暗転、そして

鴨緑 枝垂

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Ep.3

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痛みに顔をしかめる彼女はしくしくと泣き続けている。
激痛なのか、悪意なのか。
僕を見詰める彼女は言葉を紡ぐ。

「青磁さん、……どうして…?」

小さな薄桃色の唇が開かれ疑問を投げ掛けられる。
その疑問の意味が分からず、血で濡れた指を一舐めして答えた。

「死にたくないのにリストカットする人はさ、存在理由が欲しいって聞いたことあるから」

彼女は一瞬目を見開き、俯く。前に何かのテレビ番組で特集されたのを思い出す。
死にたいと思っているけど、死ねなくてやる人。存在理由が欲しくてする人。只、必要とされているのか確かめたくてする人。
人や環境によって理由は様々だったけどやはり興味はなかった。

「もしそうなら手伝おうかなって。」

それは小さな後付け。
あの痛みに顔をしかめる彼女の顔が忘れられない。綺麗な表情が頭に焼き付いて離れない。
そして見てみぬ振りをしていた自分の中にある願望や焦燥。醜い感情や黒い塊の様なものを発散したいだけだった。
そんな自分勝手な考えで、胸が熱くなる。

「でも、こんな……」

彼女は傷口を押さえ、震えながら呟く。

「必要とされたいんじゃないの?」

見ず知らずの僕に匿って欲しいと彼女は言った。
理由は分からなくても、少なからず僕に向けて言った言葉だ。
死にたいわけじゃないけれど自傷に走る彼女。
その理由さえ分からないけど。
あの美しい表情が見れるなら、傷が恋しいだけなら僕が付けたって良い筈だ。
彼女も僕も満たされて、尚且つ彼女は匿って貰う事も可能になる。
一石二鳥じゃないか。

「どうなの?黙ってないで何か言ったら?」

「…必要としてくれるんですか?」

不安な顔で此方を伺う。
面倒な言葉だった。必要も不必要も、無いじゃないか。
初めから都合の良い玩具にしたいだけなのだから。

「必要としてあげるよ」

彼女の綺麗な黒髪をさらさらと指で弄び、優しく頭を撫でる。

「あんたが望むなら、何でもしてあげる。」

ほんの少し彼女は頬を赤らめ、泣くことをやめた。
涙で濡れた瞳で熱っぽく見詰められる。
視線が交わると彼女の細い腕が僕の背中に回り、抱き付かれる。
高鳴る鼓動を気付かれないように溜め息を吐く

「必要としてください…愛してください。」

振り払いたくなる程の罪悪感。
なんて本能に従順で醜い人なのだろう。
まるで、もう一人の僕みたいだ。
細い彼女の身体を抱き締め返し、止まらない興奮を抑え込む。

「守って欲しいことがあるんだよね」

彼女は僕の胸に顔を埋めて、何ですか?と小さく答える。

「拒否も抵抗も認めない」

彼女の長い髪を引っ張ると小さく呻き、苦痛で顔が歪んだ。
背筋を駆け抜ける衝動が止まらない。壊したくて、苦しめたくて。発狂してしまいそう。

僕は呻き声が漏れる彼女の首筋に顔を埋め、白い肌へ吸い付く。
赤黒い跡に軽く口付けを落とす。

「ほら、誓って」

彼女は頷き、柔らかく微笑む。


あぁ彼女は幽霊じゃなかった、

きっと、悪魔だ。





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