シンクロ -アゲハ舞い飛ぶ さくら舞い散る5-

真田晃

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五十嵐編

275.

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×××



「……えぇ、セミダブル……?!」


ホテルのフロント前。受付を済ませようとした五十嵐が吠える。

麗夜が、僕と五十嵐の関係をどう捉えたのかは解らないけど。一緒の部屋に、一緒のベッドというのは……流石に僕にも抵抗はある。
他に部屋は無いかと五十嵐が食い下がるものの、既に空きは無く、今からだとキャンセル待ちになると告げられてしまう。

「……いいよ。行こう」

フロントにかじり付く五十嵐の裾をクッと引っ張れば、それに気付いた五十嵐が振り返り、諦めの溜め息をつく。




「セミダブルって、案外狭いな」

部屋に入るなり、五十嵐が棒読み混じりでベッドの感想を呟く。
確かに、思っていたより狭い。
二人並んで横になったら、寝返りを打つ余地なんかないし。普通にしてたとしても、手や肩がぶつかりそうだ。

「……五十嵐が使ってよ。僕は床で寝るから」
「いやいやいや。工藤が使えって!」

言いながら五十嵐が、ベッド脇にある二人掛けのソファにドカッと座る。

「俺はここで寝るから。な……?」
「……」
「それより飯だ、飯! 飯食おうぜ!」


小さなテーブルの上に広げた、二つのお弁当。
コンビニのじゃない。ホテルの向かいにある、弁当チェーンの手作り弁当。
五十嵐のは唐揚げ弁当で、僕のはのり弁。思った以上のボリュームに加え、蓋を開けた時の脂っぽい臭いに、一気に食欲が失せる。

同じ手作りでも……倫さんのとは全然違うな。

「……」

ふと、ラブホテルに置いたままの倫の手作り弁当を思い出す。
寛司の為に倫が用意してくれて……あの日、二人で食べる予定だった。

「……」

倫はもう、寛司が殺された事を知ってるんだろうか。
『寛司の事、よろしくね』──最後に見た、倫の憂いを帯びた顔がチラついて……胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

「明日、どうする?」

発泡スチロール製の弁当を片手に、付け合わせの金平牛蒡を口に放り込んだ五十嵐が、呑気に咀嚼しながら言葉を発する。

「麗夜さんが来るのって、明日の夜だろ?
それまでしたい事とか、行きたい所とか。……なんか無いか?」
「……」

──別に。
五十嵐から目を伏せ、ペットボトルのお茶に手を伸ばす。

「………五十嵐は?」
「え、俺?」
「うん……」

昼間、借金取りに会ったんだ。妹さんの事、心配なんじゃ……
そう思って聞いたのに、五十嵐には全く僕の意図が通じてないらしい。

「五十嵐は、家に帰った方がいいんじゃない?」
「……え」

僕の言葉に驚き、眉間に皺を寄せる。そして暫くの沈黙の後、瞬きをした五十嵐が黒目を左右に動かす。

「……」
「……ああ。もしかして、昼間の事?」
「うん……」

僕の答えに、何処か落ち着かない様子で目を細め、取り繕うように口の両端を綺麗に持ち上げてみせる。

「それなら、心配いらないよ。妹は安全な場所に避難してるからさ」
「……」
「な。それより──」

五十嵐が、さっきの調子に戻って話を続ける。

「……」

心配かけさせないように、気を回したんだろう。
……でも僕には、これ以上詮索するなと、拒絶したようにも感じた。


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