんがきますのでゆっくり寝て置いてください」


 莉愛が頬を膨らませて、怒ってくる。


「いや、そこのタブレットを取ろうとしただけなんだが……」
「それでもです。私が取りますので……、いえ、やっぱりダメです!」


 俺をベッドに戻した後、タブレットを取ろうとしてくれる莉愛。
 しかし、それを手にとった瞬間に莉愛は元の場所に戻していた。


「どうして?」
「だって、これを受け取ったら有場さん、お仕事をしますよね?」


 うっ、俺の行動が読まれているようだった。


「そ、そんなことないぞ……」
「わかってますよ。こう言う時の有場さんが信用できないことくらい……。今日のところは私がお世話をしますので、安静にしておいてください」


 むっと頬を膨らませて注意をしてくる。
 まぁもう長い付き合いだもんな。
 今日のところは仕方ないかとため息を吐く。


「わ、わかったよ……」
「それじゃあベッドで寝ててくださいね。今、頭を冷やすものを持ってきますから」


 莉愛が出て行ったタイミングを見計らって再びタブレットを――。


「有場さん……」


 莉愛が少し扉を開けて見てくる。


「い、いや、まだ何もしてないぞ?」
「有場さんがしそうなことは知っていますよ。でも、無理はしないでください。もし有場さんの身に何かあったら私は……」


 莉愛が目に涙を浮かべながら俺の方を見てくる。
 さすがに莉愛を悲しませるわけにはいかないか……。


「わかったよ。もうジッとしているよ」
「……約束ですよ」
「あぁ……」


 本当は体は動きたがっているんだけどな。
 こんなにジッとしていて本当に大丈夫なのかと不安に思える。
 でも、莉愛を悲しませるわけにもいかないのでグッと堪えて我慢することにする。



 するとしばらくして、莉愛が氷枕を持ってきてくれる。


「これをひいたら気持ちいいらしいですよ」


 そのまま俺の頭にひいてくる莉愛。
 流石にこのままだと冷たすぎる。ただ、莉愛はそのことに気づいていないようだった。


「莉愛、何かこの氷枕の上にひくタオルを持ってきてくれないか?」
「あっ、す、すみません。すぐにとってきます」


 慌てて駆けていく莉愛。
 流石にこうやって誰かの看病なんてしたことがないだろうし、仕方ないことだろう。

 俺は苦笑しながら莉愛が戻ってくるのを待った。


「お待たせしました」


 戻ってきた莉愛が持っていたのはなぜか水の入ったバケツとタオル、あとは薬とかを持ってきてくれたようだった。


「えっと、これを頭に乗せるのですよね?」
「……いや、氷枕はそのままだと冷たすぎるからそこにひきたかっただけだぞ」
「す、すみません。すぐにひきます」


 莉愛が慌てながらタオルを引いてくれる。
 その上に頭を乗せるとようやく俺は落ち着くことができた。


「ありがとう……」
「いえ、私こそ初めてで、手際が悪くて申し訳ありません……」
「いや、こうやって誰かに世話をしてもらったのがかなり久々で、本当にありがたいよ」


 誰かに見て貰ってると思うだけで心が温かくなるような気がする。


「いえ、そう言って貰えるならありがたいです……。あと、これは薬です。気休め程度ですけど飲んでください」


 本当なら何か食べた後に飲んだ方が良いんだけどな。
 苦笑を浮かべながらも何も食べる気が起きないのでそのまま薬を飲んでおく。


「それじゃあ少し休ませて貰うな」
「はい、おやすみなさい」


 笑顔の莉愛に見守られながら俺はゆっくり目を閉じていった。

 ◇

 再び目を覚ますと俺のベッドにもたれかかるように莉愛が眠っていた。
 そして、俺の頭には水で濡らされた別のタオルが置かれている。

 これも全部莉愛がしてくれたことかな?
 すやすやと気持ちよさそうに眠っている莉愛を見て、俺はゆっくり彼女の髪を撫でていた。
 するとくすぐったそうに反応してくる。


「んんっ……」


 あまりやり過ぎたら起こしてしまうな。
 それを微笑ましく見ながら莉愛が起きていないことを確認して小声で伝える。


「今までありがとうな、莉愛」


 そして、起き上がると俺は机にあるタブレットを手に取っていた。
 すっかり熱も下がったようなのでタブレットで昨日の祭りを纏め始める。
 すると目を覚ました莉愛が寝ぼけ眼で俺のことを見てくる。


「あっ、有場さん……。私……、寝ちゃってたみたいですね」
「あぁ、おかげですっかり良くなったよ。ありがとう」
「それは良かったです……。でも、また仕事してるんですね……」


 莉愛が渋い表情を見せてくる。


「一応な。どうしても目の前にある仕事を放っておくことができなくてな」
「……わかりました。それもやり方を教えてください。私が代わりにやります」
「いや、それだと……」


 流石に莉愛に任せるのは良くない気がした。
 ただ、あまりに彼女がやる気に満ちていたので、俺はため息を吐いて、莉愛にタブレットを渡す。


「えっと……、あれっ、これって屋台で見て回ったところのことを書くのですか?」
「あぁ、良かったところとか悪かったところだな」


 まぁ、俺は俺で纏めて勇吾さんに渡すとして、莉愛からの別の視点があってもいいかもしれないな。


「わかりました。頑張って書いてみますね」


 莉愛がグッと気合いを入れている。


「それなら新しいファイルを開くからそっちに書いてくれるか?」
「はい」


 俺は別のファイルを開くと改めて莉愛にタブレットを手渡す。


「それじゃあ私なりにお祭りのことをまとめてみますね。あと、有場さんはまだ薬で熱が下がってるだけですからベッドに戻っておいてください」


 にっこり微笑む莉愛を見ると俺は素直に頷かざるを得なかった。


 ◇


「うーん、有場さんと一緒にお祭りを回った感想……。なかなか難しいですね」


 俺のベッドにもたれかかりながら莉愛は頭を悩ませていた。


「えっと、有場さんと一緒に浴衣を着てお祭りに行きました……っと」


 それはただの感想じゃないのか?
 という疑問を浮かびながらも勇吾さんならそれでも喜んでくれるかもしれないな。

 とか、そんなことを考えてしまうのも碌に頭が回っていないからかもしれない。

 莉愛のコロコロと変わる表情を見ながら再び俺は眠りについていた。

 ◇

 次目が覚めると莉愛が俺の顔をのぞき込むように見ていた。


「んっ、どうかしたか?」
「い、いえ、有場さんの寝顔って可愛いなと思いまして……」


 顔を真っ赤にしながら莉愛が言ってくる。
 素直に言われると恥ずかしいな。
 頬が染まるのを感じるがこれは熱が上がってきたからだろうか?


「あっ、そ、そうだ。そろそろご飯の時間ですね。今取ってきますね」


 莉愛が慌てて部屋を出て行く。

 何だったんだろうな……。

 そして、しばらく待つと莉愛がお粥を持ってきてくれる。


「お待たせしました。どうぞ……」


 莉愛がおかゆを差し出してきたので、それを受け取ろうとする。
 しかし、莉愛はそのままおかゆを引っ込めてしまった。


「……莉愛?」
「いえ、有場さんは風邪で大変ですもんね。……うん。それなら私が食べさせてあげますね」


 嬉しそうに笑みを浮かべてくる。


「いや、もう俺は大丈夫……」
「ダメですよ。無理してひどくなったらダメですから私が食べさせてあげます」


 まぁこうなった莉愛はなかなか折れてくれないからな。
 食べさせてもらうだけならいつもと変わらないか……。


「わかったよ。それじゃあ食べさせてくれるか?」
「はい、任せてください」


 嬉しそうな笑みを浮かべた莉愛は、早速おかゆをスプーンですくい、俺の方へと近づけてくる。


「はい、アーンしてください」
「アーン……」


 言われるがまま口に含む。
 ただ、おかゆは味気のないものではなく、しっかり味もつけられていて、それでいて風邪をひいている俺でもあっさり食べられるものになっている。


「これは……うまいな」
「ですよね。私も風邪の時はよく食べてました。はい、もう一口どうぞ」


 莉愛が再び俺の口へとおかゆを運んでくる。


 ◇


 結局俺はそのまま莉愛に食べさせられておかゆを完食していた。


「では、有場さん。私はこのお皿を片付けてきますので、お薬を飲んだら休んでおいてくださいね」
「あぁ、今日は一日俺の世話をしてくれてありがとうな」
「いえ、私がしたいからしていただけですよ。だから、有場さんは気にしないでください。それにもうすぐ海に行くのですからしっかり治してもらわないと困りますから……楽しみにしてるので」


 そういえば来週から海に行くのだったな。
 莉愛はすごく楽しみにしてるわけだし、それまでには完治しないといけないな。


「わかったよ。それまでにはしっかり治しておくよ」
「はい、よろしくお願いしますね」


 莉愛がにっこりと微笑むと部屋を出て行った。
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