双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃

文字の大きさ
49 / 62

椅子 雀 百合


肌寒い朝。
カーテンを開ければ、柔く優しい光が部屋に射し込まれる。雀の鳴く声。きっと外は、気持ちが良いんだろう。


『俺、双葉に話したっけ……』──悠の記憶は何処か不安定で、曖昧だった。
シュークリームを持ってきてくれたあの日も、シャワーを浴びながら断片的に記憶が蘇り、それを繋ぎ合わせているうちに、色々思い出したようで……

怖い、と思った。

「……」

悠は、病気なんかじゃない。
病気じゃない人が、脳に何かを与える薬なんて飲んでいたら……きっとおかしくなる。





「鳴川さん、どうぞ」

この方法が良かったのかはわからない。だけど、他に方法が見つからなくて……

気乗りしない悠を引っ張って訪れた、メンタルクリニック。
清潔感のある待合室には、沢山の患者や付き添いがいて、普通の病院とそう変わらない。空気清浄機。おしらせの掲示板。字幕で流される、音のない大型の液晶テレビ。生けられた百合の花。大きな窓から射し込む光が、その白い花を美しく照らす。

看護師に案内され、診察室へと入る。パソコンの置かれたデスクの向こうに、眼鏡を掛けた若い医師が座っていた。
「どうぞ」と促され、悠と並んで椅子に座る。


「……では、お薬手帳を見せて頂けますか?」

待合室で書いた初診者用の紙を眺めながら、医師が穏やかに話す。

「……すみません。今持って無くて。現物なら、あります……」

持ってきた薬をひとつひとつ机に並べれば、医師がそれらをひとつひとつ手に取って確認する。

「でも、悠は病気じゃないと思います。全然違うのに。それを、──」

途中で悠が、僕の腕を引っ張る。驚いて隣を見れば、悠の強い瞳が僕を制した。
全ての薬を確認した医師が、ケースワーカーとの面談を記録した用紙に目を通す。

「家族構成ですが……父、母、貴方の三人で合っていますか?」
「………はい」
「ご両親の仲はどうでしたか?」
「……所謂、仮面夫婦ってヤツです」
「そうですか。……それでは、どうして貴方のお父さんは、相談もなく貴方の結婚相手をお決めになったのでしょう。
何か、心当たりはありませんか?
……例えば、貴方に強い期待をかけていた、とか……」
「いえ。結婚の話が出るまで、放任主義でした」

僕とは違い、悠は先生の質問に淡々と答える。まるで、他人事みたいに。

「……そうですか。それで反対された貴方を、隔離病棟に……」
「……」
「私は、貴方のお父さんこそ、何か心に問題を抱えている様に見受けられます。できるなら、次の診察に連れてきて頂けますか。個別にお話しできたらと思います」

医師は机上で手を組み、続けて言った。

「……薬の方ですが、おそらく合っていないのでしょう。
副作用止めや吐き気止めを飲んでいるにも関わらず、一年も効果がないのですから。それに、種類や量が多い点も気になります。
いきなり止めるのは危険ですので、……様子を見ながら、徐々に減らしていきましょう」

医師の言葉に、僕はホッと胸を撫で下ろす。
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

君に二度、恋をした。

春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。 あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。 ――もう二度と会うこともないと思っていたのに。 大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。 変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。 「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」 初恋、すれ違い、再会、そして執着。 “好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか―― すれ違い×再会×俺様攻め 十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

DONKAN

すずかけあおい
BL
不純な攻め×純情鈍感受け。 大好きな幼馴染の朋春は、幹人を可愛がってくれていた――少し前までは。 〔攻め〕朋春 高2 〔受け〕幹人 高1

新生活始まりました

たかさき
BL
コンビニで出会った金髪不良にいきなり家に押しかけられた平凡の話。

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

キミが、僕を選ぶまで

天かす
BL
誰にも選ばれなかった僕を選んだのは、白い獣だった。 人間と、人間と以外の生物の特徴を併せ持つ“半人”が共に生きる世界。 この世界では、人は六歳から十六歳までの間に、自らのパートナーとなる半人の幼体を選び、育てる義務を負っている。 けれど深森 夜(フカモリ ヨル)は、十五歳になった今も、パートナーがいなかった。 周囲に置いていかれ、価値がないような痛みを抱えながらも、彼が半人を求め続けるのには理由がある。 ある日突然姿を消した幼馴染――薮颯太。 「彼は半人と共に消えたらしい」 その噂をきっかけに、夜は半人保護機関へ入るため、自分のパートナーを探し続けていた。 そんなある雨の日。 保護施設の奥で夜が出会ったのは、傷だらけで倒れた白い獣。 その出会いはやがて、選ぶはずだった少年と、選ばれることを望んでいた半人、二人の運命を大きく変えていく――。 これは、ずっと誰にも選ばれなかった少年が、たった一人の半人に選ばれるまでの物語。 そして、やがてその白い獣に平凡男子な夜が、溺愛執着されるまでの二人の出会いの話。