シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

文字の大きさ
92 / 559
ハイジ編

92.

しおりを挟む



予想外の台詞に驚き、瞼を上げハイジを見る。

「さくらと一緒に、知らねぇ土地でひっそりと暮らすのもいいな……って」
「……」
「何だよ」

少し、ぶっきらぼうになる口調。
唇を僅かに尖らせ、何処か照れたようなその瞳は……何故か嬉しそうで。

「前に話したろ? オレは暴力団組員じゃねーって」
「……」
「だから、抜けるも何もねーけど。
オレ、結構この世界に足突っ込んじまってるし。龍成さんには、マジで頭上がんねェからさ……」

ハイジの眼が揺れる。
憂いの影が灯り、弱々しく光るそれに胸が締め付けられる。

「……」

小さくついた溜め息。何処か遠い過去を辿るように、ハイジの視線が逸らされ彷徨う。


「………覚えてっか?
去年の夏。チームのみんなと、海岸沿いをバイクで走った時のこと」


──ドクンッ、

心臓が大きく胸を打つ。

男達に声を掛けられてる僕を見たハイジが豹変し、相手に重い傷害を与えてしまった時の光景が思い出される。


「あン時……さくらにちょっかい出した野郎を、オレがボコったろ?」
「………うん」
「ソイツ、あの後………死んでさ……」


───え………


ゾクッ、と背筋が凍りつく。
温かな腕の中に、いる筈なのに……


『死』という言葉に、身体は正直に反応を示すものの………脳はそれを拒絶し、何処か現実離れしたような感覚に陥る。

一年も前の出来事だからだろうか。
それとも……僕にとって被害者は、どうでもいい存在だからだろうか。

亡くなってしまった人に対しての悲しみは、そこまで持ち合わせていない。
けど──ハイジが犯してしまった事を思えば、じわじわと罪悪感が襲い、胸の奥が痛む。


あの日の夜。
ハイジが酷く怯えて、僕に縋り付いてきたのは──そういう事、だったんだ……


「その後始末を引き受けてくれたのが、龍成さんなンだよ」
「……」


後始末──って。

そういえばあの時、ハイジは何処かに電話を掛けていた。

その相手が、龍成だった……ってこと……?


「………まぁな。オレらのチームのケツモチやってたからな」


声が、自然と漏れてしまったのだろうか……
ハイジの落ち着き払った返答に驚く。


「でも、その代償に……クスリを売りさばかなきゃなンなくなって……」


『オレ、今度……ヤベぇ仕事すンだよ』
『暫く、あの溜まり場には戻れそうにねェんだ』


「……」


そん、な……






しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...