【本編完結済】爆盛りスイーツから始まる恋のレシピ~陰キャ男子はお菓子作りでボッチ回避に成功しました~

ぷかり

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みっちりバスクチーズケーキ2

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 初めてのすれ違いを経ても、僕と晴人の奇妙な友達関係は崩れなかった。
 それどころか、以前よりもスキンシップの頻度が増したようにさえ感じられる。
 と言っても、さして大きな変化があったわけではなく、声かけの際にちょっと肩に触れられたり、咀嚼で動く頬を指先で突かれたり、ふとした拍子に頭を撫でられたり、その程度のものが加わっただけ。
 普通の友達ならサラッと流せてしまうのだろうけど、恋愛的な意味で晴人に好意を持ってしまっている僕にとっては、どれも心臓に悪い代物であることに違いない。

 昼休み、いつもの場所で食休みをしていると、今みたいに後ろから抱きしめられる、なんていうのももはや恒例行事。
 最近ルーティン組み込まれたばかりで、初めてやられた時ギョッとしたのは記憶に新しいけれど、二度三度と繰り返すうちに、いつの間にか彼を背もたれ代わりにくつろいでいる自分がいて、我ながらその神経の図太さに驚くばかり。
 晴人といると楽、というのが前提の仲だからか、くっついていると徐々に触れた瞬間のドキドキを上回って安心してくるんだよね。
 おかげで長時間の接触には強いけど、これは眠くなってしまうのが難点といったところか。

「ふわぁあ」

 お弁当を平らげて満腹になったことも相まって、思わずあくびが出る。

「眠いの?」
「ぅん」

 半分意識を手放しながら頷くも、あまりの眠気にそのまま床にぶつけてしまいそうな勢いで、ガクッと頭を下に落としてしまう。
 そんな僕を晴人は自分にもたれさせるようにして支えた。

「寝てていいよ。起こすから」
「んぅう」

 疲れが溜まっているのかもしれない。
 かれこれ早朝のジョギングはもう二週間も続いている。

 山村さん曰く、

「しんどいだろうが、一ヶ月続けば習慣になる。今が辛抱の時だ」

 ということらしいが、現状大した苦にはなっていない。

 やっぱり仲間に陸上をしている先輩がいるのは心強いし、

「毎日偉いな」

 と褒めてもらってはモチベーションの維持を図りつつ、サボったら山村さんに何か言われるかもと思うと休む気にもならなかった。

 とはいえ、走るために前より一時間も早起きしているから、それなりに睡眠負債が蓄積しているのだろう。

 外は寒いから、薄暗い中でもランニングをしていると、その時は結構しゃんと目が覚めるんだけどなあ。
 集中して午前の授業を受けて、ご飯まで食べ終えたら、もう糸が切れてダメみたい。

 ちょうど晴人に抱えられるようになってから特に、昼は眠くて眠くて仕方がない。
 この間の土曜日なんかは平日より長く走ったからか、昼前に眠気がきて、そのまま夕方まで寝こけていたくらいだし。
 山村さんの助言通り、お菓子作りの頻度軽減を実行していて特に予定もなかったから良かったものの、文字通り休むことに休日を費やしてしまった。
 あの時みたいな爆睡とまではいかなくても、学校でも眠たくなってしまうのは考えものだ。

「おやすみ」

 慈しむような声が耳元をくすぐるけど、もうそれに応える余裕もない。
 ただ、家と違ってこの後また授業があるってわかっているからか、知らず多少気を張っているようで、身体は船を漕ぎながらも、ほんの少し頭が働いてはいる。

 静かだ。
 時たま遠くの喧噪が微かに届いてくる他は何もない。
 陽の当たらない、ひんやりとした空間に僕と晴人の二人だけが存在している。

 話し相手がいなくて暇なのか、彼は僕の髪を手で梳いたり、頬に指を添わせたりしているらしい。
 微睡の中でも彼の動きだけは気配でわかる。
 なんか好き勝手にあちこちいじられているけれど、それを止める気にはならなかったのは、心のどこかで、好きにしてほしい、と思っていたからかもしれない。

 僕は彼が好きだから。
 何をされたっていい。

 寝惚けているせいか、あまりに妄信的すぎるだろうか。
 でも、晴人の気が紛れるならいくらでも触れてくれて構わないなんて思ってしまう。
 ゆっくりとした時間の進みに、いつの間にか本格的に寝入ってしまっていたみたい。

「起きて、昼休み終わるよ」

 肩をポンポンと叩かれて、フッと意識を浮上させると、いきなりドアップで晴人の顔が目に映り込んできた。

「わあ!」

 びっくりしすぎて思わず身体を飛び上がらせそうになるも、その場で跳ねることさえできなかった。

 それもそのはず。

 後ろから晴人が回した腕に腹を支えられていたはずなのに、夢の世界に旅立っている間に体勢を変えられていたようで、なぜだか膝枕されていた。

 普通は下から見上げるこの角度でかっこよくなるはずないのに、僕を覗き込む彼の尊顔は相変わらず整っている。
 真のイケメンには効き顔とかそんなのはないのだろうか。

 というか、これ、ガッツリ僕の寝顔見られてない?
 涎とか垂れていないよね?

 慌てて身を起こし、こっそり口元を拭ってみるが、濡れている様子はない。
 ひとまず安心したところで僕の心を読んだように晴人が微笑む。

「大丈夫だよ。可愛い顔して寝てたから」
「可愛い顔って……」

 言う相手、間違えていますよ。
 本当に思わせぶりなんだから。

 もし神社や図書館で出くわしていなかったら、僕は今頃そのまま彼の言葉を鵜呑みにしていただろう。
 でも、もう真実を知っちゃっているから大丈夫。
 ちょっと胸はヒリヒリするけど軽く流せる。

「なーに言ってんだか。僕だからいいけど、女の子に言ったらきっと本気にされちゃうよ」

 わかっていても、声にすることで余計に傷つくこともある。
 あーあ、もう目元に涙が滲んじゃいそう。
 だけど、そんなの晴人にはいっこも伝わっていないんだ。

「本気なんだけどな」
「はいはい、とにかく軽々しく言っちゃダメだからね」

 こんなところを目撃したら、きっと彼女も嫌な想いをするだろうし。
 恋敵にもならないほど、優位な相手を気遣うのも変かもしれないが、晴人のコイビトがちょっと気の毒になった。

 僕なら、恋人には自分だけを褒めてほしいもの。
 実際には難しくても、極力ライバルに優しくしないでほしい。
 恩恵を受けている僕が「どの立場で」って怒られるかもしれないけど、嫌なものは嫌だと思うから。

「ほら、五時間目始まっちゃうんでしょ?」

 こんな矛盾だらけの、複雑な気持ちを悟られたくなくて、一秒でも早くこの場から離れようと、グイグイ彼の背を押して歩かせる。

「志音、どうしたの?」

 僕の力じゃ晴人なんてビクともしなくて、単なるじゃれ合いのように笑われる。

 違うんだけどな。
 でも、誤魔化せているなら、それでいいのか。

 そんなことを考えながら先を行く晴人に続いて階段を下りていると、

「そういえば……志音、痩せた?」

 急に思い出したかのように、晴人が振り返る。

「え、なんで」

 なんでバレたんだろう。

「き、気のせいじゃない、かな?」

 一瞬固まるも、咄嗟に否定を口にする。

 別にダイエットしてるって打ち明けても構わないはずなのに、認めてしまうと計画が崩れちゃいそうで、晴人にうっかり全部白状しちゃいそうで言えなかった。

「ふーん、そう? なんか胴回りが細くなった気がしたんだけどな」

 それは正解。

 実はズボンのベルトが少し緩くなって、今朝から留める箇所を一つ詰めていた。
 でも、些細な変化だし、ましてブレザーの上からなんてそうそうわかるようなものでもない。

 超能力でも使えるのだろうか。いや、そんなはずは……と教室に着いてからも頭を捻っているうちに、気がつくと六時間目の授業まで終わっていた。
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