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第三章 元冒険者、まさかの二刀流になる

27:神出鬼没の三男・オズワルド

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 ……武器を奪うしかない。

 男が持っている刃物は、たぶん短剣だ。剣なんて生まれてから一度も使ったことないけど、しょうがない。今はこれしかない。

 冒険者時代、私の弓が使い物にならなさすぎて、突進してきたモンスターに素手で挑んだことがある。弓使いとしてあってはならない恥ずかしいことだが、まさかここでやることになるとは。
 右手をまっすぐに伸ばし、短剣を握る男の手をめがけて素早く振り下ろした。

「うわっ!?」

 短剣は男の手を離れ、地面に落ちる。回転しながら転がる短剣を足で止めると、短剣を握って男を見据えた。

「俺から奪うなんて、やるじゃねぇか。女だからってなめてたが、今度は容赦しねぇぞ」

 ザザッ……

 後ろから何人もの人が出てくるような気配を感じた瞬間、剣を奪った男が動いた。

 挟み撃ちされる!

 私はとっさに真上に跳び上がったと同時に、下から吹き上げるような風のおかげで滞空時間が長くとれた。直前まで私がいたところには、五人くらいの男が刃を向けていた。
 だが、着地するところがないので、私が真上に跳んだせいで態勢を崩した男の背中を借りることにする。

「グハッ」

 背中経由で地面に降り立つと、瞬時に覆面男たちの人数を見積もる。
 まず、青年を取り押さえている男が四人。そして、私に攻撃してくる男がざっと十人くらい。

「多い……」

 すべての覆面男に目配せをして様子をうかがっていると、青年を取り押さえる男の足の間から、短剣が転がってきたのだ。

「これも使って!」

 青年の短剣らしい。それまで身動きがとれていないはずだったが、私のおかげで男たちの意識を分散できたのだろう。
 私は両手に短剣を握った。剣すら扱ったことがないのに、二刀流ってこと?

「コラッ、何をしている」
「ゔっ……!」

 下手に動いて私を助けたせいで、ついに青年は腹を蹴られてしまった。
 これ以上男たちの神経を逆なですると、お兄さんが危ない!

 私は、こちらに攻撃してこようとする男たちに向かう……と見せかけて、青年を囲む男たちの方に短剣の刃を向けて突進した。

「なにっ!?」

 キンッ

 向こうには隠し持っていた短剣で防がれたが、驚いているスキに胸あたりへ蹴りを入れる。
 まずは一人気絶させた。

「なんだコイツ、ただ者じゃねぇ!」
「離れろ!」

 作戦が功を奏し、青年の解放に成功した。
 左手に持っていた青年の短剣を返却する。

「お返しします」
「僕たちのことはいいって言ったのに……ありがとう」
「いいえ」

 私と青年は背中合わせになり、男たちとガンを飛ばし合う。

「僕は僕のタイミングでいくからね」

 青年が事前申告してくれたので、私も青年のタイミングで動こうと決められた。
 数秒後、青年の地面を蹴る音に即座に反応し、私も走り出した。

「もし不審者を取り押さえることになったら、絶対殺すな。生かしたままここに連れてこい」

 脳裏によぎったリッカルドの言葉でハッとした。
 そうだ、相手はモンスターじゃなくて人間だ。殺めたらいけない。

 さっと切っ先を男の胸から肩に変更し、勢いそのまま男の肩に突き刺す。
 青年の方に視界を移すと、驚くべき光景が広がっていた。

 一回の攻撃で、青年側にいた男たちが全員倒れていたのだ。

「今度はそっちだね」

 私が男から短剣を引き抜いて次に備えようとする間に、青年が残りの男たちを片づけ終わっていた。

「は、はやっ!!」
「君、ケガはない?」
「お、おかげさまで無傷です」
「よかった」

 青年はフードを脱ぐと、ポケットから見覚えのあるものを取り出して私に見せた。盾型のワッペンである。

「僕、こう見えて騎士なんだ。だから君にお礼を――」
「私も騎士です! 先日なったばかりですが」
「えぇっ!?」

 私もポケットに入れていたワッペンを見せ、「まさかここで他の騎士かたに会うとは」と苦笑いした。

「女性の騎士っていうことは、君はクリスタルちゃん?」
「はい、そうです」

 ちゃんづけ……まぁ、私を知ってくれている人でよかった。

「クリスタルちゃんは、あの子たちの縄をほどいてて。僕はこの人たちを逆にしばっておくから」
「分かりました」

 先輩騎士から指示をもらうと、私は捕らえられていた人たちの縄をほどき始める。きつく結んであるので、弓で鍛えられた握力をもってしても指が痛くなってきてしまった。

「騎士さん、私も手伝います」
「俺もやる!」
「あたしも!」
「マリーはコールのやつやるね!」

 先にほどいてあげた子供三人と女性一人が、他の人の縄をほどき始めてくれたのだ。

「あぁ……ありがとうございます!」

「私は後でいいから、先に子供たちのをほどいてほしい」と言うもう一人の女性の意向に沿って、子供から手をつけることにした。
 最後にその女性の縄をほどき終わるころには、私の指はすりむけて血がにじみ出ており、人差し指の爪が割れてしまった。

「救出終わりました!」
「ありがとう。あとは僕がやっておくから、この子たちを騎士団寮に連れていってくれないかな?」
「了解です。あっ、他の騎士も呼んでおきましょうか?」
「そうしてくれると助かるよ」

 捕らえられていた子供と女性は、正確には八人。私と女性二人のそれぞれが、二人の子供の手をつなぐように決めた。
 歩き出そうとして、まだ先輩騎士の名前を知らないことに気づいた。

「あの、まだ名前を聞いてなかったですね」
「そうだったね。僕はオズワルド。遊撃隊だからクリスタルちゃんの顔までは知らなかったよ」

 あれ、遊撃隊は王城とその周りの警備じゃなかったっけ? まぁいいや。
 私は子供と女性を引き連れて、アンブラエリアを抜け出した。

 しばらく歩いてから気づいた。リッカルドの弟、すなわち騎士団長の三男の名前がオズワルドだということを。
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