7 / 49
第一章 元冒険者、真の実力を知る

07:あの人たちの翌日

しおりを挟む
 クリスタルをパーティから追放した翌日、三人は今までになく『清々しい朝』を迎えた。

「さて、ようやく邪魔がいなくなった。他のパーティより一人少ないが――」
「何よディエゴ。あいつなんているだけムダだし、むしろいなくなってくれてよかったわ」

 意地悪そうな笑みを浮かべるジェシカに、ディエゴも「……そうだな」と同じような笑みを作る。

「どれだけやりやすくなったか、俺も楽しみだ」

 頬杖ほおづえをつきながら、イアンも小さくうなずく。

 朝食を食べ終わると、三人はそれぞれ荷物と武器を持ち、ギルドの庭での『慣らし』をしに行く。
 煩わしいものが消え、剣の一振り一振りに力が入る。ディエゴもイアンもジェシカも。

「さて、そろそろ討伐に行くか……あぁ、気にする必要はなかった」

 いつものように、ディエゴの指示でパーティは動く。これは『厄介者』がいなくなっても変わらない。
 むしろ『厄介者』を追い出したおかげで、一日がスムーズに進んでいる。『厄介者』はディエゴたちより倍の慣らしが必要で、討伐に行こうとする三人の手を煩わせていた。

「今日からはいっぱいモンスター狩って、がっぽり換金してもらうんだから!」
「……あぁ」

 両手でガッツポーズをするジェシカに苦笑いするイアン。
 三人は冒険者ギルドの裏の、ダンジョン化した森(上級者向け)へと入っていった。





 森に入ったとたん、三人は毒キノコのモンスター・ルーマシュムの大群に囲まれてしまった。

「今日はいつもより数が多いな」
「……数は多くてもたかがルーマシュムだ」

 背中合わせに三人は剣を構え、ディエゴの「いくぞ」の合図で同時に攻撃をしかける。

 斬る時に飛ぶ、毒入りの体液には気をつけつつ、絶妙な角度をつけて何体も斬り倒していく。
 しかし、その様子を木の陰から伺っていたモンスターがいた。飛び出した。

「ぐっ……!」

 ディエゴの肩から血が流れ出る。

「ディエゴ! 大丈夫!?」
「ああ、これくらいなら」

 そう言ったものの、剣を振るうための筋肉がやられ、明らかに動きが鈍っている。
 イアンがルーマシュムを全て片づけると、木の枝に止まって目を光らせているモンスターに目をやった。

「アウバールか」

 フクロウのような飛行するモンスターで、滑空してくちばしで攻撃してくるものだ。だが、大きさはそれほどでもなく、このアウバールは三十センチほどの体長である。
 ルーマシュムの次に強いくらいのモンスターだ。

「先に進みたいが、アウバールに追いかけられては厄介だ。ひとまず倒しておこう」
「……分かった、俺がおとりに」

 イアンは剣先を前に突き出したまま、こちらをにらみつけるアウバールに近寄っていく。
 かなり近くまで剣先が迫っているのにもかかわらず、アウバールはピクリともしない。

(……いける)

 このまま逃げないとみたイアンは、腕を少し引いてアウバールに剣を突き刺した――はずだった。
 すんでのところで真上に羽ばたいていき、イアンが見失った瞬間、腕に鈍い感覚が走る。

 さっきディエゴが攻撃されたのと同じところが赤く染まっていた。

「……な、なぜだ」
「飛ぶモンスターはやはり厄介だな」
「どうして! いつもこれくらいのモンスターなら、剣で倒せるでしょ!」
「……弓使いがいないからか」
「と、とりあえず! 何も収穫がないんじゃ、上級パーティの恥よ! アウバールだけは倒さないと!」

 数分後、やっと三人がかりでアウバールをしとめた。
 明らかに、厄介者がいなくなる前より、モンスターから攻撃をらう回数が多くなっている。

 滑空してくるアウバールを突き刺すだけの、ディエゴたちには簡単な仕事だったはずなのに。





 今日はダンジョンの奥には進まず、中級のダンジョンにいるくらいのモンスターを少し狩って、討伐は終わった。
 ギリギリの体力で帰ってきた三人は、ダンジョンの出入口でちょうどとある弓使いに出会った。

「あれ、昨日弓使いを追放した、ディエゴのパーティじゃない。いつもよりかなりボロボロになってるみたいだけど、収穫は?」

 ディエゴもイアンもジェシカも、その弓使いを知っている。弓使いの名門、あのアーチャー家の長女――クリスタルの姉だ。

「今日はあまりモンスターがいなくて。ルーマシュム、アウバール、トロックスーン――」
「え? 『今日はいつもよりモンスターが多いから狩ってきてくれ』って、ギルドの管理人から言われたから来たんだけど」

 三人の顔が(ケガを負って青ざめているところに)さらに青くなる。

「そ、そうかな。中にはあまりいなかったけど」
「あまりいなかったなら、どうしてこんなにボロボロなの?」

 三人の顔がさらに引きつる。ディエゴの言い訳がかなり苦しい。

「その傷は何かに突き刺された痕。牙とか爪とかじゃない。アウバールのくちばしでしょ?」
「い、いえ、アウバールごときの傷じゃないわ、えっと……」
「やっぱり、弓使いがいないとキツいでしょ」

 ディエゴたちはひどく痛感した。アーチャー家の娘に言われたのだからなおさらだ。皮肉にも、アーチャー家の娘を追放したのだが。

「そうだ。最近はソロでやってたけど暇だから、ディエゴのところに入ってやってもいいけど」

 ディエゴより背は小さいはずだが、見上げるような感覚になるのは気のせいではない。

「まぁ、入りたいなら入れ」
「ほ、本当は弓使いなんて必要ないけどね!」
「……またアーチャー家のヤツか」

 それぞれ体の数ヶ所から血を流しながらも、強がり続ける三人に、ため息をつくアーチャー家の長女。

「明日、本当の弓使いっていうのを見せてあげるから。強がっていられるのも今日までだろうね。じゃあね」

 背負っている筒から矢を取り出すと、何も言わずにこちらを振り向いてから、ダンジョンの中へと入っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...