鎖 -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る2-

真田晃

文字の大きさ
44 / 49

44.

しおりを挟む



「……」

窓辺に立ち、抱えたバックと靴を窓から落とす。
ザッッ、と植え込みの枝葉が揺れ、壁際の地面に転がって落ちたのが見えた。

サッシに手を掛け、身を乗り上げるようにして片足を掛ける。


ドクン、ドクン、ドクン……

……高い。
転がっている小石が、米粒にも満たない大きさに見える。遠くの駐輪場も、ミニチュアの玩具みたいだ。
でも、大丈夫。バックも靴も、ゆっくりと落ちていったように感じたから。

両足を窓枠の外に投げ出し、ぶらんとさせて座る。冷たい風が吹き、僕の横髪を少しだけ乱す。
その髪を耳に掛け顔を上げると、遠くの空を眺めた。

「……」

雲の切れ間から射す、一筋の光。呼吸を整え、高鳴る心臓を抑える。
と……


「──ええ度胸しとるやんっ、!」


……え……

突然の声に驚く。
下を見れば、モカブラウンの髪を後ろに束ね、黒のロングコートを羽織った凌が、此方に向かって歩きながら僕を見上げていた。


「俺が、受け止めたろか?」


その軽い口調に、それまであった緊張が解けていく。


……来て、くれた……
本当に……僕の為に……


「……うん、」





──トサ、

下で構えた凌の腕の中に、トスンと落ちる。
たった数秒。なのに、もっと長く空中にいたような気がする。

背中と腿裏に衝撃を受け、しっかりと受け止められた瞬間……甘く爽やかな匂いがふわっと立ち篭め、僕の鼻腔を擽った。

「さくらちゃんて、えろう軽いんやな。40キロも無いやろ」
「……」

僕をしっかりと抱きかかえ、覗き込んだその瞳は優しくて。明るく微笑むその表情は、陽だまりのように温かくて。
ただ、それだけで……大きなものに包み込まれたように、酷く安心する。

「よく気張って飛んだな。……偉い偉い!」

両足を下ろして立たせると、僕の髪をくしゃくしゃと掻き回す。
柔らかくて、大きな手。
恥ずかしくて俯けば、突然、その手が止まる。

「それ、どないしたんや」

緊迫する声。
何かを察したようなその響きに、思わず片手で首筋を隠す。

「ハルオに……乱暴されたんやな」

その腕に触れた凌の手が、誘導するようにそっと剥がす。
首筋だけじゃない。その手首にも……強く握られた痕がうっすらと残っていた。


「……怖かったやろ」


憂いを帯びた声。
ゆっくりと、小さく頭を縦に振れば、凌がそっと抱き締める。

「……」

その腕の中は、温かくて。
怖ず怖ずと凌の背中に腕を回し、頭を胸に預けた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...