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五十嵐編
338.
しおりを挟む「──!」
そうか。
何で気付かなかったんたろう。
あの時若葉が僕を殺そうとしたのは、達哉に似たアゲハを取られる嫉妬でも、恨みでも何でもない。
……あれは、若葉なりの慈悲だ。
何故そう思ったのかは解らない。でも、今ならそう感じる───
「黒アゲハの背後に回って、喉元にバタフライナイフの刃を突き付けた若葉は──絶頂を迎えた瞬間、姫の首を絞めて殺すよう指示した。
だけど、姫の事が大好きで、助けたい一心の黒アゲハは、それに逆らって首をこう──ね。
……その血濡れたナイフを握り締めて、必死で逃げ惑う姫を冷静に追い掛けた。
自らの手で、殺す為に──」
ゾクッ……
あの時の恐怖が、まだ僕の中に残っている。
何の躊躇もなく、静かに僕を追いかける若葉は……確かに吉岡や愁のいう、サイコパスそのもののように見えた。
「………違うよ、愁」
僕の匂いを嗅ぎ続け、すっかり脱力しきった愁の耳元に、スッと唇を寄せる。
「あの時若葉は、助けてくれたんだよ。
突然、家に忍び込んできたアゲハに拘束されて、口を塞がれて、乱暴にされそうになった僕を──」
言いながら、口の端が歪む。
不思議な事に、するするとそれらしい嘘が飛び出していく。
それが何とも可笑しい程、気持ちがいい。
「だけどね。悲鳴を聞いたアパートの住人が、通報したらしくて。乗り込んできた派出所のお巡りさんに見つかって……
追い詰められた若葉は、その責任を全て背負って──僕が見てる前で、自分の首を深く切ったの」
「………」
ぴくん、と反応した愁は、顔を上げ、不安げな瞳を僕に向ける。
「………僕の匂い、嗅いでて気付かない?
僕はね、若葉の濃い血を受け継いだ──『息子』なの」
そう言ってやれば、愁の目が大きく見開かれる。
恐怖の色が消え、僕を尊いものでも見るような……純粋で綺麗な少年の目に変わる。
「若葉と美沢に愛された──『子供』なんだよ」
愁が、すっかり僕の虜になっているのが手に取るように解る。
このまま愁を利用して、吉岡の足を止めさせ、その間に逃げればいい………
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