記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ

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王太子の愚策

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―――引き続き グレンside―――


俺は今、目隠しと手を縛られて馬車に乗せられている。

揺れが収まって来たからどうやら街道に戻って来たようだな。

暫くして馬車が止まった。目的地に着いたらしい。

襲撃された場所からここまで、およそ40分くらいか…

「おい、ここで降りるんだ!」

「………」


「階段だ、登れ!」

2階か…

「ここだ、入って大人しくしていろ!」

一番奥の部屋と仮定して、そこそこの邸だな…

人の気配はあまり無い…他に仲間はいないみたいだが…

「手は縛ったままで、目隠しだけ外しておけ!」

こいつ等はそこまで賢くは無いな。普通目隠しは外さんぞ?

最初の襲撃で手練れを使い切ったか。

「お前。雇い主が来るまでドアの外で見張っておけ」

「へい!」

へいって何だよ。チンピラかっての。



さて…静かになったな。 なら…よっ…と……よし、外れた。

縛り方が甘いんだよ。



―――20分後―――


コッ…

コッ…

お、来たか、早かったな。

合図が2回。 配置に就いて準備は整ったわけだな。

後は王太子が来るのを待つだけか…




―――ダニエルの執務室―――


《ダニエル様…》

「…動いたか?」

《はい。学院からの帰路でグレン様の馬車が郊外へ向かい、その後を追う者がいました》

「今の状況は?」

《街道を外れた辺りで襲撃を受け、今はある邸に監禁されている様です》

「邸の主は殿下だな?」

《はい。グレン様の隠密が間もなく配置に就くと思われます》

「自分名義の邸を使うとは、やはり若いな…」

オウグストには悪いが、仕方あるまい…第2王子と歳が離れているとは言え、王太子にするのは早すぎたのだ。

隣国からの留学生に手を出すなど、しかもそれが王兄殿下の長子とは…伏せられていたとは言え、知らなかったでは済まされんぞ…

「証拠は粗方揃ったか?」

《はい。監禁場所が王太子所有の邸でしたので決定的です》

「分かった。彼が負けるとは思わんが、万一の時の為に影も数人配置しておけ。もしもの時はセレンディアが泣くからな…」

《フッ…承知致しました》




―――グレンside―――


「どうだっ! 捕まえたのかっ!?」

「これはこれは王太子殿下。捕まえましたよ」

「そうかっ!! では褒美をくれてやる。受け取れっ」

「へへっ。 では俺達はこれで――おいっ、見張りも連れて来い。引き揚げるぞ」

「へいっ」



ん? 少し騒がしくなったな…やっとご到着か。

バンッ!!

「はははっ! いい格好だな、グレン・ファリアスタっ!!」

入って来るなり踏ん反り返るな…どこのガキ大将だよ…ったく

俺は内心溜息を吐きながら呆れてしまった…

「何故ここに王太子が…?」

「ふんっ!!貴様を攫ったのは私だからなっ!ここは私の所有する邸だ」

「一体何の為にっ!」

「貴様が私のモノに手を出すからだっ!! だからこの私が直接始末してやろうと連れて来たのだ」

ピクッ!

この野郎っ…今何て言った……モノ…?

「………お前のモノだと…?」

演技を忘れた俺の無表情と、まるで別人の様に低く響く抑揚の無い声に王太子が後退あとずさる…

「っ!?」

一瞬怯んだ時、俺が手を縛られているのを見たのか…

「は、はははっ!!縛られたまま凄んでも怖くも何とも無いぞっ!!」

「あゝ…これか……そんな事より…何がお前のモノなんだ…?」

俺は静かに立ち上がった。

「セ、セレンディアに決まってるだろうっ!」

「へぇ…? セレンディアをモノ扱いか…」

1歩近づく。

「アレは昔から私のモノなのだっ!!」

また1歩近づく。

「……さっきからアレだの…モノだのと…」

手の縄を外し、さらに1歩踏み込む!

「セレンディアはてめぇの所有物じゃねぇぞっ!!!」

ばきぃっ!!

「うがああっ!!」

ドガァーン!!

どさっ!

王太子は壁まで吹っ飛んだ。

「ぐっ!!」

仰向けに寝転がる王太子の喉元を踏みつける。

「観念しろよ…てめぇは終わりだ……」


―――?……階下から物音と人の気配が複数…公爵が呼んだ騎士隊か…?

その時、苦し紛れに王太子が腰の剣を抜いた。

「っ!!」

丁度良い……直ぐ騎士隊が上がって来る。殺人未遂の現行犯だ。

「貴様のっ! 貴様のせいでっ! 死ねええっ!!!」

おいおい…剣も真面まともに使えないのかよ……

バンッ!!

「ファリアスタ様!! ご無事ですかっ!?」

「王太子殿下! 剣をお捨て下さい!」

騎士が数名雪崩れ込んで来た。

「王太子を取り押さえろっ!!」

「「「はっ!!!」」」

「離せええっ!! 無礼者があっ!!!」

王太子は現場に駆け付けた騎士達が捕縛し、そのまま連行されて行った。



「ウィンガザル公爵から緊急の連絡が御座いまして、今回の襲撃と誘拐の証拠が提示されました」

「そうですか…」

「お怪我は無いようですね…では、邸迄お送り致します」

「お願いします」


はぁ…欲を言えばもう少し派手にお仕置きしたかったが、あれでも一応王族だからな…セレンディアの生まれた国だし、この辺が落としどころか…

しかし、最後は公爵にいいとこ持って行かれたな…

まぁ、俺はセレンディアが無事ならそれで良いんだけどね。



あゝ、早くセレンディアに会いたいな――――――



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