弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり

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サクラアイランドの妖精達

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 四大精霊の内、地、水、火の精霊や子孫が、コロネの住むユゼフィラン国に集まりつつあった。

 四大精霊の他の多種の精霊達も、甘い香りと美味しいスイーツに引き寄せられ、その数は増加の一途を辿っている。

 スイーツ作りや果物を作っている者達の人間性も穏やかで、精霊には非常に住みやすい場所だった。


 まああくまでも、(みんな食いしん坊なので)美味しい物が優先されてしまうのだが。

 美味しいスイーツ 〉良い人・良い環境なのだ。勿論、私欲にまみれ意地悪な人間は論外で。


 そんな感じで妖精の加護を十分に受けた場所は、ますます肥沃となり美味しい物を産み出し続け、新作スイーツは妖精の心を震わる。

 そんな循環が続き、チェロスト子爵領もその周辺地域も恩恵を受けて豊作になっていた。


 ただその反面でモロコシは、収穫物の輸出は慎重に行っていた。市場の混乱を起こさないように、そして取り合いになることを恐れて。

 モロコシは東の大国であるスルファカトレとだけ、果物や保存の効くスイーツや菓子の販売を決めた。

 いくらモロコシが冒険者のギルド長だと言っても、ユゼフィランの中での話である。
 それに他にも薬草、鍛治、商人、漁業、農業、林業など、多くのギルドがある中の一つなのだ。

 他国との実際の取り引きは、商人のギルド長で友人の、ホワイトガ・ナートリュフに託していた。
 彼もモロコシ同様に暗い過去を持つ苦労人。今では(養子の方が多い)子だくさんとなり、幸せを満喫しているが。


 サクラアイランドに拠点を持つ、エアピゾーラ侯爵家。彼らは風の精霊を守護を受けて数ある(暴力的な)ピンチを脱し、ギルドや商会と提携して銀行を作り上げてきた猛者だ。

 彼らの家系は先祖代々、妖精第一主義である。その為、妖精が望む物なら何でも手に入れてきた実績がある。

 銀行がコロネのいるユゼフィランに銀行支店を置いた時には、フルーツパーラー『エクラ』もなく、サクラアイランドの妖精達と侯爵家はこの地をノーマークにしていた。


 けれど最近、エアピゾーラ侯爵家の者が外遊中に、保存の効くお菓子をスルファカトレで買い付けてお土産にしたところ、妖精達が色めき立ったのだ。

 
「何これ、美味しすぎるぞ」

「ねえ、チャルメ。もうないの? みんなで食べたら、すぐになくなったわ。また買ってきてよ」


 風の妖精夫婦である、夫のシルフと妻のシルフィード(普段フィーと呼ばれている)は、頬を染めて侯爵家次期当主のチャルメ・エアピゾーラに詰め寄ったのだ。

 妖精達の代表として。


「ごめんね、もうないんだ。お試しに買っただけだから。好きならまた買ってきてあげるよ」

「そうか! 明日、明日買って来るのか?」

「ちょっと遠いので、それはちょっと無理かな? でも近いうちには」

「嫌よ、我慢できないわ。それなら私達が、そこに直接行けば良いんじゃない?」

「ちょっと待ってよ。君達だけじゃ、お菓子を買えないでしょ? それにそのお菓子が作られたのは、買った国の隣でユゼフィラン国と言うらしい。銀行の支店もあるから、きちんとしたルートで行こう。特にフィーは方向オンチなんだから、はぐれたら大変だよ(探す僕らが)」


「そうね。じゃあ、今日はゆっくり休んで、明日一緒に出発しましょう。さすがのチャルメも疲れたでしょ?」

「おおっ、俺の妻は優しいな!」

「でしょ? 私だって人間が弱いことは、学習済みよ。でもシルフに褒められるの嬉しいな♡」

「君は幾つになっても、可愛い奥さんだなぁ♡」

「もぉ、シルフったら。フフフッ」



 妖精達はご陽気だが、チャルメはそれどころではない。

(マジか! すぐに父上に報告書を上げて、出立の準備をしないと。今夜は徹夜だな。疲れたよ~)


 だって彼らは、妖精だもの。
 チャルメがどのくらいの疲れなのかなんて、知るよしもないのだ。
 風の妖精の奔放な感覚と人間の感覚は、とてもかけ離れているから。それでもシルフとシルフィードは人間が大好きで、歩み寄っている方なのだが。


 そんな訳で。
 優しいミモザの花色の髪と、エメラルドの瞳を持つチャルメは、優しげなタレ目の可愛い顔に疲れを滲ませていた。

 まだ17歳なのに。
 既に14歳から次期当主として、妖精の担当を任されてきた彼。

 彼の父であるマルチャも、先代である実父からその年で担当の任を受け継いでいた。降りることが出来るのは、彼の子(養子も可)が14歳になった時である。

 エアピゾーラ侯爵家の繁栄の裏には、隠された真実があった訳だ。



 風の妖精を率いるシルフ夫妻と、従者のようなチャルメの構図。妖精の声が聞こえる者も見える者も極僅かで、妖精が狙われないことは幸いだが、それを支える苦労も多いのだ。

 妖精が見えるのは、当主夫妻と次期当主夫妻とその子供達だけである。
 次期当主として家督を継ぐことに決まった嫡男が14歳になると、他の子供達は妖精の存在を感じられなくなるのだ。



 サクラアイランドはスイーツが豊富で、多くの妖精が満ち足りて暮らしているけれど、食への拘りもまた強い。



 結局のところ、チャルメも美味しいものが大好きで、「新しい食感で旨いな。みんなにも食べさせてあげよう」と買ったのが、今回のお菓子だった。

 お互いに好みの違いもあるので、ここまで食い付くのは初めてだった。


 幼い時から共に暮らすシルフとシルフィードのことは、兄と姉のように慕っている。どんなに無茶を言われても、大好きなことは揺るがないのだ。


「みんなが喜んだから、いっか。珍しく、シルフとシルフィード以外にも好評だったなぁ。ふふっ、今度はお土産たくさん買って来なきゃな」

 
 まるで残業を終えたサラリーマン(父)のように、爽やかなチャルメ。



 お土産が発端のまさかの遠征は、新たな出会いをチャルメにもたらすことになるのだ。







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