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第三章 虚ろいの秋雨
懐かしい温もり2
しおりを挟む言葉とは裏腹に、大きな手が僕の髪をそっと撫でる。
「もし俺が、本気で襲ったとしたら……お前、どうするつもりだよ」
「……」
どうするって……
今井くんとの関係が、全て無かったものにされてない事が……嬉しくて。
全然そんな事、思いもしなかった。
それに……
「……多分、しないよ。だって、今井くんにはもう……石田さんが、いるみたいだから……」
「はぁ?!……なに寝ぼけた事言ってんだ」
「……」
「……まさか、この前の事か?」
眇めた今井の眉間に、深く刻まれる縦皺。
こくん、と小さく頷けば、深い溜め息が漏れる。
「あれは、文化祭で使う小道具の買い出しに行っただけだ。変に勘繰ってんじゃねぇよ」
「……」
「俺は、今だってお前を──」
ぶっきらぼうに言い放った後、視線がスッと外される。
鋭く吊り上がった目。だけどその頬は、少しだけ赤く染まっていて。
その反応が、……可愛い。
不思議。
付き合ってた時は、あんなに怖くて。
苦しくて。辛くて。
今井くんの隣が、こんなに心地良いなんて……知らなかった。
もう少し早く、知りたかったな……
「……!」
俯いた僕の項に掛かる、今井くんの手。
それに気付いて顔を上げれば、瞳を柔く閉じた今井くんが、スッと唇を寄せて……
ふわりと香る、今井くんの匂い。
僕を抱き止める、大きな手。
深く重なる、唇。
熱い舌が差し込まれれば……次第に蘇っていく、熱い夏の記憶。
舌が絡まる度に、時間が巻き戻り……
あの夏の終わりに重ねた劣情が、脳内を支配していく。
……酷く懐かしくて、切なくて……心が擽ったい。
「………実雨」
唇が、ゆっくりと離れていく。
その隙間に吹き込む、冷たい秋風。
与えられた熱は、現実を思い知らされる度に、簡単に風の中に消えていく──
「何で、受け入れんだよ」
「……」
「ちゃんと拒否らねぇと、本気で食っちまうぞ」
「………うん」
「うん、って。……お前、ちゃんと意味解ってんのかよ」
呆れたような、困ったような表情。
見た目は厳つくて。ガタイも良くて。目だって鋭く吊り上がってて、怖い人にしか見えないのに。……可愛い。
「──うん、いいよ。今井くんがそうしたいなら」
「馬鹿、お前……」
スッと、僕から手が離れる。
途端にできる、今井くんとの距離。
たった数センチ。
だけど、もう……それを埋めるだけの理由が見つからない。
「……なぁ、実雨」
「………」
「渡してぇもんがある」
ガシガシと後頭部を掻き、視線を逸らしたまま、今井が続けて言う。
「今日の帰り──俺んちの近くの喫茶店、解るだろ。そこで、待っててくれ」
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