特異存在報告書

No.1467――「口無き者」

【特異存在報告書】No.1467――「口無き者」
提出者：██調査官
提出日：20██年██月██日
機密区分：機密-特異災害Sクラス

■ 名称
「口無き者」（クチナキモノ）

■ 種別
超常存在――音声干渉型、精神浸食型

■ 起源および過去の災厄について
記録に基づけば、初めて「口無き者」の影が観測されたのは約四百年前、██地方██村においてである。豊穣を誇ったその地に突如として「沈黙の疫病」が広がった。罹患者は順に喉を潰され、声を奪われ、そして最後は凄絶な苦悶の果てに命を落としたという。

村は沈黙に沈んだ。人々は叫ぶことを恐れ、呻くことをも禁じた。なぜなら――**“声を発した者から順に消えていった”**からである。災厄は「言葉」を媒介として広がり、ついには人の心を蝕んだ。声を奪われた者たちは次第に理性を失い、最期は□□□の形を成さぬ呻きとともに絶命した。

やがて、沈黙の村に一人の巫女が現れた。その名は歴史の闇に伏され、今となっては伝わらぬ。しかし、彼女は「言霊」を操る術を持ち、この災厄の正体を看破するに至った。曰く――

「この災いは“語り”を糧とし、“告げる”ことで広がる。ならば――」

巫女は儀式を執り行い、己の声を代償として「口無き者」を言霊の牢獄に封じた。声を奪われた巫女は、その後二度と言葉を発することはなかった。彼女が沈黙の中で放った最期の言葉は、のちに記録されている。

――『沈黙を守れ、さもなくば“その声”を喰らわれる』

その地には後に「口無き者の祠」が築かれた。それは封印を維持する依代であり、後世に対する戒めの碑でもあった。

■ 祠の設置目的および特異現象
祠は単なる石造りの社ではない。巫女が捧げた声が“言霊”として編まれ、今も内部で封印を維持している。しかし、記録には祠を訪れた者の報告が数多く残されている。


――【調査記録 抜粋】██年██月██日 ██調査員
「祠の前で耳鳴りのような……いいえ、“心の奥”に触れる声を感じました。まるで、頭の中を誰かが覗き込み、“言葉”を引きずり出そうとしているかのような……。喉が、詰まる――いや、詰まらされる……」

――【証言記録】██年██月██日 村の元住人 ██氏
「……あの祠のそばで、誰もいないのに“呼ばれた”んです。“ねぇ”って……確かに私に向かって。言いたくないのに、なぜか声を出しそうに……出したら終わる、そう直感しました」

口無き者は、祠に近づいた者の“内側”に触れ、内心に眠る“語りたい衝動”を引きずり出す。
その誘いは時に優しく、時に冷ややかに、あるいは嗤うように迫る。耳ではなく、脳裏に直接“響く”感覚である。それは決して音ではなく、**“言わせようとする何か”**だと多くが証言する。

この声に応えた者は――二度と、言葉を発することがなかった。
帰還者がいたとしても、彼らはただ口を開閉するばかりで、どれほどの叫びも喉の奥に絡まり、**“沈黙だけ”**を撒き散らした。

■ 特性および禁忌事項
「口無き者」の特異性は、その名が“告げられる”ことで顕現する。通常、その代償は「声」の喪失にとどまる。しかし、封印が弱まると、影響はさらなる段階へと至る。特に――

**“己ではなく、他者にその名を言わせた場合”**は、封印が大きく揺らぎ、さらなる災厄を招く禁忌とされている。

【重要警告】
即座の死は招かない。
しかし――■■■の際は例外である。███状態下で■■■■■■■■■■が発生した場合、封印は崩壊し、███とともに███████が███される。

また、「口無き者」の名を口にする行為は、言葉そのものを断たれる恐怖を伴う。証言によれば、
「喉が張り裂ける痛み――ではなく、“言葉”そのものが掴まれ、裂かれる感覚”が走る」と記されている。
その感覚に襲われた者は、たとえ叫びを試みても、声は喉の奥で“塊”となり、決して外へ出ることはない”。