【本編完結済】爆盛りスイーツから始まる恋のレシピ~陰キャ男子はお菓子作りでボッチ回避に成功しました~

ぷかり

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ひんやり水羊羹1

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 クリスマスが過ぎればもうすぐに年末年始。
 年の瀬は何かと忙しく、年賀状を書く習慣はなくとも、ボーッとはできない。
 大掃除を手伝わされたり、祖父母の家までおつかいを頼まれたり、こき使われているうちにクリスマス会から一週間が経っていた。

 せっかくの休みなのにちゃんと休めていないのは気のせいじゃないはず。
 しかも数日前から単身赴任で隣県に住んでいる父が帰ってきていて、暇ができてもお菓子作りをする隙がない。
 つまりフラストレーションを解消できないということで、課題に疲れた脳を癒す術が失われてしまったことを意味する。
 あのムースタルトが年内最後の爆盛りスイーツになってしまった。

 両親のことは好きだけど、一緒にいると自由が利かないことがあるから、あんまり長く居られちゃ困る、というのはさすがに贅沢すぎかな。
 普段好き勝手できているのは二人のおかげだし、かなり恵まれた環境にあるとは思うのだけれど、そこは僕もお年頃。
 ちょっとした反抗期ってやつなのだろう。
 でも、やっぱり早く台所を使いたい。試してみたいみたいお菓子は山ほどある。

 仕方がないから例のアメリカンチャンネルの動画を見漁ってみるものの、一度あの創作体験を得てしまうと、もう映像では満足しきれず、祖母の家で黒豆を煮る火の番をすることでなんとか欲求を押し留めた。

 そして迎えた新年。
 日付が変わるとほぼ同時にスマホが震え、メッセージを受信した。
 普段は両親くらいとしか連絡を取らないから、こんな時間にスマホの画面が明るくなること自体異例中の異例。

 ベッドでうとうとしていた僕は寝ぼけまなこで液晶を確認したのだが、

「えっ!」

 思わぬ表示名に目が醒めてしまった。

 晴人から「明けましておめでとう」だって!

 最近の子はチャットを年賀状代わりにするって都市伝説じゃなかったのか。
 友達同士の文化に疎いせいで年始の挨拶なんて考えてもいなかった。
 慌ててアプリを起動し、晴人が送ってくれた全文を読む。

「明けましておめでとう、今年もよろしくね」

 よくあるテンプレートみたいな文章かもしれない。
 それでも、知り合いの多い晴人から十二時ちょうどにもらえたことが一番嬉しかった。

 彼のスマホならきっとひっきりなしに通知が来ているはずなのに、それでもたぶん初めの方に僕を思い出してくれたんだ。

 今返事をして迷惑にならないかな、と少し悩んだけれど、後回しにする方が失礼な気がして、

「メッセージありがとう、明けましておめでとう。こちらこそ、よろしくお願いします」

 とだけ打って送信ボタンを押した。

 自分の送った文章が噴き出しとなってすぐに既読マークがついて、そこから一秒も経たないうちに着信音が鳴り始める。

「え、うそ」

 両親は家にいて、祖父母もすでに寝ている時間にかけてくる相手なんて一人しかいない。

 どうしよう、急に胸がドキドキしてきちゃった。
 だけど、向こうも僕が起きているとわかって電話してきているんだから、と緊張に震える指先で通話マークを選択する。

「おっ、やっと出た。明けましておめでとう」
「ごめん、びっくりして固まってた。明けましておめでとう」

 スピーカー越しの晴人の声は、いつも隣で聞いているのとはちょっと違っていて、耳に息がかかっているわけでもないのにくすぐったい。

「なんか久しぶり。何してた?」
「ごろごろしてた」
「うわ、もしかして起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫。晴人は?」
「俺はスマホいじってただけ」

 やっぱり。

 予想はしていたけれど、たくさんの「あけおめ」が届いているらしい。さっきからトントンと小気味良いタップ音が響いている。
 きっと僕にしてくれたように、皆にも同様の挨拶を送っているのだろう。
 そんな風に勝手に決めつけて、勝手に心臓がキュッてなった。

 それでも、黙っていたら会話にならないと、なんとか言葉を絞り出してみるけれど、

「そっか、急だったから何かあったのかと思っちゃった」

 なんかすごい嫌味だったかも。
 
 口にして早速後悔と焦りに苛まれたが、

「今年最初に聞くのは志音の声が良かったから」

 なんて言われてしまえば、もう僕に勝ち目などなく、

「そ、そう……」

 と尻すぼみに返すのが精一杯。

 ああ、もう、ずるいなあ。
 電話で正解だった。
 今、面と向かって晴人に顔を見られたら、まるで林檎だと揶揄われちゃいそうだもの。
 真冬なのに、夜なのに、暑いよ。

「志音の家はお父さんが帰ってきてるんだよね」
「うん、だから創作活動はちょっとお休み」
「じゃあ、学校が始まったらまた食べさせてよ」

 寝室にいる両親に気づかれないよう、せっかく細心の注意を払って内緒話をしているのに、さっきから鼓動がやけにうるさくて、部屋の外まで漏れちゃっているんじゃないかって不安に駆られたけれど、そんなのただの杞憂に過ぎず、僕らの控えめな逢瀬は誰にも咎められることなく、晴人が先に寝落ちるまで続いた。

 電池が切れたみたいにコテッとおそらくスマホが手から滑ったのを聞いて、

「もしもし、寝ちゃった?」

 そのまま返答がなかったから僕から切った。

 予報初日の出まであと五時間。
 正確に言えばもう今日だけど、明日は祖父母の家に寄って、お節とお雑煮を食べた後、初詣に行くことになっている。

 晴人と会える新学期までは一週間もある。
 待ち遠しいけど、大丈夫。この胸に余韻が残っているうちは。

 まさか年明け早々に話せるなんて。
 考えてもみなかった僥倖に、僕は幸せな気分で眠りについた。
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