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しおりを挟む空襲はもう来ないのだと、姉が言った。
もう何も燃えたりしないと、姉が言った。
ああ、よかった。
心穏やかに、待つだけの暮らし。
ゆっくりと呼吸を繰り返せば良いだけの毎日。
そう、思っていたのに。
やっと、帰ってきてくれたと思っていたのに。
灰色の部屋。
見えない時間。
あの桃色の空気から守ってくれた壁。
外の世界と、いつの間にか何かがズレていた。
だって、だって。
あの人は、もう一度、私の前で、サヨウナラと言ったのだから。
帰ってきた途端、またどこかへ去ろうとしたのだから。
ずっと、約束どおり待っていたのに。
姉は当惑した顔で私を見た。
貴女には分かるまい。
いや、もしかしたら、あの人は。
私の顔を忘れてしまったのだろうか。
それほどまでに月日が経っていたのか。
花弁が舞う中を去ったあの人。
腕が動かぬ。
ただの木片が体に結び付けられているようだ。
声も出ない。
私の肺はこうなるまで、余計なものを吸い込み続けてしまった。
咳が出る。
涙になる。
待って。
いかないで。
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