【本編完結済】爆盛りスイーツから始まる恋のレシピ~陰キャ男子はお菓子作りでボッチ回避に成功しました~

ぷかり

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みっちりバスクチーズケーキ1

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 週明け、月曜日の朝。
 この日も山村さんとジョギングをしてから登校すると、靴箱の付近で、なんだか不機嫌そうな晴人が待ち構えていた。
 いつもは混雑を避けたい僕の方が早く着いているのに、珍しいこともあるものだ。
 これじゃあマカロンの時の逆だな、なんて呑気ことを考えたのも束の間、上履きに履き替えたところで腕を掴まれ、人気ひとけのない方へと引っ張られてしまった。

「どうしたの?」

 こんな強引なやり方は彼らしくない。

 何かあったのかと不安になったけれど、

「直人から聞いたんだけど、土曜日のこと」
「ああ、部活中だと思って。メッセージだけになってごめん」

 サッカー部の練習が終わるより前にナオくんを家まで送ったから、特に返信がなくても気にしていなかったんだけど、もしかして逆鱗に触れていたとか?

 咄嗟に非礼を詫びるが、どうやら重要なのはそこではなかったらしい。

「それはありがとう。だけど、それとこれは話が違うよね?」

 どれとどれだ。

 いったい何のことを言われているのか覚えがなくて、首を傾げると、

「志音の天然もそこまで行くと残酷だよ」

 晴人が何やらボソッと呟く。

「え?」
「手作りのお菓子、他のやつにも食わせたんだって?」
「え、ああ、その、なりゆきで」

 珍しく語気が荒い気がする。
 握られたままの腕に力が籠められてちょっぴり痛い。
 それをこの場で指摘してしまうのは、あまりに空気が読めない行動だと僕でもわかったからあえて黙っておいたのだけれど、それがいけなかった。

「俺は、志音の爆盛りスイーツは俺たちだけのものだと思ってたんだけど」

 沈黙を貫く僕を「黒」と認定したのか、また一層強く絞めつけられてしまった。

 そんなに怒るようなことだったのかな?

 俺たちだけって言うけど、ナオくんや大志くん、それに児童館でクッキーを配った子と、その親御さんたちにも、程度の差こそあれ、お菓子の件は知られている。
ナオくんと大志くんが共同制作したことも話題になって、あれで二校の対立が軽減したって教えてくれたのは他でもない晴人なわけだし。

 まさか、晴人の分を取っていなかったから?
 そんなにおやつを楽しみにしていたってことなのかな。
 でも、あれは形が崩れやすいからお土産に向かなくて包まなかっただけだし、他意はない。

「はると、いたい」

 ギリギリと音がしそうなほど圧をかけられ、思わず声が漏れ出る。

「ごめん」

 怒っていても優しい彼は僕が訴えるとすぐに手を放してくれたが、まだ納得はいっていないようだ。
 逃がさないという意志の表れか、代わりにコートの袖口を握られる。

「今度は晴人にも食べさせるから、ね」

 あやすように宥めてみるものの、それだけでは不満だったらしい。
 晴人はバツが悪そうに俯いてから、言い訳みたいな言葉を並べ立て始めた。

「あの巨大なスイーツは志音が心を許している人にしか食べさせないって信じていたから」

 陰った階段裏に声が響く。

「その、他にそういう人ができたんじゃないかって焦ってしまって」

 晴人のこんなところ見たことがない。
 質はどうであれ、僕より遥かに多く仲間のいる晴人が、なんで僕の交友関係が広がることを恐れるのか。

 もしかして嫉妬?
 いやいや、まさかね。
 あまりの必死さに勘違いが加速してしまいそうだ。

「志音、なんで俺以外に教えちゃったの……?」

 それにしても、僕らが共有していたものを、彼がそこまで大切にしていたなんて考えてもみなかった。
 僕だけが「秘密」に特別な意識を持たせて、甘い気分に浸っているものだとばかり思っていた。
 だけど、彼も彼なりにこの関係に意味を持たせていたのだとしたら……山村さんが割り込むような形になったことで気を悪くするのも当然な気がする。

「ごめんなさい。そんな風に思ってくれているとか知らなくて」

 僕の勝手な判断が招いた事態に申し訳なさが先立つも、

「でも、この間ご馳走したのは普通の水羊羹だよ」

 よくよく思い返さずとも、山村さんに巨大菓子など食べさせていない。

「あの人、僕が爆盛りスイーツ好きって知らないしさ」
「え?」

 山村さんが一緒だったことは、たぶんナオくん伝手で聞いたのだろうが、晴人は実物を見ていないから知らないだけで、あの日の水羊羹はただの水羊羹に過ぎない。
 そりゃあ、水羊羹の相場などわからない小学生からしてみれば、いつも通りの巨体に感じたのかもしれないけど、土曜日に僕が作ったのは本当に一般的なもので間違いない。
 ごくごく普通の、ネットで検索できるような分量のレシピだし、それも一本まるごと各々スプーンで掬ったのではなく、常識的なサイズに切り分けてお出しした。
 つまり、何でもないただのお茶菓子である。

 おまけに、山村さんには大変申し訳ない話だが、あの日作ったものは普段晴人が食べているものに比べて手間も材料も全然かかっていない。
 ちゃんとした老舗の和菓子屋さんならもっとこだわっているのだろうけど、素人の僕が作るならあれで充分だしね。
 つまるところ、晴人が爆盛りスイーツと決めつけていただけで、最初から最後までほとんど完全に誤解だ。

 ただ一つ、山村さん個人については黙っていることにした。
 確かに信頼を置いてはいること自体は間違っていない。
 ただ学校で関わることもなければ、晴人とも接点がなさそうだから、あえて詳しく語る必要はないんじゃないかと思う。

 隠す、というわけではないけれど、これ以上ややこしくしたくないという理由だし、後ろめたいところも特にないので、まあ許されるだろう。
 だいたい、山村さんのことを喋ったらダイエットしていることがバレてしまいそうだし、そうなると必然的に晴人が好きだって白状する羽目になりそうなんだもの。

「日頃お世話になっているご近所さんに、水羊羹をお裾分けしたのは本当だけど、晴人が思っているようなことは何もないって」
「そうなの?」
「そうだよ」

 晴人もこれ以上追及することはないようで、あからさまに態度が軟化する。
 すっかり元通りの爽やかさボーイだ。

 やっぱりかっこいいな。
 怒った顔も素敵だったけど。

「次は晴人にも作ってあげるからさ」
「ご近所さんにはあげないで」
「はいはい、わかったから」

 仲直りしよ、と拘束されていない方の手で小指を差し出す。

「それ、指切りじゃない?」
「え? 仲直りのやつじゃないの?」
「約束する時のやつだよ」

 うそ、漫画とかのイメージでこういう場面で使うって思っていたや。恥ずかしい。

「だって僕、したことないし」

 今まで仲違いするような友達もいなかったの! 言わせないでよ。
 そう赤くした頬を膨らませると、晴人がいつものように笑う。

「いいよ、仲直りの指切りしよう。もう喧嘩しないようにね」

 重ねた小指に赤い糸がついていれば、もしかしたら指切りの拍子に絡まり合って、固結びみたいにくっついてくれていたかもしれないのに。
 そんな風に未練がましいことばかり考える僕に、晴人は気づいているのだろうか。
 名残惜しくもそっと指を離すと、わだかまっていたものが解ける気がした。

 これにて一件落着ってことでいいよね?
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