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第三章 元冒険者、まさかの二刀流になる
28:弓使いへ『三刀流』のススメ
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「あっ、クリスタルちゃんだ~」
訓練が終わって廊下を歩いていると、聞き覚えのある声がして振り向いた。
「あぁ、オズワルドさん。おとといぶりですね」
今日はしっかり制服を着ている。おとといとは雰囲気が打って変わって、ほんわかで優しそうな様子である。
「昨日、訓練の合間にクリスタルちゃんを探してたんだけど見つからなくてね、やっと見つけられたよ~」
「ということは、私に何か用があるということですよね」
「そう、実はクリスタルちゃん、剣の才能もあるんじゃないかな~って思ってね」
……え? 何を言ってる――
私が混乱しているのをよそに、オズワルドは喋り続ける。
「もしかして、経験者?」
「いえ、あの時が初めてです」
「でも僕を助けてくれたじゃん~」
「あれは、蹴りを入れて気絶させただけなので、剣は使ってないですよ」
「そっか。でも~」
引き下がろうとはしないオズワルド。
「相手も短剣持ってたのに、肩に突き刺せるなんてすごいよ! 短剣は相手の懐まで入りこまないと攻撃できないからね。初めてなのにあそこまでできたら、優秀というか才能があるとしか思えないよ!」
「そうなのかもしれませんが、私は弓使いなんで――」
「クリスタルちゃん、剣も練習しよ!」
えぇっと、あの、話聞いてました?
「クリスタルちゃんなら二刀流もできそうだよね~。っていうことは、弓も含めたら三刀流ってこと!?」
もう話についていけない。
「リックお兄ちゃんも本業は弓だけど、剣もできるからね~。でもさすがに二刀流……えっと紛らわしいから双剣って言うけど、双剣はできないみたい。クリスタルちゃん、双剣ができたらお兄ちゃん越えだよ! 師匠越えしたくない?」
とにかくおしゃべりが止まらない。私は、短時間にどっと入りこんできた情報を十秒くらいかけて処理したあと、ようやくオズワルドに言葉を返すことができた。
「師匠越えはしてみたいです」
「だよね!」
私のホントの師匠は、皮肉にもお父さまなんだけど。そういう意味でも、『師匠越え』という言葉には興味がある。
「そうと決まれば、さっそくクリスタルちゃんでも扱えそうな双剣、見に行こ!」
「あのー、すみません」
双剣を今すぐに試してみたい気持ちもあるのだが、これを忘れてはいけない。
「私、いつも訓練のあとは店の手伝いがあって、主人に許可を取らなきゃいけないんです。もしかしたら今日はダメかもしれません」
「サヴァルモンテ亭でしょ? 僕も一緒についていくから!」
「悪いですよー。えっ、どうして店の名前を……」
私がサヴァルモンテ亭で働きながら住んでいるのは、騎士団長とリッカルドしか知らないはずだ。
もしかしたら、リッカルドが弟のオズワルドに教えた可能性もあるが。
すると、オズワルドは私の耳元でささやいた。
「僕はスパイだよ? あの黒いフードを被ってるときはね。クリスタルちゃんがサヴァルモンテ亭に住んでるのを父上やお兄ちゃんに教えたのは、この僕だよ」
そうだった。「名前を教えただけなのに、リッカルドさんからの手紙がどうして届けられたんだろう?」って思ってたけど、そういうことだったんだ。
ということは、私の顔も知ってたっていうこと?
「あと、おとといは至って初対面のように接したけど、クリスタルちゃんの顔は知ってたよ」
「あ、あれ、全部演技ですか」
「そう!」
私の背筋がぞくりとした。あぁ、絶対にこの人は敵に回しちゃいけない人だ。怖い。
「てことだから! それじゃ~行こ~!」
手を引かれて連行された私。すれ違う騎士たちに「あぁ、とうとう捕まったか」と同情するような視線を向けられたのは見なかったことにする。
結局エラからは「騎士の仕事に関わることなら行ってこい。あたし一人で何とかする」と許可をもらえた。
やっぱり優しいなぁと思う暇もなく、私はまたもオズワルドに手を引かれてしまう。
騎士団寮に戻る方向に歩いていき、寮の手前で右に曲がる。
「ここが、僕たちフォーゲル家御用達の鍛冶屋さんだよ」
騎士団寮のすぐそばにあった。
「こんな近くなら、わざわざサヴァルモンテ亭まで来てもらわなくても大丈夫でしたよ」
「ううん、僕が一緒に行きたかっただけ。だって、女の子と一緒に歩いたら、僕たちカップルに見えるじゃん?」
は、はぁっ!?
「か、カップル!?」
「ちょっとカップルって言うには早すぎたかな~?」
時期とかタイミングとか、そういうことじゃない!
「と、とにかく! 中入りましょう」
「そうだね! ついおしゃべりしすぎちゃった……」
自分自身がおしゃべりだというのは分かっているらしい。
鍛冶屋の中に入ると、鞘に収まった剣が壁にも棚にもずらりと並んでおり、あまりの情報量に一瞬くらっときてしまった。
ワイルドな雰囲気のおじさんが、剣のレイアウトを直しているようである。この人が店主だろう。
「おう、ベーム騎士団のぼっちゃん! 連れは彼女さんか?」
「まぁ、彼女『予定』の子かな~」
「ち、違います。私はただの騎士で、オズワルドさんと会ってからはまだ数日ですので」
「女で騎士ってことは、この前『初めての女性騎士誕生!』って言われてた人だな!」
店主からもいじられるって、オズワルドさんってどういう人なんだ……。
私があたふたしている間に、オズワルドが本題を店主に説明した。
「この子ね、今は弓使いなんだけど剣の才能もありそうなんだ~。しかも器用だから双剣使いにもなれると思うんだけど」
「マジか! リック兄貴にスカウトされたくらいの弓使いが、剣の才能もあるのか!」
目を丸くする店主。うん、私もまだ理解できてないです。
「僕の短剣を振らせただけだから、普通の剣は分からないけどね~」
「なんだよ、遊撃隊なんだから普通の剣振らせてあげなよ」
「だって、おととい初めて会って、昨日は会えなくて、今日はついさっき捕まえたばかりだから~」
「……しょうがないな」
私は目の前で繰り広げられる言葉合戦を、ただへぇと聞いているしかない。
店主は「騎士団でも使ってるやつがあるから持ってくるか」と、隣の棚から二本の剣を取ってきた。
訓練が終わって廊下を歩いていると、聞き覚えのある声がして振り向いた。
「あぁ、オズワルドさん。おとといぶりですね」
今日はしっかり制服を着ている。おとといとは雰囲気が打って変わって、ほんわかで優しそうな様子である。
「昨日、訓練の合間にクリスタルちゃんを探してたんだけど見つからなくてね、やっと見つけられたよ~」
「ということは、私に何か用があるということですよね」
「そう、実はクリスタルちゃん、剣の才能もあるんじゃないかな~って思ってね」
……え? 何を言ってる――
私が混乱しているのをよそに、オズワルドは喋り続ける。
「もしかして、経験者?」
「いえ、あの時が初めてです」
「でも僕を助けてくれたじゃん~」
「あれは、蹴りを入れて気絶させただけなので、剣は使ってないですよ」
「そっか。でも~」
引き下がろうとはしないオズワルド。
「相手も短剣持ってたのに、肩に突き刺せるなんてすごいよ! 短剣は相手の懐まで入りこまないと攻撃できないからね。初めてなのにあそこまでできたら、優秀というか才能があるとしか思えないよ!」
「そうなのかもしれませんが、私は弓使いなんで――」
「クリスタルちゃん、剣も練習しよ!」
えぇっと、あの、話聞いてました?
「クリスタルちゃんなら二刀流もできそうだよね~。っていうことは、弓も含めたら三刀流ってこと!?」
もう話についていけない。
「リックお兄ちゃんも本業は弓だけど、剣もできるからね~。でもさすがに二刀流……えっと紛らわしいから双剣って言うけど、双剣はできないみたい。クリスタルちゃん、双剣ができたらお兄ちゃん越えだよ! 師匠越えしたくない?」
とにかくおしゃべりが止まらない。私は、短時間にどっと入りこんできた情報を十秒くらいかけて処理したあと、ようやくオズワルドに言葉を返すことができた。
「師匠越えはしてみたいです」
「だよね!」
私のホントの師匠は、皮肉にもお父さまなんだけど。そういう意味でも、『師匠越え』という言葉には興味がある。
「そうと決まれば、さっそくクリスタルちゃんでも扱えそうな双剣、見に行こ!」
「あのー、すみません」
双剣を今すぐに試してみたい気持ちもあるのだが、これを忘れてはいけない。
「私、いつも訓練のあとは店の手伝いがあって、主人に許可を取らなきゃいけないんです。もしかしたら今日はダメかもしれません」
「サヴァルモンテ亭でしょ? 僕も一緒についていくから!」
「悪いですよー。えっ、どうして店の名前を……」
私がサヴァルモンテ亭で働きながら住んでいるのは、騎士団長とリッカルドしか知らないはずだ。
もしかしたら、リッカルドが弟のオズワルドに教えた可能性もあるが。
すると、オズワルドは私の耳元でささやいた。
「僕はスパイだよ? あの黒いフードを被ってるときはね。クリスタルちゃんがサヴァルモンテ亭に住んでるのを父上やお兄ちゃんに教えたのは、この僕だよ」
そうだった。「名前を教えただけなのに、リッカルドさんからの手紙がどうして届けられたんだろう?」って思ってたけど、そういうことだったんだ。
ということは、私の顔も知ってたっていうこと?
「あと、おとといは至って初対面のように接したけど、クリスタルちゃんの顔は知ってたよ」
「あ、あれ、全部演技ですか」
「そう!」
私の背筋がぞくりとした。あぁ、絶対にこの人は敵に回しちゃいけない人だ。怖い。
「てことだから! それじゃ~行こ~!」
手を引かれて連行された私。すれ違う騎士たちに「あぁ、とうとう捕まったか」と同情するような視線を向けられたのは見なかったことにする。
結局エラからは「騎士の仕事に関わることなら行ってこい。あたし一人で何とかする」と許可をもらえた。
やっぱり優しいなぁと思う暇もなく、私はまたもオズワルドに手を引かれてしまう。
騎士団寮に戻る方向に歩いていき、寮の手前で右に曲がる。
「ここが、僕たちフォーゲル家御用達の鍛冶屋さんだよ」
騎士団寮のすぐそばにあった。
「こんな近くなら、わざわざサヴァルモンテ亭まで来てもらわなくても大丈夫でしたよ」
「ううん、僕が一緒に行きたかっただけ。だって、女の子と一緒に歩いたら、僕たちカップルに見えるじゃん?」
は、はぁっ!?
「か、カップル!?」
「ちょっとカップルって言うには早すぎたかな~?」
時期とかタイミングとか、そういうことじゃない!
「と、とにかく! 中入りましょう」
「そうだね! ついおしゃべりしすぎちゃった……」
自分自身がおしゃべりだというのは分かっているらしい。
鍛冶屋の中に入ると、鞘に収まった剣が壁にも棚にもずらりと並んでおり、あまりの情報量に一瞬くらっときてしまった。
ワイルドな雰囲気のおじさんが、剣のレイアウトを直しているようである。この人が店主だろう。
「おう、ベーム騎士団のぼっちゃん! 連れは彼女さんか?」
「まぁ、彼女『予定』の子かな~」
「ち、違います。私はただの騎士で、オズワルドさんと会ってからはまだ数日ですので」
「女で騎士ってことは、この前『初めての女性騎士誕生!』って言われてた人だな!」
店主からもいじられるって、オズワルドさんってどういう人なんだ……。
私があたふたしている間に、オズワルドが本題を店主に説明した。
「この子ね、今は弓使いなんだけど剣の才能もありそうなんだ~。しかも器用だから双剣使いにもなれると思うんだけど」
「マジか! リック兄貴にスカウトされたくらいの弓使いが、剣の才能もあるのか!」
目を丸くする店主。うん、私もまだ理解できてないです。
「僕の短剣を振らせただけだから、普通の剣は分からないけどね~」
「なんだよ、遊撃隊なんだから普通の剣振らせてあげなよ」
「だって、おととい初めて会って、昨日は会えなくて、今日はついさっき捕まえたばかりだから~」
「……しょうがないな」
私は目の前で繰り広げられる言葉合戦を、ただへぇと聞いているしかない。
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