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キング編
514.
しおりを挟むボソリと吐き捨て、視線を外した屋久がゆっくりと深呼吸をひとつつく。冷静さを取り戻し、いつもの表情に戻れば、見下げるように再び此方へ視線を注ぐ。
『最初は、美沢に代わって俺が若葉の手綱を引こうと考えていた。が……ただ奪うだけじゃつまらねぇだろ。
バタフライナイフで仕留め損ねた自分の息子に、同じやり方で全てを奪われたとしたら──』
『………それ、僕に何の得があるの?』
屋久の声に、若葉の言い放った声が重なる。
『これ、なーんだ』
徐に屋久がポケットを弄り、取り出した小さな袋を胸元の高さに掲げる。
透明のビニール袋に入っているもの。それは、見覚えのある──白い粉。
「……!」
……え……
『菊地に飲ませていたのと、同じものだよ。
これが今、点滴の中に混ざっている。……ああ、外しても無駄だよ。滞在していたホテルで姫が意識を失った時から……既に点滴や飲み物の中に少量ずつ、混ぜ込んでいたからね』
『……』
『きっとこの先も、姫は何の疑いも持たず、俺の出すもの全てに口を付けると思うよ』
ニヤリと口元を歪めた屋久が、ベッドに片手を付いて上から覗き込む。
『俺は、ただ計画BをCに変更するだけ。でも、若葉は望み叶わぬまま、さくらと共に命を落とす。……どっちがいい? ん?』
『……おまえ、』
『条件さえのめば、俺の指示に従う毎に少しずつ解毒剤を与えてやるよ』
「……」
ゾクッと震える。
屋久は、そこまでして……僕を……
「……大丈夫。ただのハッタリだよ」
恐怖で萎縮してしまいそうな僕の心に、静の声が優しく寄り添う。
「恐らく『若葉』は気付いてる。だから、敢えて騙されたふりをして様子を窺ってる。
でも……多分、それは基成も同じ」
「……え」
静が手のひらを天に向け、掴み取るように握ると、ふっと映像が消える。
瞬間、空間に静寂が戻る。
「もし『若葉』の力が欲しいなら、わざわざさくらを主人格のまま『若葉』を取り込もうとなんてしない。
『若葉』の望み通り、さくらを排除して『若葉』を主人格にし、支配下に置いた方がいい。
でも、そうしないのは……それだけサイコパスな若葉が怖いからだ」
「……」
「つまり基成は、美沢のように若葉を操れる人間じゃない。……小物だって事だよ」
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