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第一章 元冒険者、真の実力を知る

04:命と心の恩人、エラとの出会い

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 あの悪夢を思い出しながら一目散に走っていたが、さすがにもう走れない。
 なんとか王都まではたどり着いたらしい。

「こんなことになったの、お前のせいだからな!」
「ホントに使えない、いるだけ迷惑」
「クリスタルが入ってからだよ、こんなにモンスターを取り逃したのは」

 あの三人から言われたことが、冒険者ギルドを離れてからもまだまとわりついている。
 全速力で走ってきたこともあり、お腹が空いて気持ち悪い。今にも倒れそうだった。

 今まで王都に来たことは何回もあったが、こんな究極な状態で来るのは初めてだ。

「確か……あそこに食事ができるところが……あったはず……」

 私は心身ともにふらふらになりながら、その食事処のドアの前までたどり着く。ドアを開けた……ところまでは覚えている。





 あれ……なんか柔らかい。いつもは痛い背中と腰が痛くない。

「気がついたかい」

 目を開けると、長い金髪を横で結わえた、大人っぽい雰囲気の女性がのぞきこんでいた。
 壁紙のない、木の板を打ちっぱなしの壁や天井。

「ここは……」
「うちの二階の部屋だよ。ちょうど誰も泊まってなかったからよかった」

 私はこの瞬間に全てを思い出し、ガバッと起き上がる。この女性、お店の主人だった!

「はっ……! す、すみません! 確か私は――」
「うちのドアを開けたとたんにぶっ倒れて、あたしがここまで運んできた。他の客が心配そうにしてたぞ」
「あ、ありがとうございます」

 グゥゥゥゥッ

 どれくらい寝てしまったのかは分からないが、再びお腹が鳴ってしまった。

「ほら、とりあえずこれを食え。今日のディナーセットの余りだ」

 そんな状況を分かっていたのか、サイドテーブルにはパンとスープが置いてあった。

「いただきます」

 まずスープを一口。……おいしい。すごくおいしい。さすがお店の味。

「どうだ、うまいだろ」
「おいしいです」

 こんな笑顔がこぼれる食事は何年ぶりだろう。私だけでなく、主人もにこにこしてくれている。

 まだ冒険者になる前。兄や姉がまだ家にいた頃は、毎日三人を褒めておいて私だけ「どうしてお前は下手なんだ」と叱られてばかりだった。

 パーティに入ってからも、私が足を引っぱってしまったせいで、食事中の雰囲気は最悪だった。冒険者ギルドの外で食べても、あの三人の会話には入れさせてもらえない。

「俺たちの話に入る余裕があるなら、もうちょっとマシに振るまう方法を考えろ」と。

 思い出せば、よく聞く『楽しい食事』というものをしたことがなかった気がする。

「そういえば、あの持ち物といったら……あんたは冒険者かい?」
「冒険者……でした」

 主人は何かを察して、「何があったんだい?」と優しく(元の口調が強いのでそれと比べて)してくれた。

 誰にもこの気持ちをこぼすことができなかった私に、寄り添ってくれようとしているのだろうか。

「パーティからも、家族からも追放されたんです。……私がパーティの足を引っぱってしまったので、妥当といえば妥当なんですけどね」

 意識せず勝手にため息が出る。

「ということは、あんた、帰る場所がないってことかい?」
「はい……」
「それならここ、あんたの部屋でいいから」
「えっ、いいんですか!?」

 このお店の存在は知っていたものの、中に入ったことはないため、主人とは完全に初対面。
 それなのに、初めて会った人にこんなに優しくしてくれるの……!

「でも部屋を貸すだけだから金はとるよ。今いくら持ってるんだ?」

 あっ、そ、そうだよね。でも……。

「金貨二枚だけです」
「それじゃあ足りないな……。それならどこかで働くか、下の店を手伝ってくれてもいい。手伝ってくれたら、金は寄越さなくていい」

 私を助けてくれて、あんな食事まで出してもらって、しっかり恩を返したい。

「お店、手伝います。身寄りがない私に、こんなに優しくしてくれたんですから」
「そうと決まれば、明日からバンバン働いてもらうからねー」
「はい!」

 あまりの主人の優しさに、私は目がうるみそうになりながら返事した。ふと気づく。

「あの……このお食事代と、今このお部屋を使わせてもらっている……その……宿泊費は……」
「とらないよ。最初っからそのつもりだ。ただでさえ金がないのに、そこからむしり取るような人間じゃない」

 言い方とか態度がちょっと強めな主人だけど、根は優しい人なんだね。

「じゃあ改めて。お世話になります、クリスタルです」
「あたしはこの『サヴァルモンテ亭』をやっているエラだ。よろしく」

 今まで自己紹介の時は、もちろん名字を言ってきた。でも追放された今、それを名乗る資格はないだろう。
 それよりも、名字を名乗ることで、あのアーチャー家の娘だとは思われたくないのだ。

 それもこれも、全て私のせい。私が下手くそだから、私にツケがきてるんだ。

「まぁ、今日一晩はゆっくり休みな。私は下のキッチンで明日の仕込みをしているから」

 そう言って、エラはこの部屋から出ていってしまった。私、一人。

「そういえばどれくらい寝ちゃったんだろう」

 木のブラインドが下がっているが、昼間ならすき間から光が漏れているだろう。
 エラさんが「明日の仕込み」っていうくらいなら、たぶん夜だよね。

 ギシギシと音を立て、ブラインドを上げてみる。

「……やっぱり」

 やけに星がきれいに見えた。しかし、今の私には星さえまぶしすぎた。顔を外に出して横を向くと、よりまぶしい月の光に打たれた。

「…………はぁ」

 何か言葉を出そうにもため息しか出ない。
 結局、昼間に寝すぎたせいで夜は寝つけず、たびたび涙で枕をらしながら長い夜を乗りきったのだった。
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