【本編完結済】爆盛りスイーツから始まる恋のレシピ~陰キャ男子はお菓子作りでボッチ回避に成功しました~

ぷかり

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まんまるトリュフチョコ6

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 嫌な予感って当たる。
 そう実感したのは、山村さんと出かけた翌日のこと。

 あまりの筋肉痛に通常より遅れて昇降口に辿り着くと、ちょうど山村さんと居合わせた。

「校内では初めてだな」
「そうですね、いつもこの時間ですか?」

 今朝も一緒にランニングをしたばかりなので挨拶は割愛。

 話題という話題もないままに、なんとなく流れで一緒に廊下に上がったけれど、

「わっ!」

 思ったより足が重かったようで、段差で躓いてしまった。

「危ないな、階段はもっときついだろ。二階まで掴まってろ」

 ご厚意に甘え、転ぶ一歩手前で支えてくれた山村さんに、そのまま寄りかからせてもらったのだが、それが良くなかった。ちょうど後から登校してきた晴人に、その場面をばっちり目撃されていたらしい。

 何が彼の気に障ったのかは定かでないにしろ、一限が終わるなり、さらうように僕を人影のない場所に連れ込んだあたり、相当機嫌がわるいのだけは確か。
 そして、それに山村さんが関係していることも、また自明の理であろう。

「あの人、先輩? 志音とどういう関係なの?」

 前に喧嘩みたいになった時よりもずっと低く重苦しい声に、背筋がビクッと震える。

「昨日はあの人と?」

 勘の良い彼のことだ。たぶんもう日曜日の相手が山村さんだって確信していて敢えて質問してきている。

「例のご近所さんもあの人?」

 壁際にジリジリ追いやられて、詰め寄られると体格差のせいか妙な迫力があって、いつもは美しいだけの顔立ちすら、今はただただ恐ろしい。

「俺には言えない?」

 答えて、と圧をかけられれば蛇ににらまれたカエルのごとく、ひとたまりもなくて、何か喋らなきゃと思うけれど、言葉が喉元につかえて上手く出てこない。

「ひぃ」

 そんな怯えが伝わったのか、小さな悲鳴が漏れ出た瞬間、晴人はハッとしたかと思えば、いつもの穏やかな笑みを口元に湛えた。

「ごめんね、怖がらせるつもりはなかった」

 あ、傷つけてしまったかも。
 直感的にそう思った。
 そうだよね、いつも仲良くやっているのに、一人だけ除け者みたいにされたら悲しいよね。
 自分を守ることばかりで、また晴人のこと何にも考えられていなかった。

「ちがう! ちょっとびっくりしただけで……その、隠すつもりはなかったんだけど」

 やっぱり嘘なんて吐くものじゃない。

 晴人の親御さんに会う勇気が持てなかったことと、約束が本当は「先約」でなかったことを除いて、僕はポツリポツリと語り出す。

「あの先輩、山村さんっていって近所で困っている時に助けてくれたんだ。その、最近ジョギングを始めたんだけど、同じ学校だったのは偶然で、昨日はたまたま体力づくりに付き合ってくれて」

 テンパっているせいで支離滅裂な説明になってしまったけれど、晴人は口を挟むことなく静かに聞いていた。

「そういうわけで、校内で会ったのも今日が初めてなんだ」

 と、ここまで話し終えてやっと晴人が口を開く。

「じゃあ、なんであんなにベタベタくっついてたの?」
「ああ、あれは筋肉痛で転びそうになったのを支えてくれただけだよ」

 聞かれて困るようなことじゃないから僕も素直に答える。

「昨日は?」
「ん?」

 何のことだろう。
 遊びに行った場所を知りたいのかな、と思ったけれど、予想は外れた。

「昨日の夕方、駅前で見かけたんだ。志音、あの先輩とベタベタしてた」

 晴人が子供みたいに拗ねている。

 もしかして、これって……

「やきもち?」

 考えがそのまま声に乗っていたらしい。

「そうだけど」

 ぶっきらぼうな肯定が耳に届いて、知らず顔が熱くなる。
 どうしよう、嬉しい。
 晴人にそんな気はないことなどとうにわかっていても、嫉妬されると素直に喜んでしまう自分がいる。

「寒かったから風除けを買って出てくれたんだ」

 全部晴人の勘違い。

「僕の友達は晴人だけだよ」

 そのことが判明して安心したのか、彼はふぅっと身体の力を抜いた。

「なんだ、早とちりか」
「そうだよ」

 もうちょっとくらい誤解させても良かったのかもしれないけど、嫉妬が苦しいって僕も痛いくらい知っているから、意地悪はしないでいてあげる。
 でも、僕が晴人に告白したら、晴人が僕の恋心に気づいたら、きっとこの関係も終わってしまうんだよね。
 そう思うとなんだか名残惜しい。

 晴人は優しいから僕を気持ち悪がって、目に見えて避けるなんて真似はしなくとも、今までみたいに寄り添うことも、当然手を繋ぐこともなくなって、ただのその他大勢みたいに扱われるようになるんだろう。

 今のうちに、残り少ない「特別な友達」を満喫できた。
 そんな風に考えれば、あの厳しい声音すら甘美なものに感じられる。

「足、痛いのに引っ張って来てごめん」
「大丈夫だよ、今朝も走ったし」

 普段歩く方が速いくらいにはヨタヨタしていたけど。
 それでも若さのおかげか、動く時のぎこちなさはだいぶ軽減されてきている。

「お姫様だっこして運ぼうか?」

 いくら冗談でもそれは無理。
 これくらいのノリなら男子校だとたまに見るけど、晴人のためにも断固拒否する。

「ダメだよ。僕、重いもん」

 恥ずかしいより何より腰を壊す恐れがある時点でアウトだ。
 しかし、晴人は大真面目に思案し始める。

「いけると思うんだけどな」

 まさか本気ではないのだろうけど、ダンベル扱いなら尚更勘弁。

「無理無理。危ないから」

 諦めてもらおうしての言葉だったのに、それがかえって彼の闘志に火をつけたらしい。

「えっ、ちょっと、まって」

 戸惑う僕をよそに晴人はあっさり巨体を持ち上げてしまった。

「ほら、できた」

 いくら細くなったとはいえ、それはあくまでも自分比率。
 まだ入学当初の体重より少し重いはずなのに、しっかりと安定感があって、いかに彼が逞しいのか思い知らされた気がした。

「別にもともとそんなに太ってないし、最近痩せたから平気だって」

 首に腕を回すと距離が近すぎて、素直に彼を直視できない。
 顔を背けた耳に直接流れ込んでくる言葉も今は通り抜けていくようで、意味がまったく入ってこないくらい緊張しているのが自分でもわかる。

「可愛い」

 抵抗できないのをいいことに、晴人は僕を抱えたまま危なげなく歩き出す。
 距離にして約五十メートル。決して長くないのに永遠みたいに感じたのは、夢の中の出来事のようだったからか。
 ちゃんと教室の前で降ろしてくれたのに、晴人の腕が忘れられなくて、その日の授業はまったく集中できなかった。
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