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第二章 元冒険者、弓の騎士になる

24:兄たちとの再会、全ての元凶

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 武術訓練が終わり騎士団寮を出ると、空は赤く染まりつつあった。
 数歩歩くと、見覚えのある顔二人がこちらに向かって駆けてきたのだ。

「クリスタル!」
「お、お兄さま。お久しぶりです」

 おそらく、訓練が終わるまでここら辺で待ち伏せしていたのだろう。

「クリスタル、このあと一緒に話せないか」

 三週間前に姉が私に謝りにきて、このタイミングである。話の内容は薄々感づいていた。

「すみません、このあと店を手伝わないといけないので」
「いつ終わる」
「閉店までだと思います。九時くらいですね」
「九時か……」
「どうしても今日話さなきゃいけないことですか」
「そう……だな。俺ら二人は今日しか空いてないから」

 お姉さまのときくらいに話が長くなるはず。ここで立ち話して終わるようなことじゃない。それで済むなら、今ごろはもう話し始めているしね。あっ、そうだ。

「……とりあえず、ついてきてください」
「分かった」

 私は二人をそのままサヴァルモンテ亭に連れていくことにした。





 サヴァルモンテ亭は食事処であるだけでなく、宿屋でもある。二人がサヴァルモンテ亭に泊まれば、店の閉店時間を過ぎても二人を追い出さずに済む。

 果たして、エラも兄二人も了承するかは分からないが。

「エラさん、ただ今帰りました」

 もう席が半分くらい埋まっており、既に混み始めているようだ。
 エラはテキパキとお客さんの料理を作っている。

「おかえり。その連れは?」
「私の兄です」
「兄貴たちか。何か食べるか?」
「そうじゃなくて、エラさんに話が」

 私は弓道具を持ったまま厨房に入る。ついてきた兄たちは厨房に入る手前で止めておく。
 お客さんに聞かれないくらいの声でエラに尋ねる。

「今日、兄たちを泊めてほしいのですが」
「ああ、構わないよ。今日は五部屋空いてるからな」

 意外とすんなり了承してもらったので、次は兄たちに問いかける。

「今日ここに泊まれば、夜にゆっくり話せますけど、どうしますか」
「お代は?」
「朝食つきで、一人銀貨七枚です」
「二人で金貨一枚と銀貨四枚か」

 どうする、と兄二人はひそめ声で話し出す。
 兄だからといって、値引きはしないつもりでいたが――

「待ちな、クリスタル。クリスタルに特別扱いしてるのに兄貴にしないのは、主人として納得いかないな」

 エラに待ったをかけられたのだ。

「そうだな、二人同じ部屋を使ってくれるなら、二人で銀貨七枚にしてやる。朝食つきだ」
「だそうです。お兄さま、どうしますか」

 あとは兄たちがどうしたいか。

「それでいい。主人、今日は厄介になります」
「よろしくお願いします」

 私はエラから鍵を受け取ると、兄たちを部屋に案内した。





 閉店からいつもの片づけをし終わると、エラに肩をトントンとたたかれた。

「クリスタル、あそこの席使いな」

 厨房から一番近くにあるテーブル席を指さす。

「分かりました」

 返事をしながら、私は階段を上がって兄たちを呼びに行った。
 兄たちを座らせると、明日の仕込みをしている最中のエラが二人に呼びかける。

「何か飲み物はいるか?」
「あぁ、じゃあビールで」
「俺もビールで」

 ビールジョッキ二つをそれぞれ二人の前に置くと、私はアイスティーを持ち寄ってイスに座った。

「さっそくだが、今日お前が練習しているところを見た。いつの間にかなり上達したようだな」

 やっぱり冷やかしにきたのかと、少々裏切られた気持ちになったものの、

「お兄さま、ここは単刀直入に」
「そうだな。……クリスタル、今まで本当にすまなかった」
「すみませんでした」

 サム兄の発言と謝罪までの間につながりがなく、戸惑う。私が黙っているのに耐えられなくなったのか、セス兄は謝罪の内容をぽつぽつと言い出す。

「謝りたいことは、お姉さまが言ったのと同じ内容だ。家にいたときの俺たちの態度。俺たちはお姉さまと違って、直接お父さまから言われて、あのような態度をしていた」

 やっぱりそうだったのかと、一つの謎が解けたような気持ちになる。

「お父さまが、私に対してこういう態度をとりなさいと、仰ったのですか」
「そうだ。『クリスタルは下手だから厳しくしてやらねばならない。甘やかすな』ってな」

 サムお兄さまがそう言うってことは、お姉さまが言っていたのは本当だったんだ。

「最初言われたときは『そんなことしていいのか』って思ったよ。でも、お父さまには逆らえない。覚えてないかもしれないけど、一回お前を励ましたことがあって……」

 サム兄は一呼吸おいて、「お父さまに、甘やかすなと叱られた」と、心苦しそうに言った。

 確かにお父さまには逆らえない。お父さまの言う通りにしなければ、練習を見てもらえなくなり、殴られるか叩かれるかされ、表に出されるからだ。

「お兄さまやお姉さまにされたことは、すぐに許せることじゃありません。でも、お父さまに逆らえなかったというのもよく分かります」

 そう考えるたび、私はどうしたらよいのか分からなくなった。許したくないけど、お父さまには逆らえないから仕方がない。
 うん、正直に言ってみよう。

「すみません、私……お兄さまたちを許していいのか決められません。まだお姉さまのときの返答もしてなくて。今お兄さまたちから聞いてなおさら、判断できなくなってしまいました」

「今すぐとは言わない。お前が物心ついたときからつい二ヵ月前まで、長い間嫌な思いをさせてしまったからな」
「むしろ、ゆっくり考えてほしい。思いつきの答えなんて求めてないから」

 ほんの少し、よかったと思ってしまうのは私の性格だろう。私に冷たい態度をとったことを悪く思っているだけ、まだいいのかもしれない。

 やはり、父だ。諸悪の根源は父だ。どれだけ私が下手であろうとも、練習と日常生活と接し方を使い分けることはできたはずだ。

「ごめんなさい、一晩考えさせてください」

 胃が痛い。父と合わなければならない可能性を考えただけで具合が悪くなりそうだ。
 その夜、私はなかなか寝つけず、父のことがずっと頭を駆け巡っているのだった。
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