君よ、土中の夢を詠え

ヒロヤ

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十月二十九日(土)見つけたものは

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「よし、宝探しに再び出発!」

 威勢よく拳を振り上げた宇佐見の後を付いていくと、路上駐車した水色の軽自動車があった。

「あれは、フジさんの……」

「チビ書士は仕事なんだって。だから、車だけ借りたんだ」

「ありがとう、ウサさん。また付き合わせてしまって、ゴメン」

「いいのいいの!オレ、すごく楽しみだから」

 宇佐見の淡く茶色い瞳が笑う。

 白井は、楽しくなるものが発見できればいいけれど、そう言いかけてやめた。今は、力になってくれる気持ちだけ大事にしたいと思った。

 友人につられて笑みを浮かべる。

「ウサさんの推理どおり、やっぱりあの歌はフクさんが詠んだものみたいなんだ」

「ホラホラ!だから言ったでしょうよ」

「でも、聞き取りながら実際に母さんが書き残したものが、どこかにあるはずなんだ。それが見つかったら、確定だと思う」

「それで、フクちゃんは、やっぱりアサトが好きだったの?」

「アサトって、僕じゃないよ……」

「あ、そうか。アサト大伯父さんだった」

「たぶん、そうなんだろうね」

 白井は、病室で自分の名前をフクに呼ばれた時を思い出してみた。

 ――似ているのかな。

 しかし、自分の顔は母親似だと言われ続けてきた。だいたい、前髪を長く伸ばしているのだから、顔など見えてないはずだ。

「でも、これから何かお宝が出てきても、フクちゃんがボケちゃっているなら、今さらなのかなあ」
 宇佐見がもっともなことを軽く言ってのけた。白井自身、敢えてそこは考えないようにしてきたが、やはり誰もが感じることなのだろう。

「うん……自己満足だよね」

「アサトが満足できるなら、それで良いよ」

 意外な答えが友人から返ってきた。

 車はゆっくりと県道へ向かう。

「暗くて潰されそうなアサトが、何かに向かって前を進めるなら、それで良いんだよ。あ!オレ、すごくカッコ良いこと言ったぞ!」

「ウサさん」

「葬式だって、残された人間の自己満足、要はケジメでしょ。美津子さんの遺品を見つけたアサトが、ケジメつけるためにやれることがあるなら、徹底的にやれば良いんだ」

 この友人に力をもらうのは何度目だろうか。
 今だけじゃない。
 高校時代、クラスメートからも避けられていた根暗な自分に、話しかけてくれたのも宇佐見だった。

「ありがとう。ウサさん」

「うんうん、今度お礼してね。誰か可愛い子紹介して」

「それは難しいかもしれないけど、僕も……ウサさんの夢を応援したい」

「そこなんだよねぇ」

「……まだ、検察官になるかどうか悩んでるの?」

「うん、あれってさ、裁判終わって刑が確定したら、もう仕事終わりな気がしてさ」

「え?」

「何か……いや、何でもない!また今度話すよ」

 宇佐見はスピードを上げた。



 実家の玄関前に着いた時、白井の携帯が震えた。

 液晶に映し出されたのは、埼玉の伯母、杉浦恵子の番号だ。先日、白井の部屋を訪ねてからもちょくちょく連絡をくれるようになった。伯母なりに、何かしてやりたいという想いがあるのだろう。そういう経緯もあり、白井は実家の仏壇を整理することを、昨日のうちに伝えておいたのだ。

「もしもし……」

 杉浦です、相手が応えた。

 白井は、宇佐見に小さく詫びのポーズをすると、何と友人は電話に耳を寄せてきた。白井は人差し指を口元に立て、宇佐見を牽制する。

「麻人くん、悪いんだけどね、お願いがあるの。たいしたことじゃないんだけど」

「はあ。何でしょう」

 恵子の声の後ろから子供の声が聞こえてきた。

「孫が来ているのよ。何か学校の宿題とかで、昔の道具だとか、本だとか、古いものを持ってくるように言われたんだってさ。……あ、ダメでしょ。お祖母ちゃんがお話をしているんだから」

 時々、孫をたしなめる声もする。白井は思わず笑みがこぼれた。

「えっと、古い道具ですか……」

「そうなの。それで、私の家にはなかなかなくてさ。白井の実家ならあると思ったのよ」

 確かに、あそこは何かありそうだと思われる古さだ。庭の隅にも物置がある。

 何が入っているのか、白井自身も気になった。

「何しろ、ずいぶん昔からある家でしょう。うちの母さんは何でもとっておく人だったからね。さすがに、鍬や鋤は孫に持たせられないけど」

「うんうん、そうですね」

 突然、宇佐見が勝手に相槌を打った。白井は友人を軽く突き飛ばすと、伯母の怪訝そうな声がした。

「麻人くん、誰か一緒なのね?」

「はあ、高校時代の友人です。一緒に、掃除を手伝ってくれるんです。だから、多少重たい物でも、持ち出せますよ」

 白井の小さな反撃に、宇佐見はなおも声を張り上げた。

「立派な古家だから、埋蔵金とか出てきちゃったらどうしましょうか?」

 それには、電話の向こうの恵子が笑った。

「残念だけど埋蔵金なんかは出ないわよ。せいぜい招き猫くらいでしょうね」

 白井も釣られて笑ってしまう。
 何だかんだ、宇佐見と恵子に、また心を少し軽くしてもらった。

「麻人くん、とりあえず中に入ってもらえる?」

「わかりました」

 バッグから鍵を取り出し、建て付きの悪い玄関を開けた。
 この前と何も変わらない。薄暗い廊下が見える。今日の方が曇りだけあって、闇は完全に払われない。

 恵子の指示で、白井と宇佐見は奥にある右側の衾を開けて部屋に入る。

 広い和室だ。
 雨戸を少しだけ開けた。
 畳は完全に変色してしまっている。

「麻人くん。そうしたらね、床の間があると思うのよ」

「あります」

「そこに小さい道具入れがない?」

「道具入れですか」

 そこには床の間があるだけである。
 これもまた変色した掛け軸が垂れ下がっているが、その他には目ぼしいものがなかった。

 見当たらない、と恵子に伝えた。

「あら、どこにしまったのかしら。その中にね、昔の写真とかあったはずなのよ。古いものといったら、白黒写真が一番わかりやすいでしょう?それが良いと思ったのに」

「他も見てみましょうか」

 隣の部屋も同じくらいの広さだった。
 床の間はないが押入れがある。思い切って開けると、大きな風呂敷が入っていた。手触りからして、布団のようだ。

 宇佐見が懐中電灯を取り出し、押入れの奥を照らす。

 下段には座布団や毛布やらがギッシリ入っており、上段には箱が積まれていた。軽くゆすってみるとガチャンと音がした。きっと茶碗だ。この押し入れの中だけは母も整理が追いつかなかったのだろう。

 しかし、道具入れは見つからない。

 足を踏み出すたびにギイギイと音が鳴る。その大きさに思わず忍び足になってしまう。 ところが宇佐見は容赦なく音を鳴らした。

「アサト、二階じゃないの?」

 友人は天井に手を付きながら(届いてしまうらしい)言った。

 伯母に聞いてみると、ため息まじりに答えが返ってきた。

「二階は美津子さんが使っていたから違うと思うのよ。じゃあね……麻人くん、台所の方に行ってもらえる?」

 恵子に言われるまま、台所を進むと、その先にある左の部屋と言われた。

 ここは完全に真っ暗だった。
 外の光も雨戸を開けない限り届かない。

 ここには――。

「そこに、古い仏壇があるでしょう?ウチのお母さんは、仏壇の近くに何でも大事なモノしまっておく人だから、きっとそこだわ」

 ――おばあちゃんも、大事な物は仏壇にしまう人だったのか。

 案外、母が祖母の真似をしたのかもしれない。あの二人は仲が良かったそうだから、そうとも考えられる。白井はどこかおかしくなった。

 懐中電灯を照らす。
 黒い影を浮かび上がらせながら大きな仏壇が左の隅から目の前に現れた。

「あ、ここにフクちゃんの秘密が……」

 宇佐見が声を上げる。白井は、それを制した。

「今は、伯母の方を優先していいかな。ごめん」

 友人は気にする風もなく、コクコクうなずいた。

「麻人くん、その下に戸棚があるから見てくれる?」

「開けて平気なんですか」

 ずっと、母親に触るなと言われ続けた仏壇だ。反射的に身が固まる。

「大丈夫よ。大事っていっても、小判が出てくるわけじゃないから」

「はあ……」

 伯母の言葉に少しガッカリした自分がいる。なぜだかわからないけれど。

 懐中電灯で仏壇を照らした。木目がやたらはっきりと浮き出ている。そういうデザインなのか、明かりを近づけると仏壇自体はたいして黒くないようだ。色落ちしているのかもしれない。
 土台として置かれた棚には、金属製の黒い輪飾りが二つ並んでいる。
 観音開きの取っ手だ。

 伯母の声が聞こえてきた。

「どう?麻人くん」

「は、はい」

 思い切って開けてみたが、中身は――空だった。

「伯母さん、何もないです」

「え?何も入ってないの?嘘っ」

「本当です。綺麗に空っぽです」

 懐中電灯を上に向けると、仏壇の扉も閉まったままだ。

 ――。

 白井は、仏壇を前に正座し。正面の戸をゆっくり開けると、中には仏具がそのまま置かれていた。
 
 急に、何ともいえない申し訳ない気持ちが沸き起こる。

 ――ずっと、放って置いてすみません。

 この言い方が正しいものかはわからない。ただ、素直にそう思った。

 膝をつき仏壇に手を合わせ、白井は、大きく息を吐くと、懐中電灯をそっと向ける。
 すぐに、遺影の数々が光の中に浮かび上がり、白井の身体は硬直した。

「麻人くん?どうしたの」

「すみません。遺影を見つけたもので……」

「さすがに、いくら白黒でも遺影写真はダメだわ。それにしても、どこにいっちゃったかしら」

 伯母が電話の向こうでブツブツ言っている。

 並んだ写真を白井はじっと見つめた。後ろから宇佐見が覗き込んできた。

「アサトのご先祖さんだね」

 祖父母が二人で並んだ写真の後ろに、もう一枚立てられていた。

 これは軍服だろうか。一人だけ男性が写っている。

 ――。

 ある確信を胸に、白井は埃を払い懐中電灯で照らした。

「……似て……」

「ないよ、全然。メッチャ男らしい大伯父さんだね」

 長身の引き締まった身体、精悍な顔つき、凛々しい口元、そして――優しそうな目。
 自分の先祖とは思えない。本当に遺伝子を引き継いでいるのか――。

「……父さんやお祖父ちゃんは、少し面影あるかな」

 そういうことにしよう。

 白井は、先祖の遺影写真をそっと戻した。

「もしかしたら……そうだ。麻人くん」

 恵子の声が耳に響く。

「うちの母さんったら、そのままだったのかもしれないわ」

「どうしたんですか」

「昔ね、私がこっちに嫁いだ頃だったかな。その辺で空き巣騒ぎがあったのよ」

「そんなことがあったんですか?」

「そうなの。それで、うちの母さんが怖がってねえ。昔の人だし、そこにあった大事なものを全部隠しちゃったのよ」

 その気持ちはわからないでもない。

「とっくに犯人は捕まってさ。もう大丈夫だって言ってるのに、今度はそれを出して片付けるのが面倒になっちゃったみたいなのよ。どうせ、大事なものなんだから、一緒くたにしておけばいいとか言い出してさ」

 それを聞いた宇佐見が声を上げて笑った。

「本当に宝探しになっちゃったぞ」

 それが聞こえたのか、そうでもないのよ、と伯母も笑った。

「場所はわかってるの。裏庭の物置。確かにゴチャゴチャしているから手をつけたくないのはわかるけど」

「じゃあ、そっちも見てきます」

 やだ、悪いわよと恵子は言ったが、物置の鍵は壊れて、簡単に針金と木片で止めてあるだけだと教えてくれた。

 仏壇の部屋を出て、他の部屋の雨戸を閉め直すと、白井と宇佐見は小走りで玄関へ向かう。外の明るさに目が眩んだ。物置は白井の身の丈より高く、意外に大きかった。扉はこれも観音開きのようになっており、伯母が言うとおり針金で簡単に閉じられているだけだった。まさか、こんな質素なバリケードの中に、貴重品が入っているとは泥棒も思わなかっただろう。

 針金を解いて、扉をゆっくり開ける。

 埃が舞った。思わず顔をそむけてしまう。宇佐見も後ろ手咳き込んでいる。
 まず目に入ったのは、大きな樽だ。
 その横にも小さな樽がいくつか積まれている。
 一体、何に使っていたのだろう。
 そして、恵子が言っていた鍬や鋤、砂袋などが納まっていた。

 それを伝えると、

「昔は畑なんかもやっていてね。少し土地が余っていたのかしら。ご近所の誰かにも畑を貸したりしていたわ」

 恵子が懐かしそうに言った。

 その言葉に、ふと大伯父が眠る小さな墓地が思い浮かんだ。

 ――きっと、土地の貸し借りの流れで、持ち主が曖昧になってしまったんだろうな。

「それで麻人くん、道具入れは見当たらないかしら?」

「あ、はい。ちょっと探してみます」

 砂袋を一つずつ取り出した。やたら数が多いが、おそらく、これが目隠しなのだろう。奥まで積まれていて、取り出すのが大変だ。祖母が空き巣怖さに砂袋を詰め込んでいる様子を思い浮かべて笑いそうになった。

 埃にまみれ、赤茶色の道具入れが見える。
 引き出しが二段ついている小さいものだった。

「伯母さん、ありましたよ」

 本当よかった、と恵子が安堵の声を上げた。

 ゆっくり引き出しを開けると、なるほど、白黒写真がそのまま乱雑に入っていた。昔のお祭りの風景や、海水浴の時の写真など、誰だかわからない写真ばかりだが、これで良いのだろう。

「そのまま運び出しちゃおうよ」

 宇佐見に言われ、白井は道具入れを前に引き出した。

 その時、ちょうど道具入れが収まっていたあたりから、物が落ちる音がした。白井の足元にはゴロゴロと野球ボールが転がってくる。

「あ、やっちゃった……」

 さらに、紙の束が崩れるような音も聞こえた。

 白井はため息をついた。

「伯母さん、写真はありました。ただ、少し片付けて帰るので、僕からまた連絡します」

「あら、大丈夫?お願いしますね」

 白井が恵子との電話を切ると、宇佐見が咳き込みながら笑った。

「さっさと片付けよう。オレたちの喉もヤバいよ」

「うん」

 白井も埃に目を細めながら笑った。

 宇佐見は転がってきた野球ボールを適当に中へ放り投げると、倒れていた木材を起こして立て掛けた。その木材が斜めになっていた場所に、紐で結ばれた書類が出てきた。

「あ!」

 一番上の紙を見て、白井も宇佐見もぎょっとした。

 この感じは見たことがある。

 紐で綴じられた不動産の権利証だった。白井が母の箪笥から見つけた墓地の権利証と同じくらいの古さだ。

「これは、一応伝えておこうかな」

 白井は慌てて伯母の恵子に電話をかけ直した。

「伯母さん、権利証が出てきましたよ」

 しかし、恵子は何ということもない感じだ。

「あ、それね。全部売っちゃったものだから、大丈夫よ。書いてあるのも畑とかでしょう」

「でも、大事なものじゃないのですか」

 すると、平気平気と笑い声で返された。そして、感慨深げに恵子が言った。

「それにしても、うちのお母さんは本当に何でもかんでも物置に押し込んでいたんだね」

「確かに、他にも色々あります」

 古びたノートや斜めに折れ曲がった領収書のようなものもたくさん出てきた。

「これ、何かな」

 宇佐見が大きな封筒を手に取った。中にはやはり紙がたくさん入っている。

 他にも封筒がたくさん出てきた。

「あ、麻人くん」

「はい」

「あるかどうかわからないけどね、お手紙とかも一緒にないかしらね」

「ちょうど見つけました。封筒がたくさん。これは、白井シノ様って書いてあるな……」

 シノは祖母の名前だ。

「あら、私が書いた手紙かしら」

 裏返すと、差出人は杉浦恵子となっていた。それを伝えると伯母が嬉しそうな声で笑った。

「……本当に懐かしいわ」

 大事に取って置いてくれたのね、恵子が感慨深げにつぶやく。それには、白井も胸を温かくした。

 その横で、宇佐見が紙の山と格闘をしていた。

「アサトの恥ずかしい絵日記とか、恥ずかしい版画とか出てこないかな」

「空き巣があった頃だと、僕はまだ生まれてないはずだから、出てこないと思うよ……たぶん」

 宇佐見は整理をしているつもりなのだろうが、かえって散らかり始めた。

 その中で、鈍い光が反射した。

 茶封筒の間に挟まって、白い紙がのぞいている。
 中央に細い銀色の紐のようなものが見えた。


 ――。


 ごわごわした紙を、白井は恐る恐る引っ張り出した。


【御霊前】


「う、あ」

「アサト、どうしたの?」

 驚いた宇佐見が振り返る。

 白井は、土で汚れた香典袋を見つめた。

 うっすらと、内側に文字らしき跡が見える。

 震える手で水引を外し、そっと広げてみた。

 弱々しい文字が、そこには。



 如月の。



「き、っ」

 声がひっくり返る。

 それが聞こえたのだろう、電話越しの伯母の声も緊迫した。

「ど、どうしたの!」

「う、歌が」

「歌?」

「あ、いえ。何でもないです……」

 白井はどうにか心を落ち着けた。
 そもそも恵子に話すことではないし、何より上手く説明できない。

「麻人くん、歌がどうしたの?」

 伯母の恵子に問い詰められ、白井は咄嗟に出まかせを言った。

「す、すみません、ムカデが出てきて驚いてしまって。でも大丈夫です」

 この場をやり過ごさなくては。

 しかし、意外な言葉が伯母から聞かされた。

「もしかして、あの歌の紙も一緒にしていたのね。困った人だわ」

 ――。

 電話に耳を寄せていた宇佐見も怪訝な顔をする。

 白井は震える声で伯母に尋ねた。

「そ、それはこの香典袋の」

「香典袋がどうしたの?歌の話じゃないの?」

 まるで、かみ合わない。
 妙に息苦しい。

「あの、えっと……」

「歌があったんでしょう?大きな袋の中に」

「袋?」

「袋って、あの封筒のことかも!」

 宇佐見が再び座り込んで砂袋をどかす。

 恵子の、のんびりとした声が届く。

「そうそう。その袋は父さんが仏壇にしまっていたのよね。本当に何でもしまっちゃう人たちだったんだから」

「父さんって」

「ああ、麻人くんの怖いお祖父さんよ。誰からか知らないけど、大量に預かったらしいのよ。大事なものだって。中身を見せてもらったことあるけど」

 ――まさか。

 白井も片手で砂袋をどかすのを手伝った。

 ――フクさんが、大伯父の麻人に贈ろうとした歌集だ!

 その時だった。

 白井の背後にあった、別の封筒の束が右から突然崩れてきた。
 
 心がささくれ立つ。無性に腹が立った。

 その山を乱暴にどかして、白井は封筒を探す。

 
  ――【伊】――。


 反射的に手が、息が止まった。

 たった今どかした別の封筒の束に『伊藤』という文字が見えている。

 紐も解かずにそれを引っ張り出した、


 【伊藤フク様】


 少しだけ厚みのある手紙。

 ひっくり返すと、そこには差出人の名前。


「白井麻人」


「突然、自己紹介してどうしたのさ……アサト?」

 宇佐見が笑いながら振り返った。

「麻人くん、見つかった?ねえ、その大きい封筒にたくさん紙が入ってるでしょう」

 左の耳には、恵子の声が響く。

 慌てた顔の宇佐見の動きがひどくゆっくりに見える。

 伯母には返事が出来ない。相手がかまわず喋り続ける。

「何でも、大量の歌の紙は麻人伯父さんに宛てたものだとか言っていたわ。でも、宛名もないのに、どうしてそんなことわかるのかしら。私も見せてもらったことあるけど筆で書いてあるから読みづらいのよ。だってさ、平仮名しか書いてないんだもの」


 体中に鳥肌が走っていく。

 白井の目は白井麻人の名前に釘付けだ。

 大きな封筒を抱えた宇佐見が、白井の手元を見ると、困ったように笑った。


「本当に、ロマンチックなお宝が見つかっちゃったね。さあ、大変だ」
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