70 / 107
第三章 虚ろいの秋雨
…忘れてくれ
しおりを挟む
「──最低だ」
嘆きにも似た、吐き捨てる声。
「俺は、相手が大空だと思ったから……許そうとしたんだ。
……なのに、あんな──何処の馬の骨か解んねぇ野郎の為に、一度はお前を諦めて、別れた訳じゃねぇ………」
僕から顔を背け、大きな溜め息をつく。喉を絞める手がゆっくりと緩んだ後、鋭い瞳が、再び僕を捕らえ……
「──!」
弾かれたように僕を掬い上げ、ギュッと強く、しっかりと抱き締める。
「………実雨、」
耳元で囁かれる声。さっきまでとは違って、少しだけ弱々しい。
甘え縋るような、細い息遣い。
僕の背中に回した今井くんの手が、身体が、吐息が……僅かに震えていた。
「……」
それを受け止めようと両手を持ち上げ、おずおずと今井くんの背中に触れようとした、その時──
「今日俺が言った事は、全部………忘れてくれ」
「──!」
苦しそうな声を吐いた後、突然僕の両肩を掴んで引き剥がし、顔を近付けて覗き込む。その瞳は濡れて光り、切羽詰まった唇が、僕に迫り……
「……」
柔らかな感触。
だけど、ただ押し当てられただけのそれは、何処か冷めていて……
悲しい程に、切なくて──
唇が離された瞬間。
振り払うように突き飛ばされ、背中を後ろの壁に強く打つ。その間に今井くんは、雨の降りしきる夜の街へと消えていき……
「……」
ズルズルと、壁に背を当てたまま膝から崩れ落ち、お尻をペタンとつく。
整わない、上擦った息。痺れにも似た、震える指先。感触の残る唇。
そっと喉元に手をやれば、途端に抑えていた感情が込み上げ、涙となって次々と溢れる。
「……」
……ごめん、ね……
僕のせいで、また、傷付けちゃって……
首を絞められた事よりも、冷たいキスをされた事よりも……
今井くんを傷付け、苦しめてしまった事の方が……辛い。
今井くんとは、色々あって──痛い事も、苦しい事も、辛い事もあったけど……
ひとりぼっちになった僕に、優しく声を掛けてくれて、手を差し伸べてくれて。
あんなに一途に、僕を想ってくれていたのに……
……どうして僕は、今井くんじゃ……駄目なんだろう……
どう考えたって……今井くんを好きになった方が、いいに決まってるのに……
「……」
折り曲げた人差し指で濡れた下瞼を拭った後、立てた膝を胸に引き寄せ、身体を小さく丸める。
………サァー
空から降り注ぐ、無情の雨。
それは次第に強くなり、啜り泣く声や僕の存在を、都合良く隠す。
嘆きにも似た、吐き捨てる声。
「俺は、相手が大空だと思ったから……許そうとしたんだ。
……なのに、あんな──何処の馬の骨か解んねぇ野郎の為に、一度はお前を諦めて、別れた訳じゃねぇ………」
僕から顔を背け、大きな溜め息をつく。喉を絞める手がゆっくりと緩んだ後、鋭い瞳が、再び僕を捕らえ……
「──!」
弾かれたように僕を掬い上げ、ギュッと強く、しっかりと抱き締める。
「………実雨、」
耳元で囁かれる声。さっきまでとは違って、少しだけ弱々しい。
甘え縋るような、細い息遣い。
僕の背中に回した今井くんの手が、身体が、吐息が……僅かに震えていた。
「……」
それを受け止めようと両手を持ち上げ、おずおずと今井くんの背中に触れようとした、その時──
「今日俺が言った事は、全部………忘れてくれ」
「──!」
苦しそうな声を吐いた後、突然僕の両肩を掴んで引き剥がし、顔を近付けて覗き込む。その瞳は濡れて光り、切羽詰まった唇が、僕に迫り……
「……」
柔らかな感触。
だけど、ただ押し当てられただけのそれは、何処か冷めていて……
悲しい程に、切なくて──
唇が離された瞬間。
振り払うように突き飛ばされ、背中を後ろの壁に強く打つ。その間に今井くんは、雨の降りしきる夜の街へと消えていき……
「……」
ズルズルと、壁に背を当てたまま膝から崩れ落ち、お尻をペタンとつく。
整わない、上擦った息。痺れにも似た、震える指先。感触の残る唇。
そっと喉元に手をやれば、途端に抑えていた感情が込み上げ、涙となって次々と溢れる。
「……」
……ごめん、ね……
僕のせいで、また、傷付けちゃって……
首を絞められた事よりも、冷たいキスをされた事よりも……
今井くんを傷付け、苦しめてしまった事の方が……辛い。
今井くんとは、色々あって──痛い事も、苦しい事も、辛い事もあったけど……
ひとりぼっちになった僕に、優しく声を掛けてくれて、手を差し伸べてくれて。
あんなに一途に、僕を想ってくれていたのに……
……どうして僕は、今井くんじゃ……駄目なんだろう……
どう考えたって……今井くんを好きになった方が、いいに決まってるのに……
「……」
折り曲げた人差し指で濡れた下瞼を拭った後、立てた膝を胸に引き寄せ、身体を小さく丸める。
………サァー
空から降り注ぐ、無情の雨。
それは次第に強くなり、啜り泣く声や僕の存在を、都合良く隠す。
0
あなたにおすすめの小説
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
『定時後の偶然が多すぎる』
こさ
BL
定時後に残業をするたび、
なぜか必ず同じ上司が、同じフロアに残っている。
仕事ができて、無口で、社内でも一目置かれている存在。
必要以上に踏み込まず、距離を保つ人――
それが、彼の上司だった。
ただの偶然。
そう思っていたはずなのに、
声をかけられる回数が増え、
視線が重なる時間が長くなっていく。
「無理はするな」
それだけの言葉に、胸がざわつく理由を、
彼自身はまだ知らない。
これは、
気づかないふりをする上司と、
勘違いだと思い込もうとする部下が、
少しずつ“偶然”を積み重ねていく話。
静かで、逃げ場のない溺愛が、
定時後から始まる。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
未希のツイノベ置き場
未希かずは(Miki)
BL
Xで書いていたものを、こちらに転載しました。
色んなテーマで書きましたし、すれ違ったり色んな悲しい出来事が起こりますが、全てハッピーエンドですのでよろしければ読んで下さい。
但しSSは、違う場合もあるかも。
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる