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ハイジ編
27.
しおりを挟むハイジが震えたままの両手で、顔を覆う。
整わない呼吸を何度も繰り返しながら、先程よりも小さく見えるハイジに話し掛ける。
「……できたら……外して」
ゆっくりと小さく、努めて冷静に。
気を付けないと、また急変してしまうかもしれない……
僕の声に気付いたハイジが、顔から手を外して此方に黒眼を向ける。その瞳が小さく揺れるだけで……僕を映してはいないみたいだ。
「ダメだ、……外せねぇ」
「……」
まるで発作のように呼吸を乱し、再び両手で顔を覆う。
何かに怯えるように。両肩を震わせて。
「──ああっ、違ぇよ。……クソッ!」
顔を覆っていた手で髪を掻き上げ、白金色した無機質な横髪を握り潰すように掴む。痛みに耐えるかのように歯を食いしばり、平に息を長く吐く。
「外してやる。……けど、逃げんなよ」
「………うん」
一体、何があったの……?
何がハイジを、そうさせるの……?
その後のハイジは、優しかった。
手錠を外し、抱き起こした僕を優しく抱擁する。
それは、僕が家出をして初めてハイジと体を重ねた……あの時みたいに。
「悪ぃかった……」
フェイスラインに手を添えられ、少し角度をつけたハイジの顔が近付く。白金の髪がさらりと揺れた後、その唇が僕の唇に重なる。
その触れ方も、さっきの暴力的なものは微塵も感じられない。
……ああ、これがハイジだ。
僕の知ってる、ハイジ。
閉じた瞼の裏に、あの時の光景が浮かぶ。
まだ少しだけ震える指が、フェイスラインから首筋……そして鎖骨へと滑り落ちる。
……ただ、触れただけのキス。
柔らかな感触だけを残し、ハイジの唇がゆっくりと離れる。
「痛かったよな……」
鎖骨に触れていた指が離れ、まるで壊れ物に触れるかのように僕の首筋をそっと撫でる。
先程の圧痕が浮き出てしまったのだろうか。寂しそうな視線が、其処に向けられている。
「……オレ、すげぇ……自分が怖ぇよ……」
怯えた様に、小さく揺れる瞳。
「襲われてるさくらを見た瞬間……オレ、訳分かんなくなっちまって……」
「……」
「どうしていいか、解んねぇよ……」
僕から手を引っ込め、自身の横髪を搔き上げる。
そして米神の上で髪を握り締め、思い詰めた様に目を伏せる。
「……」
そういえば……
過去に一度だけ、ハイジが狂気的になった事がある。
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