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キング編
386.
しおりを挟む夜の8時過ぎ。
いつもは眠っている時間帯に、アパートを連れ出される。
エンジンを吹かし、走り出す車。その車窓から外を眺める。
緊張と疲れのせいか。蕾に身を預け、しっかりと繋いでいた類の手が、緩く解かれて力無く滑り落ちる。類の顔を覗き込むと、すやすやと眠っている事に気付く。
『このまま寝かせといてやれ』──そう言われ、ゴミ溜めの部屋に類を残し、後ろ髪を引かれる思いで蕾は、おじさんの車に乗った。
寝静まった夜。
車を走らせる度に外灯やネオンが目立ち始め、辺りはすっかり活気溢れた眠らない街へと変わる。
様々な色の光が映っては消えていく車窓から、その煌びやかで異様な世界を眺める。
「………いいか。お前の仕事は、俺の言った女を連れてくるんだ。
上手く車に連れ込めたら、……飯を食わせてやる」
「……」
煌びやかなイルミネーション。煌びやかな駅前のロータリー。
田舎町のここは、数あるナンパスポットのひとつで、ナンパ目的で集まった若い男女が、一夜限りの相手を探し求める所だった。
ロータリーの外周を、ナンパされたい女性達が列を成して停車。それを男性達が追い越しながら品定めをし、気に入った女性の車に横付けして声を掛ける。交渉の末女性がOKをしたら、先導する男の車の後ろをついていく……という流れになっている。
「………いいか。あの女共は男に飢えていやがる。犯されたくて、ここに群がっているんだ。
だからその欲望を、……俺が満たしてやるんだよ」
「……」
「………おい。今、あの赤い車から降りた女がいるだろ。解るか? あの、黒くて長い髪の女だ。
あの女に声を掛けて、ここに連れてこい。
迷子になったとか、弟の具合が悪くなったとか、……何でもいい。適当な事を言って、兎に角連れて来るんだ!」
蕾を睨みつけたおじさんが、凄い剣幕で捲し立てる。
「……」
言われるまま、車を降りる蕾。
もし失敗でもしたら、弟の類を悲しませてしまう。……もしかしたら、酷い事をされるかもしれない。
やるしかない……
自分を奮い立たせ、握り拳を作り、闇の中へと一歩、足を踏み入れる。
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