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第三章 虚ろいの秋雨
…うそつき
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断る理由が見つからないまま、石田さんに化粧を施される事に。
横向きで自席の椅子に座り、顔を少し上げれば、屈んだ石田さんと間近で目が合う。
「目だけ、下に向けてて」
「……うん……」
言われるまま視線を落とせば、アイホールにブラシが入る。
鼻につく、化粧品特有の臭い。
ふと蘇る、幼い頃の記憶。
今日が雨の日じゃなくて良かった。湿気を含んだ時のこの臭いは、苦手だから……
「こっち見て」
「……」
視線を上げれば、再び石田さんと目が合う。
女の子らしい、パッチリとした黒瞳。長い睫毛。色白で綺麗な肌。
「うん。良い感じ。……じゃあ次、口紅塗ってくね」
「………うん」
多分、中学に上がってからずっと、女の子とこんな近い距離で接した事なんてない。
緊張してドキドキはする。
でも、本当にそれだけで。好きとか、触りたいとか……そういう変な感情じゃない事だけは、はっきりと解る。
何処からしてくるのか。化粧の臭いに混じり、ふわりと香る、柔らかくて仄かに甘い匂い。
女の子の、匂い。
「こうして近くで見ると、白石くんって女の子みたい。
……ほら、背も低いし。華奢だし。手も小さくて、指も……女の子みたいに細いし……」
言いながら口紅を左手に持ち替え、視線を下げた石田さんが、空いた右手で僕の左手をそっと拾い上げる。
薬指の付け根。そこを、人差し指と親指で確認するように触れられる。
「ねぇ。白石くんって、指輪とか……しないの?」
「………」
──指輪。
途端に思い出されたのは、佐藤さんの指に嵌められていた──大空の、形見。
付き添いで行ったジュエリーショップで、大空が僕の左手を取り、薬指に嵌めてくれて。
僕に、似合うって……
──ドクンッ
心臓が、大きな鼓動を打つ。
あの時の感情が切なく蘇り、あの雨の日の放課後──ここで大空と交わした会話まで、はっきりと思い出され……
「ひとつ、聞いていいかな」
石田さんの唇が、小さく動く。
「城崎くんが本当に好きだった相手って──誰か、知らない?」
「………え」
真剣な瞳。
図書室の書庫で、佐藤さんの告白に付き添っていた時とは、明らかに違う目付き。
強くて。鋭く刺すような双眸。
「………、知らない」
答えながら瞬きをし、石田さんから視線を逸らす。
スッと、僕から離される手。
ボソリと吐き捨てられる、小さな声。
「………うそつき」
横向きで自席の椅子に座り、顔を少し上げれば、屈んだ石田さんと間近で目が合う。
「目だけ、下に向けてて」
「……うん……」
言われるまま視線を落とせば、アイホールにブラシが入る。
鼻につく、化粧品特有の臭い。
ふと蘇る、幼い頃の記憶。
今日が雨の日じゃなくて良かった。湿気を含んだ時のこの臭いは、苦手だから……
「こっち見て」
「……」
視線を上げれば、再び石田さんと目が合う。
女の子らしい、パッチリとした黒瞳。長い睫毛。色白で綺麗な肌。
「うん。良い感じ。……じゃあ次、口紅塗ってくね」
「………うん」
多分、中学に上がってからずっと、女の子とこんな近い距離で接した事なんてない。
緊張してドキドキはする。
でも、本当にそれだけで。好きとか、触りたいとか……そういう変な感情じゃない事だけは、はっきりと解る。
何処からしてくるのか。化粧の臭いに混じり、ふわりと香る、柔らかくて仄かに甘い匂い。
女の子の、匂い。
「こうして近くで見ると、白石くんって女の子みたい。
……ほら、背も低いし。華奢だし。手も小さくて、指も……女の子みたいに細いし……」
言いながら口紅を左手に持ち替え、視線を下げた石田さんが、空いた右手で僕の左手をそっと拾い上げる。
薬指の付け根。そこを、人差し指と親指で確認するように触れられる。
「ねぇ。白石くんって、指輪とか……しないの?」
「………」
──指輪。
途端に思い出されたのは、佐藤さんの指に嵌められていた──大空の、形見。
付き添いで行ったジュエリーショップで、大空が僕の左手を取り、薬指に嵌めてくれて。
僕に、似合うって……
──ドクンッ
心臓が、大きな鼓動を打つ。
あの時の感情が切なく蘇り、あの雨の日の放課後──ここで大空と交わした会話まで、はっきりと思い出され……
「ひとつ、聞いていいかな」
石田さんの唇が、小さく動く。
「城崎くんが本当に好きだった相手って──誰か、知らない?」
「………え」
真剣な瞳。
図書室の書庫で、佐藤さんの告白に付き添っていた時とは、明らかに違う目付き。
強くて。鋭く刺すような双眸。
「………、知らない」
答えながら瞬きをし、石田さんから視線を逸らす。
スッと、僕から離される手。
ボソリと吐き捨てられる、小さな声。
「………うそつき」
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