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菊地編
252.
しおりを挟むふと、目が覚める。
目が覚めてから夢で良かったと、ホッと胸を撫で下ろす。
黄昏色に染まった──学校の保健室。
ベッド端に座り、見知らぬ教師──ガタイの良い男性に、足の爪先から踝辺りまでをベロベロと舐められていた。
それを冷ややかに見下ろしながら、どうやったらこの教師を手懐けられるか、妙に冷静に考えていた。
リアルで、奇妙な夢。
何でこんな夢なんか見たんだろう。
僕はもう、殆ど学校になんて行ってないというのに。
起き上がって、辺りを見渡す。
まだ微睡みから抜けきれず、頭がボーッとする。
真っ暗な部屋に射し込まれる月明かりが、やけに綺麗で。ベットから下り、窓辺に立つ。
『月が、綺麗だな』
──それは、寛司との街デートの帰り。裸で抱き合った車内から、寛司が夜空を見上げてそう呟く。
生い茂る木々の間から黄金色の月が垣間見え、でもまだ余韻に浸っていたい僕は、ぼーっとしながら『……うん』と空返事をした。
それは何の意味も持たない、他愛のない台詞だったのかもしれないけど。今こうして思い返してみれば……あれは『愛してる』っていう意味を含んでいたのかも……
そう思ったら、案外ロマンチストなんだなって……寛司が可愛く思える。
愛されてる。
心から、そう思える。
僕は寛司から、ずっと欲しかった……深くて温かい愛情を注がれてる。
いつも傍にいて。
僕だけを、見ていてくれる──
解ってくれている。
今の僕は、幸せだ。
今まで、色んな事があったけど……ここに来て、寛司と出会えて、良かった──
満月が、とても綺麗な夜。
淡く蒼白い光が、優しく僕を照らす。
まだ幼い頃──冬の冷たい路上に放り出された僕は、今と同じ月を見上げていた。
あの時の僕は、ただ嘆いているだけで。
僕が誰かに愛される姿なんて、想像もしなかっただろう。
でも僕には、寛司がいる。
今の僕は、幸せだ。
「……」
……早く、帰って来ないかな……
こんな綺麗な月を、寛司と一緒に見たい。
電気を付けるには勿体なくて。暫くそのまま、月を眺めていた。
ああ……
寛司に、逢いたい……
早く、逢いたい……
離れている時間が、少しだけ長いってだけなのに。
恋い焦がれる気持ちと、逢えない淋しさがどんどん募り……切なく心が震え、僕を感傷的な気分にさせる。
……おかしい。
変なの、今日の僕。
そっと唇に、指先を当てる。
今朝、自分から……して……
寛司の驚いた顔と、あの時の熱を思い出す。
……帰ってきたら……
また僕から、キス……しても、いいかな……
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