闇夜 -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る3-

真田晃

文字の大きさ
2 / 56

2.

しおりを挟む


「……美味そうな匂いやな」

しっとりとした髪を、首に掛けたスポーツタオルの片端で拭きながら、凌がダイニングキッチンへと戻ってくる。
ラフな部屋着。首元には、バイオハザードマークのタトゥー。

どんな仕事をしているのか、詳しい内容は解らないけど。凌は夜の仕事をしていて、その出勤前に凌の住むこのマンションへ出向き、こうして朝食の用意バイトをしている。

スタイリッシュで高級そうなダイニングテーブル。そこに並ぶのは、昔ながらの和食──焼き魚、芋の煮っ転がし、金平牛蒡、ぬか漬け。そして、ごはんと味噌汁。
そのアンバランスさに違和感を覚えるのは、僕だけだろうか……


相向かいに座り、頂きますと両手を合わせる。

「……ん。これ、最高やん! 甘すぎず辛すぎず、俺好みの味付けや。
これなら毎日食べても飽きんわ!」

摘まんだ金平を口の中に放り込んだ瞬間、大袈裟に褒めちぎる凌。それに気恥ずかしくなって俯く。

「……じゃあ。明日も、作りましょうか?」
「おぉ、いっぱい作ってや! いくらでも食べたるで!」

怖ず怖ずと尋ねてみれば、凌が明るい口調で返してくれる。

「やっぱ日本人は、和食やな。
さくらちゃんの手料理食べてから、なんや身体の調子が良うなって、健康的になった気ぃするわ!」
「……」

そう言われてしまうと、悪い気はしない。でも、この人の本音は何処までなのか。そもそも、何処に本音があるのか……時々、解らなくなってしまう事がある。

金平を摘まんで口に含む。また同じ味が出せるよう、舌に記憶させながら。

「……あ、そうや!」

ご飯を口に入れ咀嚼を繰り返していると、凌が再び口を開く。

「急で堪忍なんやけど。明日、宴会したい思うてんねん。さくらちゃんの所でやらせて貰うても、ええ?」
「……」

……宴会?
宴会って、忘年会みたいなものかな……
明日は土曜日だから、準備する時間は充分にあるし。多少寝るのが遅くなっても、別に支障はない。

「……はい」

そう答えると、真っ直ぐ向けられた凌の眼が少しだけ緩む。

「おおきに、助かるわ。
ドリンクはこっちで用意するから、心配せんで。……んー、そうやなぁ。さくらちゃんも入れて、5人……まぁ、それ位のつまみと食事、適当に用意しといてや」
「わかりました」

そう返事をした後、もう一度金平牛蒡に箸を伸ばす。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

機械に吊るされ男は容赦無く弄ばれる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

少年達は吊るされた姿で甘く残酷に躾けられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

処理中です...