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歓喜 雑音 秋
しおりを挟むスゥ……
微かに聞こえる寝息。
安心したからか。それとも、胸の内を吐き出したからか。玄関先で会った時とは違い、憑きものが落ちたように穏やかな顔で、眠る悠。
ベッド端に座ったまま、掛け布団を首元まで掛けた後、悠の前髪にそっと触れ、撫でる。
……ごめんね、悠……
悠は僕の事を、ずっと想い続けてくれていたのに……心の何処かで、身勝手でずるいと思ってた。
この一年、辛いのは僕だけで。僕を捨てた悠は、幸せに暮らしてるって。
だけど、悠も同じように苦しんでたんだね。
……僕に会う為に、隔離病棟を抜け出したりもして……
やっと会えたあの時──悠は一体、どんな気持ちで僕の手を掴んだんだろう……
「……」
一度は、悠とやり直す決心をしたのに。結局僕は、悠の籠に……戻れずにいる……
「……」
……ずるいのは、僕の方だ。
どっちにも揺れて、どっちも諦められない……
眠る悠からそっと離れる。
厚手のカーディガンを羽織り、マフラーを手に取ると、急いで外へと飛び出した。
マフラーをしっかり巻くものの、流石に夜はまだ寒い。
駅前までの寂しい道を、一人歩く。外灯の殆どない細い道から駅前のちょっとした繁華街に出ると、いつもホッとする。
街に溢れる雑音。ここに居るのは僕だけじゃないんだって、安心感させてくれる。
裏通りにある、小さなスナック。『fall in love』──昭和の匂いがするような外観に、煌めく電光板。
入口に立ち、大きく深呼吸をしてから、ドアに手を掛ける。……と、そのドアが突然開いた。
外まで響く店内の雑音。わぁっと湧き上がる、歓喜の声。
ドアの向こうに立っているのは、年季の入ったホステス嬢。
「……あら、いらっしゃーい! 随分と若くて可愛い子ねぇ!」
酷く酒焼けした声。女豹の如く、僕を上から下から舐めるように見る。
濃い化粧。強い香水。胸元の大きく開いた派手なドレス……
「……あの。大輝、居ませんか?」
ここは大輝の母親が経営する店であり、大輝の実家でもある。
「………ん、双葉じゃん!」
店のカウンター奥にいた大輝が、僕に気付いて声を掛けた。
店を抜け出した大輝と、近くの公園へ向かう。
まるでホストの様な風貌の大輝は、長めの髪を後ろに束ね、黒いスーツを着熟し、表情も引き締まり、格好いい印象を与える。……普段の大輝とは大違い。
ブランコと滑り台、砂場しかない小さな公園。繁華街の中にひっそりと佇み、静かなその空間は、まるで別世界に迷い込んだかのよう。
園内にひとつしかない外灯。その光が届くベンチに並んで座る。
「……どうだった? 渡瀬とのデート」
そう言って大輝は、僕の顔を下から覗き込む。
「……うん……、楽しかったよ……」
「そ。よかったね」
「……」
「んで。今度は何があったのかな?」
視線を逸らす僕に、大輝が容赦なく踏み込んでくる。僕の様子がおかしい事に、最初から気付いていたみたいに。
「……」
「隠さずに言ってごらん」
チラリと隣を見れば、じっと僕の様子を覗う大輝と目が合った。
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