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菊地編
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帰りの車内では、会話なんて無かった。
ただひたすらに流れるラジオ。寛司と僕との間に漂う空気を察してか、ラジオパーソナリティが軽快なトークを繰り広げている。
チラッと寛司を盗み見るも、その横顔からは何も覗えなかった。
アジトのラブホテルに着く。
相変わらず寛司は黙ったままで。僕の事なんて見えてないみたいに、さっさとバスルームへ行ってしまった。
『僕の……っ、僕が、竜一から貰ったものだ………!』
……聞かれた。絶対。
あんな姿の僕を見て、寛司はどう思っただろう。
いい気はしない、よね……
──最低。
寛司は、僕が不安にならないように、倫との仲にケジメをつけてくれた。なのに僕は……故意ではなかったとはいえ、真逆な行為をしてしまった。
あのピアスが目に入った瞬間……噴き上がる怒りの感情を、抑えられなかった。
あれは、竜一が僕にくれたピアスだけれど……僕とアゲハの命を繋いだ、約束のピアスでもあって……
思い入れのある、大切なものだったから……
「……」
……でも、そんなの寛司には関係ない。
ピアスに拘る僕を見て、嫌な気持ちになったのは、確かだから。
寛司の後を追って、脱衣所へと向かう。
ちゃんと話さなきゃ。
許されるなんて思わないけど、誤解だけは解かなきゃ……
静かにドアを開ける。
中を覗いて見れば、洗面台の鏡の前で、寛司が二の腕の包帯を外していた。
「……寛司……」
「何だ」
僕を見下げる眼。
いつもの優しさに満ちたものとは違い、刃物のように鋭くて、冷たい。
それは、初めて会った時と同じ眼をしていて──今まで、二人で過ごしてきた時間や築いてきた出来事が、跡形も無く消え去ったように感じる。
まるで、双六の振り出しに戻ったみたいに。
「……手伝う、よ」
「………」
怖ず怖ずと寛司に近付き、良いとも悪いとも言わない寛司から包帯を受け取ろうと、手を伸ばす。
……震える。
指先も、唇も、吐息さえも……
何か、言わなきゃ……
そう思ってるのに。中々次の言葉が出てこない。
思い返せば、キッカケはいつも寛司からで。僕はそれに甘えてしまっていた。
そんな僕に冷ややかな眼を向ける寛司が、大きな溜め息をつく。
「……お前、家に帰れ」
思ってもみない台詞。
一瞬、亀裂の入った音が聞こえたような気がした。
「……え」
全て巻き取った包帯。それを、僕の手から乱暴に奪い取る。
黄色い汁で湿ったそれが雑に丸められ、何の感情も無くごみ箱に投げ捨てられる。
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