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「戻ってきたのか?」
少し疲れた様子の二人が戻ってきたので声をかける。
「はいっ、少し疲れましたので……」
「むむっ、今度は負けないからね!」
どうやら伊緒が勝負に負けてしまったようだった。
まぁ手と水鉄砲だから仕方ないだろう。
ただ、莉愛も伊緒もお互い笑いあっていたので問題はなさそうだ。
「とりあえず色々用意してくれたみたいだけど、そろそろ昼飯にでもするか?」
「そうですね」
「やっぱり海といったらバーベキューだよね!」
気がついたら用意されていたクーラーボックス。
おそらく執事の人が準備してくれたのだろう。
他にも網や炭といったものも既に準備されていた。
「もう焼くだけ……なんだな」
流石に準備がよすぎるなと苦笑しか浮かばなかった。
「よし、有場さんの分は私が焼きますね。美味しく仕上げてみせますよ!」
「それじゃあどっちが美味しく焼けるか勝負だね」
「ま、負けませんからね!」
いや、バーベキューに美味いも美味くないもないんじゃないのか……。
ただ、ムキになる莉愛の顔が可愛らしいので、それ以上何も言わずに見守ることにした。
そして、クーラーボックスから取り出してきたのは霜降りがかった肉だった。
前までだったら考えられなかったその肉は、莉愛と一緒に過ごすようになってから当たり前のように出てくるのですっかり見慣れてしまっていた。
まぁあまり量は食べられないんだけどな……。
いくらでも食べていいと言われて調子に乗って最初はガツガツと食べていたのだが、次第に胃にもたれてきて食べたくなくなってきたあの日を思い出す。
もうあんな無茶はしないから大丈夫だけどな……。
苦笑いしながら莉愛や伊緒が肉を焼いていくのを微笑ましく眺めていた。
そして――。
◇
「うぷっ……、さ、さすがにもう食えないよ……」
ひたすら焼かれた肉を俺の皿に積んでいく二人。
そして、どっちが美味しいですか? っと聞いてくるのだが、正直初めは差がないような感じだった。
すると勝負が付くまで……と言った感じにどんどん肉が積まれていってしまった。
正直数枚食べた後はもう味なんてわからなかった。
ただ、残して悲しませたくない一心でひたすら食べ続けていたのだが、さすがに永遠に積まれていく肉の山についには音を上げてしまった。
「そ、それよりも莉愛や伊緒は全然食ってないだろう。残りは二人で食うと良いよ……。俺はちょっと休む……」
さすがに胃がムカムカとする。
無理をしすぎたかなとビーチチェアでゆっくり休む。
◇
(莉愛)
「少しやり過ぎてしまいましたね……」
有場がチェアで休んだ後、伊緒と二人肉を食べながら申し訳なさそうな顔をしながら莉愛が告げる。
「そうだね、お兄ちゃんも人が優しいから私たちが入れたお肉は全部食べてくれたもんね」
「何かお詫びができないでしょうか……?」
「うーん、そうだね……」
伊緒が真剣な表情を見せながら悩む。
「あっ、そうだ! ちょっと莉愛ちゃん、耳貸して……」
伊緒が近付いてきて、こそこそと莉愛に話す。
「あのね……、今有場さんは食べ過ぎで疲れているからね……、だから、莉愛ちゃんが――」
◇
ふぅ……、少し休んだらちょっとだけマシになったか?
ようやく落ち着いてきたので、体を起こしてみるとなぜか莉愛がもぞもぞと恥ずかしそうにしながら近付いてくる。
「あ、あの、有場さん……、す、少しよろしいでしょうか?」
「どうしたんだ?」
「その……、有場さんがお疲れみたいでしたから……、その……」
何か言いづらそうにしている所を見ると伊緒に何か吹き込まれたのかもしれない。
「別に無理に何かしてくれなくてもいいんだぞ? もう動けるからな」
「いえ、せっかくですので私が有場さんの背中をさすってあげようと思いまして……。あとは、お疲れでしたらマッサージも一緒に……」
「いやいや、大丈夫だ! それに――」
莉愛の今の格好を見る。
肌の露出が少なめのワンピースとはいえ、水着なんだから体が密着すればその感触を露骨に味わうことになってしまう。
道理でさっきから莉愛が真っ赤になっているわけだ。
「そ、そんなわけにはいきません。有場さん、こっちに寝てください!」
こういうときの莉愛はやはり強情で無理やり俺を砂浜にひかれたレジャーシートのところまで連れてくる。
真っ赤になりながらも俺の腕をギュッと掴んで……。
水着でそんなことをするものだから莉愛の胸元当たりの柔らかい感触が――。
「ひ、引っ張らなくても自分で行けるから……」
その感触を抱いて俺は慌てて莉愛に言う。
しかし、彼女は半信半疑でギュッとしがみつくように掴んだ腕を放してくれない。
「放したら逃げませんか?」
「に、逃げないぞ。そ、それよりも今の格好でしがみつくと……」
俺の視線は莉愛の体へと向いていた。
そんな俺の視線を追いかけるように莉愛の視線もゆっくり俺の腕にしがみついてる自分の体へと向かう。
そして、一瞬で顔を真っ赤にして、離れようとする。
しかし、距離を開けずにそのまま逆に俺の方へもっと体を寄せてくる。
「あ、有場さんにならいいですよ……」
耳元で甘えるような声で呟いてくる。
そんなことを呟かれると理性のタガが外れそうになるが、側で伊緒がニヤニヤと見ていたので冷静になることができた。
むしろ、ここまで頑なな態度をとってくるのも全て伊緒が話したことなら納得できる。
「伊緒が余計なことを言ったんだな……」
「そ、そんなことないですよ。私は有場さんに喜んでもらいたくて……」
慌てふためく莉愛。
すると口裏を合わせるように伊緒も言ってくる。
「そうだよ、私は莉愛ちゃんに『お兄ちゃんにマッサージしてあげたらどうかな?』って言っただけだよ」
つまりそれ以上のことは莉愛が自分で考えて……?
「だ、だから、有場さん、覚悟してください」
莉愛が恥ずかしさのあまり目を潤ませながらジッと俺の顔を見てくる。
「あははっ……、私はお邪魔みたいだから少し泳いでくるね。あとはお二人で楽しんでね」
それだけ言うと伊緒は海の方へと向かっていった。
◇
向かい合う俺と莉愛。
お互い顔が赤くなっているのがわかる。
それでもなんだか目を離したらいけないような気がしていた。
「あ、有場さん……」
「莉愛……、その……、なんだ……」
するとギュッと俺の体に抱きついてくる。
まだ日も高い時間ながら、周りには俺たちしかいない。
だからこそ俺もそのまま莉愛を抱きしめ返すことができた。
ただ、すぐに顔を真っ赤にして莉愛は慌てふためいていた。
「そ、その……、うん、あ、有場さん、そうだ、マッサージ! マッサージをしますよ。そこに寝てください」
「そ、そうだな……。よろしく頼むよ……」
すぐに距離を離れたあと、俺はレジャーシートの上にうつ伏せに寝る。
すると良く家でしてくれているみたいに莉愛がゆっくり上に乗ってくる。
ただ、普段してもらっているときと違って水着の莉愛はその感触を露骨に感じてしまった。
それでも一生懸命に背中を押してくれる莉愛。
さすがにそんな彼女の気持ちを無碍にすることもできず、されるがままに背中を揉んで貰った。
その柔らかな感触に次第と瞼が重くなっていき、気がつくとそのまま眠りについてしまった。
◇
なんだか体が重い……。
さっきまで莉愛が揉んでくれていたはずなのにどうしてだろう?
それに身動きが取れない。まるで金縛りにあったみたいだった。
「ねぇ、伊緒ちゃん……、もう止めようよ」
「大丈夫だよ。海に来たのだからこれもしてみたかったんだよ……」
「でも、有場さんが――」
「きっとお兄ちゃんも喜んでくれるよ」
「そうかなー?」
すぐ近くから伊緒と莉愛の声が聞こえる。
どうやらこれは夢ではないようだ。
それならと俺はゆっくり目を開いていく。
すると俺の体はすっぽりと砂に覆われていた。
「な、なんだこれ!?」
思わず声をあげてしまう。
「あっ、お兄ちゃん、起きた?」
「有場さん、おはようございます」
嬉しそうに笑顔を見せながら顔を出す伊緒と頭を下げてくる莉愛。
「あぁ、おはよう。……じゃない! どうして俺は砂に埋まってるんだ!?」
「それは伊緒ちゃんが……」
「うん、せっかく海に来たんだから砂に埋めるのも醍醐味の一つだよね?」
「そんな醍醐味はいらない! とりあえず砂を退けてくれ!」
「えー、もうちょっと埋まっていようよー」
「だ、ダメですよ! 有場さん、今砂を退けますね」
莉愛が必死に砂を退けてくれる。
そして、ようやく動けるようになると伊緒を睨みつける。
すると伊緒はいたずらが見つかった子供みたいに軽く舌を出してくる。
「ごめんね、お兄ちゃん……」
それでも隣にいる莉愛が睨みつけていたので謝ってくる。
「まぁ俺も遊びに来て眠っていたのは悪かったからな」
「うん、見ているだけでも顔が赤くなるほど熱々だったね」
口元をつり上げながら微笑む伊緒。
どこからかはわからないが、しっかり伊緒に見られていたようだ。
そのことをはっきりと言われて莉愛の顔が赤くなる。
「い、伊緒ちゃん!? どこから見ていたの?」
「えっ、ずっと向こうだよ?」
伊緒が指さしていたのは海の先だった。
「えっと、どこだ?」
「ずっと泳いでいった先だよ? これでも視力には自信があるんだよ。それにこれを使ったからね」
伊緒が取り出したのは望遠鏡だった。
まさか泳ぎながらそれを使ったのか?
「伊緒ちゃん、運動神経いいからね……」
ぽつりとあきれ顔で呟く莉愛。
運動神経がいいと言っても限度がある気もするが……。
「ただ、少し甘さが足りなかったね。キスの一つでもしたら良かったのにね」
「そ、そ、そんなことしませんよ! 人前では……」
顔を真っ赤にして莉愛が伊緒の頭をポカポカとたたき出す。
「いたい、いたいよ、莉愛ちゃん」
笑いながら頭を抑える伊緒。
それを見て俺は微笑ましい気持ちになっていた。
◇
「それでこれからどうするんだ?」
「あっ、私、ビーチボール持ってきたんですよ。一緒にしませんか?」
莉愛が膨らませてあるスイカのビーチボールを掲げてくる。
三人でビーチボールか……。トスをしあうくらいしかできなさそうだけどそれもこのメンバーだったら楽しいかな?
「いいね、ビーチボール。私の右手が火を噴くよー!」
伊緒がなぜかメラメラと燃えていた。
「いや、そんなに本気にならなくても……」
「お兄ちゃん、諦めたらそこでビーチボールは終了するよ!」
「うん、遊びなんだから終了しても良いと思うぞ……」
苦笑を浮かべながら伊緒の相手をする。
「わかったよ、それなら私対お兄ちゃんで勝負しようよ! 莉愛ちゃんは審判ね」
「えっと、私も参加……」
「頑張ってお兄ちゃんを応援してあげるといいよ」
「……!? そ、そうですね! 私、応援します!」
なぜか俺の後ろに回って目を輝かせている莉愛。
するとさっと執事の人が現れて小さなネットを張っていってくれる。
本当に準備が良いな……。
そんなことを思っているとビーチボールを掲げながら伊緒がサーブの準備をしていた。
「それじゃあいっくよー!」
ぐるぐると大きく右腕を回した後、思いっきりビーチボールを打ってくる。
すると、ビーチボールは山の軌道を描きながらゆっくりと飛んでくる。
伊緒の気合いから考えると拍子抜けするようなボールだった。
俺はビーチボールをしっかり見据えながら伊緒に返せるように準備をする。
初めはなるべくゆっくりした軌道を描かせた方がいいよな。
そんなことを考えていると俺の後ろから莉愛の声が聞こえてくる。
「有場さん、頑張ってくださいー!」
さすがにこんな状態で手を抜くこともできないか……。
俺はしっかり狙いをつけてビーチボールを打ち返す。
同じように山の軌道を描きながら伊緒の下へと返っていく。
それをしばらく繰り返す。
そして――。
「やったー、有場さん、一点先取ですね!」
莉愛が跳びはねて喜ぶ。
長い間、返しあっていたビーチボールは伊緒が打ち損じて決着が付く。
「ま、まだ一点だもん」
悔しそうに口を噛みしめる伊緒。
俺が点数を取ったことで喜ぶ莉愛。
どう動いても悲しませてしまうよな。それなら……伊緒には申し訳ないけど、俺は莉愛を喜ばせてあげたい。
だから、大人げないけど本気で相手をしよう。
少し疲れた様子の二人が戻ってきたので声をかける。
「はいっ、少し疲れましたので……」
「むむっ、今度は負けないからね!」
どうやら伊緒が勝負に負けてしまったようだった。
まぁ手と水鉄砲だから仕方ないだろう。
ただ、莉愛も伊緒もお互い笑いあっていたので問題はなさそうだ。
「とりあえず色々用意してくれたみたいだけど、そろそろ昼飯にでもするか?」
「そうですね」
「やっぱり海といったらバーベキューだよね!」
気がついたら用意されていたクーラーボックス。
おそらく執事の人が準備してくれたのだろう。
他にも網や炭といったものも既に準備されていた。
「もう焼くだけ……なんだな」
流石に準備がよすぎるなと苦笑しか浮かばなかった。
「よし、有場さんの分は私が焼きますね。美味しく仕上げてみせますよ!」
「それじゃあどっちが美味しく焼けるか勝負だね」
「ま、負けませんからね!」
いや、バーベキューに美味いも美味くないもないんじゃないのか……。
ただ、ムキになる莉愛の顔が可愛らしいので、それ以上何も言わずに見守ることにした。
そして、クーラーボックスから取り出してきたのは霜降りがかった肉だった。
前までだったら考えられなかったその肉は、莉愛と一緒に過ごすようになってから当たり前のように出てくるのですっかり見慣れてしまっていた。
まぁあまり量は食べられないんだけどな……。
いくらでも食べていいと言われて調子に乗って最初はガツガツと食べていたのだが、次第に胃にもたれてきて食べたくなくなってきたあの日を思い出す。
もうあんな無茶はしないから大丈夫だけどな……。
苦笑いしながら莉愛や伊緒が肉を焼いていくのを微笑ましく眺めていた。
そして――。
◇
「うぷっ……、さ、さすがにもう食えないよ……」
ひたすら焼かれた肉を俺の皿に積んでいく二人。
そして、どっちが美味しいですか? っと聞いてくるのだが、正直初めは差がないような感じだった。
すると勝負が付くまで……と言った感じにどんどん肉が積まれていってしまった。
正直数枚食べた後はもう味なんてわからなかった。
ただ、残して悲しませたくない一心でひたすら食べ続けていたのだが、さすがに永遠に積まれていく肉の山についには音を上げてしまった。
「そ、それよりも莉愛や伊緒は全然食ってないだろう。残りは二人で食うと良いよ……。俺はちょっと休む……」
さすがに胃がムカムカとする。
無理をしすぎたかなとビーチチェアでゆっくり休む。
◇
(莉愛)
「少しやり過ぎてしまいましたね……」
有場がチェアで休んだ後、伊緒と二人肉を食べながら申し訳なさそうな顔をしながら莉愛が告げる。
「そうだね、お兄ちゃんも人が優しいから私たちが入れたお肉は全部食べてくれたもんね」
「何かお詫びができないでしょうか……?」
「うーん、そうだね……」
伊緒が真剣な表情を見せながら悩む。
「あっ、そうだ! ちょっと莉愛ちゃん、耳貸して……」
伊緒が近付いてきて、こそこそと莉愛に話す。
「あのね……、今有場さんは食べ過ぎで疲れているからね……、だから、莉愛ちゃんが――」
◇
ふぅ……、少し休んだらちょっとだけマシになったか?
ようやく落ち着いてきたので、体を起こしてみるとなぜか莉愛がもぞもぞと恥ずかしそうにしながら近付いてくる。
「あ、あの、有場さん……、す、少しよろしいでしょうか?」
「どうしたんだ?」
「その……、有場さんがお疲れみたいでしたから……、その……」
何か言いづらそうにしている所を見ると伊緒に何か吹き込まれたのかもしれない。
「別に無理に何かしてくれなくてもいいんだぞ? もう動けるからな」
「いえ、せっかくですので私が有場さんの背中をさすってあげようと思いまして……。あとは、お疲れでしたらマッサージも一緒に……」
「いやいや、大丈夫だ! それに――」
莉愛の今の格好を見る。
肌の露出が少なめのワンピースとはいえ、水着なんだから体が密着すればその感触を露骨に味わうことになってしまう。
道理でさっきから莉愛が真っ赤になっているわけだ。
「そ、そんなわけにはいきません。有場さん、こっちに寝てください!」
こういうときの莉愛はやはり強情で無理やり俺を砂浜にひかれたレジャーシートのところまで連れてくる。
真っ赤になりながらも俺の腕をギュッと掴んで……。
水着でそんなことをするものだから莉愛の胸元当たりの柔らかい感触が――。
「ひ、引っ張らなくても自分で行けるから……」
その感触を抱いて俺は慌てて莉愛に言う。
しかし、彼女は半信半疑でギュッとしがみつくように掴んだ腕を放してくれない。
「放したら逃げませんか?」
「に、逃げないぞ。そ、それよりも今の格好でしがみつくと……」
俺の視線は莉愛の体へと向いていた。
そんな俺の視線を追いかけるように莉愛の視線もゆっくり俺の腕にしがみついてる自分の体へと向かう。
そして、一瞬で顔を真っ赤にして、離れようとする。
しかし、距離を開けずにそのまま逆に俺の方へもっと体を寄せてくる。
「あ、有場さんにならいいですよ……」
耳元で甘えるような声で呟いてくる。
そんなことを呟かれると理性のタガが外れそうになるが、側で伊緒がニヤニヤと見ていたので冷静になることができた。
むしろ、ここまで頑なな態度をとってくるのも全て伊緒が話したことなら納得できる。
「伊緒が余計なことを言ったんだな……」
「そ、そんなことないですよ。私は有場さんに喜んでもらいたくて……」
慌てふためく莉愛。
すると口裏を合わせるように伊緒も言ってくる。
「そうだよ、私は莉愛ちゃんに『お兄ちゃんにマッサージしてあげたらどうかな?』って言っただけだよ」
つまりそれ以上のことは莉愛が自分で考えて……?
「だ、だから、有場さん、覚悟してください」
莉愛が恥ずかしさのあまり目を潤ませながらジッと俺の顔を見てくる。
「あははっ……、私はお邪魔みたいだから少し泳いでくるね。あとはお二人で楽しんでね」
それだけ言うと伊緒は海の方へと向かっていった。
◇
向かい合う俺と莉愛。
お互い顔が赤くなっているのがわかる。
それでもなんだか目を離したらいけないような気がしていた。
「あ、有場さん……」
「莉愛……、その……、なんだ……」
するとギュッと俺の体に抱きついてくる。
まだ日も高い時間ながら、周りには俺たちしかいない。
だからこそ俺もそのまま莉愛を抱きしめ返すことができた。
ただ、すぐに顔を真っ赤にして莉愛は慌てふためいていた。
「そ、その……、うん、あ、有場さん、そうだ、マッサージ! マッサージをしますよ。そこに寝てください」
「そ、そうだな……。よろしく頼むよ……」
すぐに距離を離れたあと、俺はレジャーシートの上にうつ伏せに寝る。
すると良く家でしてくれているみたいに莉愛がゆっくり上に乗ってくる。
ただ、普段してもらっているときと違って水着の莉愛はその感触を露骨に感じてしまった。
それでも一生懸命に背中を押してくれる莉愛。
さすがにそんな彼女の気持ちを無碍にすることもできず、されるがままに背中を揉んで貰った。
その柔らかな感触に次第と瞼が重くなっていき、気がつくとそのまま眠りについてしまった。
◇
なんだか体が重い……。
さっきまで莉愛が揉んでくれていたはずなのにどうしてだろう?
それに身動きが取れない。まるで金縛りにあったみたいだった。
「ねぇ、伊緒ちゃん……、もう止めようよ」
「大丈夫だよ。海に来たのだからこれもしてみたかったんだよ……」
「でも、有場さんが――」
「きっとお兄ちゃんも喜んでくれるよ」
「そうかなー?」
すぐ近くから伊緒と莉愛の声が聞こえる。
どうやらこれは夢ではないようだ。
それならと俺はゆっくり目を開いていく。
すると俺の体はすっぽりと砂に覆われていた。
「な、なんだこれ!?」
思わず声をあげてしまう。
「あっ、お兄ちゃん、起きた?」
「有場さん、おはようございます」
嬉しそうに笑顔を見せながら顔を出す伊緒と頭を下げてくる莉愛。
「あぁ、おはよう。……じゃない! どうして俺は砂に埋まってるんだ!?」
「それは伊緒ちゃんが……」
「うん、せっかく海に来たんだから砂に埋めるのも醍醐味の一つだよね?」
「そんな醍醐味はいらない! とりあえず砂を退けてくれ!」
「えー、もうちょっと埋まっていようよー」
「だ、ダメですよ! 有場さん、今砂を退けますね」
莉愛が必死に砂を退けてくれる。
そして、ようやく動けるようになると伊緒を睨みつける。
すると伊緒はいたずらが見つかった子供みたいに軽く舌を出してくる。
「ごめんね、お兄ちゃん……」
それでも隣にいる莉愛が睨みつけていたので謝ってくる。
「まぁ俺も遊びに来て眠っていたのは悪かったからな」
「うん、見ているだけでも顔が赤くなるほど熱々だったね」
口元をつり上げながら微笑む伊緒。
どこからかはわからないが、しっかり伊緒に見られていたようだ。
そのことをはっきりと言われて莉愛の顔が赤くなる。
「い、伊緒ちゃん!? どこから見ていたの?」
「えっ、ずっと向こうだよ?」
伊緒が指さしていたのは海の先だった。
「えっと、どこだ?」
「ずっと泳いでいった先だよ? これでも視力には自信があるんだよ。それにこれを使ったからね」
伊緒が取り出したのは望遠鏡だった。
まさか泳ぎながらそれを使ったのか?
「伊緒ちゃん、運動神経いいからね……」
ぽつりとあきれ顔で呟く莉愛。
運動神経がいいと言っても限度がある気もするが……。
「ただ、少し甘さが足りなかったね。キスの一つでもしたら良かったのにね」
「そ、そ、そんなことしませんよ! 人前では……」
顔を真っ赤にして莉愛が伊緒の頭をポカポカとたたき出す。
「いたい、いたいよ、莉愛ちゃん」
笑いながら頭を抑える伊緒。
それを見て俺は微笑ましい気持ちになっていた。
◇
「それでこれからどうするんだ?」
「あっ、私、ビーチボール持ってきたんですよ。一緒にしませんか?」
莉愛が膨らませてあるスイカのビーチボールを掲げてくる。
三人でビーチボールか……。トスをしあうくらいしかできなさそうだけどそれもこのメンバーだったら楽しいかな?
「いいね、ビーチボール。私の右手が火を噴くよー!」
伊緒がなぜかメラメラと燃えていた。
「いや、そんなに本気にならなくても……」
「お兄ちゃん、諦めたらそこでビーチボールは終了するよ!」
「うん、遊びなんだから終了しても良いと思うぞ……」
苦笑を浮かべながら伊緒の相手をする。
「わかったよ、それなら私対お兄ちゃんで勝負しようよ! 莉愛ちゃんは審判ね」
「えっと、私も参加……」
「頑張ってお兄ちゃんを応援してあげるといいよ」
「……!? そ、そうですね! 私、応援します!」
なぜか俺の後ろに回って目を輝かせている莉愛。
するとさっと執事の人が現れて小さなネットを張っていってくれる。
本当に準備が良いな……。
そんなことを思っているとビーチボールを掲げながら伊緒がサーブの準備をしていた。
「それじゃあいっくよー!」
ぐるぐると大きく右腕を回した後、思いっきりビーチボールを打ってくる。
すると、ビーチボールは山の軌道を描きながらゆっくりと飛んでくる。
伊緒の気合いから考えると拍子抜けするようなボールだった。
俺はビーチボールをしっかり見据えながら伊緒に返せるように準備をする。
初めはなるべくゆっくりした軌道を描かせた方がいいよな。
そんなことを考えていると俺の後ろから莉愛の声が聞こえてくる。
「有場さん、頑張ってくださいー!」
さすがにこんな状態で手を抜くこともできないか……。
俺はしっかり狙いをつけてビーチボールを打ち返す。
同じように山の軌道を描きながら伊緒の下へと返っていく。
それをしばらく繰り返す。
そして――。
「やったー、有場さん、一点先取ですね!」
莉愛が跳びはねて喜ぶ。
長い間、返しあっていたビーチボールは伊緒が打ち損じて決着が付く。
「ま、まだ一点だもん」
悔しそうに口を噛みしめる伊緒。
俺が点数を取ったことで喜ぶ莉愛。
どう動いても悲しませてしまうよな。それなら……伊緒には申し訳ないけど、俺は莉愛を喜ばせてあげたい。
だから、大人げないけど本気で相手をしよう。
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