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プロローグ

005 使用人なキマイラ

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 ふと、意識が覚醒する。
 身体に新たな力が根付き、脈動するのが分かる。改造は問題なく成功したようだ。
 フラスコの外に、自らの主が微笑んでいるのが分かる。彼女はフラスコ内の魔力液を排出すると、ガラスの扉を開いて俺を外に出す。
 
「どうだい、新たな力は? 肉体、そして君の心臓――石に根付いているのが分かるだろう?」

「ああ、悪くない気分だ。試すか?」

「そうだね、でもその前に――例の魔装。アレも施しておいたから試すといい」

 魔装――ああ、アレか。今回みたいに服がぶっ壊れると真っ裸になって困るから、魔法で装備を創れるようにするっていうアレか。
 なるほど、確かに新しい機能が搭載されてるみたいだ。試してみるか。
 
「ええと――おお、なるほどいい感じだ」

 俺が念じると、一瞬でいつもの装束が装着される。これは便利だな。
 これで前みたいなことがあっても大丈夫、真っ裸じゃないから恥ずかしくないな。
 
「うむ、やはりその恰好が一番カッコイイな我が最高傑作。異界の戦神を思わせる造形美だ」

 んなことを言ってくるが、コイツはこれが平常運転だ。やたら俺を褒めてくるのだ。いや、俺をデザインしたのは彼女なので、もしかしたら自分のセンスに酔っているのかもしれない。
 
 そういうと、イルシアは心外そうに口を尖らせる。

「むう、確かに私が最高最強の錬金術師であることは認めるが、それでも君を素晴らしいと思うのは純粋な気持ちからだ。君の魂が無ければ、その肉体も動かないのだ。故に、君自体が美しいのだ」

 コイツ、よくもこんな歯の浮くようなセリフを素面で言えるな。
 まあいい、バカ錬金術師の独白に付き合うよりもやることがある。
 
「一通り、やることやったら性能を試してみるぞ」

「うむ! ……やることってなんだい?」

「そりゃあ、家事全般だろうが。お前、ほっとくとすぐ散らかすし。飯も作らんといけないし」

 飯、という言葉に反応したのか、先ほどまで眠そうにウトウトしていたオルとトロスが起き上がり、俺の顔元まで近づいてくる。

「ゴハン? ゴハン?」

「オイ、飯ノ時間カ? オイラ、飯食ベタイゾ!」

「はは、私もルベドが作るご飯が食べたいね。オルとトロスもお腹を空かせているようだし、悪いが頼むよルベド」

「分かってるよ、だから食堂でじっとしてろよ?」

「分かっているとも! 私を誰だと思っているのだね? 最強最高天才錬金術師、イルシア・ヴァン・パラケルススだぞ?」

 バカな口上をする女の首根っこを掴み、俺は彼女を引きずって屋敷の食堂まで移動する。

「いたっ! コラ、何をするんだい!?」

「いや、なんかイラって来たから……」

「ひ、酷いぞ!」

「うっさい、ほら座れ」

 豪奢な造りの食堂にある長テーブル、その上座に彼女を座らせる。

「いいか、ここで大人しくしてろよ。書類持ち込んだり、変な実験器具を机に置いたりすんじゃねえぞ」

「わ、分かっているとも。私は天才錬金術師なのだぞ?」

「もう聞き飽きたぞ、その口上」

 俺はイルシアを食堂に置いて、厨房へ向かう。

「何作ルノ? 何作ルノ?」

「オイラ、アレガイイゾ! エエット、『ハンバーグ』ッテヤツ!」

「何作るかは、材料見て決めるんだよ」

 俺はやたら高機能かつ近代的な――この辺は俺から色々地球のことを聞いたイルシアが改装した――厨房に立つ。保存庫、もとい冷蔵庫――実際は中を時間停止処理している為、前世のそれより高機能――を開き、中の食料を検分する。
 
「ふぅん……そうさな、んじゃ、だいぶ適当なモンになるが――」

 俺は材料を取り出し、並べた。
 
「まずは――お、そういや、アレ使えるんじゃないか」

 俺は新たに得た力――アルデバランの因子を使ってみることにした。

「――〈部分変異・アルデバランのかいな〉」

 変異を行った瞬間、背中から悪魔の腕が二本生えてくる。筋骨隆々で黒い鱗が目立つ腕だ。アルデバランの腕は、何故か俺の頭を撫でたり抱きしめてきたりする。

「うわ、キモイ」

 思わずそう口から出てしまう。俺の腕が四本になるのもキモイが、この腕の反応がキモイ。
 
「やめろバカ。言う事聞け」

 四苦八苦して悪魔の腕を引きはがし、何とか制御下に加える。コイツもまた面倒な性質を持ってるな。
 とりま、手が増えた(物理)ので、料理をテキパキとこなせるだろう。
 
「よし、やるぞお前ら」

「ハイ、ハイ!」

「ヨッシャ、飯作ルゼ!」

 俺がそういうと、双子の蛇がやる気に満ち、アルデバランの腕もガッツポーズをする。勝手に動かないでほしい。
 まあそれは兎も角、調理は順調に進む。
 俺が材料を切り、アルデバランの腕で鍋をかき混ぜたり、フライパンを返したりして、双子の蛇で皿を並べる。
 いいな、手が増えるのは。うむ、こんな感じならあと二本あってもいいぞ。
 そんな感じで、俺はいつもの倍くらいの速さで飯を用意できた。
 
「出来たぞ」

「おお! ……ってルベド、それ!」

「ああ、いい感じだぞ、ほら。コイツも喜んでいる」

 両手と追加の腕に皿やら鍋やらを持った俺は、驚愕するイルシアに出迎えられる。

「新たな因子を、そんな風に使うなんて……」

「しょうがないだろ、普段使い出来るのが悪い。戦いより、日常生活で役立つモンの方が使いどころ多いのは当たり前だろうが」

「うう、そうだが……」

 イルシアが呻いている間にも、俺はテキパキと配膳を済ませる。

「よし、食っていいぞ」

「ワーイ! ワーイ!」

「美味ソウ! 美味ソウ!」

 はしゃぐ蛇共は、器に顔を突っ込んで、特製ジャンボハンバーグをむさぼり始める。

「おい、もっと味わって食え。あとそんな食い方すると汚いぞ、もうちょい丁寧に食えないのか?」

「美味イ! 美味イ!」

「肉! 肉美味イゾ!」

「聞いてねえな」

 バカな蛇共が食らいつく器をひっくり返さないように気を遣いながら――この辺は身体を共有するキマイラの不便な所だ――イルシアの隣に立つ。
 彼女の前には焼きたてのパンに、具沢山のポトフ、ベーコンなんかを入れたキッシュ、あと香味野菜を用いたハンバーグがある。彼女は順に手を付け、口に運ぶ度目を輝かせる。

「美味いっ! これもっ……実に美味! 流石我が最高傑作だ!」

「そうか、口元やばいことになってるぞイルシア」

 適当に付き合いながら、俺は適時イルシアの世話をする。口を拭いたり、零したモン綺麗にしたり。
 空になったコップに水を注いだり、お代わりを所望されたら配膳したり。
 アレ、俺って使用人だったっけ。
 ……まあいい、元よりキマイラなんぞ使用人みたいなモンだ。多分違うだろうけど、ここでは違わないのだ。
 
「ふぅ……とてもおいしかったよ。ありがとう、ルベド」

「おう、片づけたら風呂と掃除も済ませるぞ。だから……これでも食ってもうちょい待て」

 そういって、俺は用意していた果実のコンフィを出してやる。これで食い終わるまでは大人しくなるだろう。

「おお! 甘いモノだ!」

 案の定この単純な女は、目を輝かせて食いつく。
 よし、今のうちに洗い物とかを済ませるか。
 ……そういった雑事を済ませる時にも、新しい腕は役に立つ。一方で洗い物をしながら、一方で収納する。非常に便利だ。
 家事を行う中で、手が足りないと思う事は多々あった。正しく手が増えてくれたおかげで、とても楽になった。この因子はいいものだ。
 
「悪くない……悪くないぞ」

「何ガ? 何ガ?」

「バカ野郎、ハンバーグニ決マッテルダロ!」

「違う、新しい変異だ」

 俺の突っ込みを受けて、蛇共はキョトンとした顔をする。本当にバカだなコイツら。
 ま、そんな所が可愛いんだが。
 ちなみに、こういうことを口に出したり、思念に乗せたりすると蛇共はすぐに調子づくので、間違っても言わない。
 別にツンデレとかじゃないぞ、そんな古いキャラ付けはしていないからな。
 
「変異といえばルベドよ」

 何故かイルシアは、いつの間にか厨房に空になった皿を持って来ていた。珍しく殊勝な心掛けだ。
 
「その腕の性能、試したいとは思わんかね?」

「思ってるのは主にお前だろイルシア」

「うっ……だが君も少なからず気になっているハズだ」

「ま、それはそうだが」

 何せ自分の身体の事だ。気にならんワケがない。
 
「だから試験場で試そう。そうした方がいい。そうしよう」

「……分かったよ」

 しょうがないので、色々やり残した家事があるのだが――先に主の実験に付き合うことにした。

 


 所変わって試験場。ここは屋敷の地下にある。
 広々とした空間且つ、多数の魔術処理によって頑丈になっている。
 多少手荒な実験をしても、問題無いというワケだ。
 
「さて、その腕の性能を説明しよう」

 非常に得意げなイルシアが、指を立てて指南し始める。

「新たなる変異因子、アルデバランの腕。君も試した通り、普通の腕として様々なことに利用できる。更には部分変異も及ぶ為、魔眼を腕に生やしたり、爪を鋭利にしたりすることも可能だ」

「へえ、それはいいな」

「だろう? さて、一番の特徴。それは魔法だ。君もアルデバランの魔法には苦労しただろう。ヤツが使用した数々の魔法は、君に因子として組み込まれている。腕自体に詠唱させ、発動可能なのだ。君本人は、小難しい詠唱や演算の必要もない。腕無しでも魔法を使えるようにはなっているが、その場合はちゃんと詠唱なり、なんなりをしないとダメだから、腕の変異に任せることを勧めるよ」

 ふむ……魔法か。確かに、俺の記憶領域にはアイツが使ってきた魔法や、使ってこなかった魔法――数々の術式が記録されている。
 この魔法を腕に使用させる? 説明だけでは要領を得ない。何事も実践、まずは試してみよう。

「ふむ……ええっと――うお!」

 俺が使いたい魔法を念じると、アルデバランの右腕に魔力が収束し、独りでに印を切って術式を構築し始めた。
 
「コイツ勝手に魔法使い始めたぞ、キモっ」

「だからそういっただろうに」

 遂には独りでに術が完成し、右腕は燃え盛る巨大な火球を創り出し、それを弄んでいた。

「元素系統第三位階――〈火球ファイアボール〉だね。しかし見事だ。低位階の魔法だが、君の魔力で用いればここまでの術になるのだな」

 イルシアが感心したように言った。なるほど、これはいいな。遠距離攻撃の手段が出来たのは便利だ。
 
「ふうん……ほいっと」

 俺の手でクイっと指を動かすと、アルデバランの腕も連動するように動き、火球が飛んだ。十数メートル先に着弾すると爆裂し、炎と炎熱、爆音が試験場に響き渡る。中々の破壊力だ。
 
「炎、炎! アツイ、アツイ!」

「燃エテルゼ! アツイゼ!」

「他にも色々あるな……中でもヤバイのは、例の術だな」

「ああ、〈星火燎原ブラスティング・レイ〉か。流石にここでは試せないね」

「アレが使えるってのは、心強いな」

「いつか試してみよう。ふふ、楽しみだ」

 その後も俺たちは、いくつかの魔法を試し、新たなる因子を存分にテストした。
 テストが終わった俺たちは、汚い研究室や屋敷やらを片づけたり、風呂に入っていない不潔なイルシアを洗ったりして一日を過ごした。
 



 ――やがて運命の時が訪れる。知っていたハズの定め。どれだけ身を隠していても、世界は無関心を貫いてくれないと。
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