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第二章 元女子高生、異世界でどんどん成り上がる
23:マジかよ! 戻ってくんなし!
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次の日、私はリリーとの約束どおり、午前中だけはサックスの練習につきあうことにした。
まだサックスを始めて一週間ほどだが、最低音から最高音までしっかりと音が出るようになっていた。
私、さすがに最高音がちゃんと出たのは、もうちょっとかかった気がするんだけど。
「じゃあリリー、楽譜を渡すね」
私が取り出したのは、ハルドンへの招待演奏の時にも演奏した賛美歌の楽譜である。
この楽譜も前世と同じ書き表し方で、フルートやトランペットとともにアンマジーケ(こっちの言葉で『魔法がない世界』という意味)から入ってきたものらしい。
「まず、この一行分の音符を読んでみようか」
ト音記号のうずまきが始まるところが、『ソ』の音。
ゆっくり、二分かかってようやく読み終わった。最初は私もそんな感じだったなぁ。
「答え合わせするよ…………うん、全部合ってる!」
「合ってる! やったぁ!」
「そしたら今日はもう一行やってみようか」
「やるやる!」
最初はとりあえず褒めまくって、やる気を削がないようにしないと。
「あっ、一個だけ違うなぁ。ここはソラシドレミファ、だからファだね」
「ソって書いちゃった」
「大丈夫、だんだん慣れるから。あとは全部合ってるからよくできてるよ!」
少しリリーはへこんだものの、私の言葉で再び笑みを取り戻してくれた。
もうちょっと……まぁリリーが一曲吹けるようになったら、人前で私と一緒にデュエットで演奏できればいいなぁ……。
その日の午後、私は宰相としての初仕事をしに王城に向かった。偵察した様子を国王に報告するためである。
「失礼します」
私はいつものように、玉座に座る国王を見ようとする。
「げっ」
見間違うはずもない。国王の前で悪そうな顔をしてごますりをする、大公爵の姿だった。
「あの時の! よくも私をあんな目に!」
「どうして大公爵様がここに?」
「それは私のセリフだ」
貴族の最高地位である大公爵と、国王の政治の補佐をする宰相が出くわしてしまった。
吹っ飛ばして重傷だったはずなのに? 戻ってくんなし!
「グローリアには今日から宰相として、私の政に協力してもらうことになった」
「宰……相って、私はどうなるんですか!?」
国王に詰め寄るトリスタン。
「そもそもトリスタンが大公爵なのは、あなたのお父様を始めとするご先祖の方々の頑張りでなれている。報酬として、王都とその周りの村の『代表』を任せているだけだ」
遠回しに「国の政治には手を出すな」と言っているようである。
「グローリアには男爵になった時点で領地をあげるべきであったが、用意しているうちに多大な貢献をしてくれた。そこで、領地を与える代わりに私の補佐をする『宰相』になってもらった」
そうそう。前世で政治とかしたことないし、今世でももとは平民だから領地の運営とかよく分かんないし。
「プレノート家の当主であり宮廷音楽家でもあるグローリアは、領地を与えるよりそちらの方がむいておる」
「えっ、大公爵だから、国王の政治の補佐ができているのかって思ってました」
勘違いしてた……! 私が宰相になったら大公爵と役目が被るんじゃないかって思ってた!
「いや、初めは相談をしていただけなのだが……いつの間にか補佐をしてもらうようになっていた」
えっと……国王はそれを黙認してたってこと? 確かに国王は誰かの意見に頼りたいっていうタイプだからね。
「グローリアに会ってから、『悪いことは悪い』とけじめをつけなければならないと自覚した。はっきりと補佐の役職を作ることで、けじめをつけようと考えた次第だ」
半ば相談役を降ろされたトリスタンは、私への怒りをあらわにして国王に訴える。
「ではなぜ、宰相をこの私に任命なさらなかったのですか!」
「そなたが大ケガをして療養していたからであろう。しかもくだらない理由で竜巻に飛ばされて」
「ぐっ……!」
反論できずにいるトリスタン。私は心の中で大笑いし、顔までも引きつりそうであった。
「陛下、王都と農村の偵察の報告をしてもよろしいでしょうか」
「ああ、どうぞ」
こちらをにらみつけているトリスタンを無視し、私はメモをした手帳を片手に読み上げる。
「まず王都は貧富の差が激しすぎます。貴族と平民ではなく、平民どうしの差が激しいと感じました。中には王都に住んでいても、農民と同じくらい貧しい人もいました」
「平民どうしの貧富の差……か」
「農村は言うまでもありません。王都より税が重い上に、そもそも王都にすら入れないって……」
私は読み上げながらあきれていた。明らかに農民から搾取しようというのが見え見えである。
「しかも、食料のほとんどを農民からの納税でまかなっていることも問題です。これではいつか必ず破綻します」
例えば天気がよくなくて、あまり作物がとれなかったら? あとは農民が「ふざけんじゃねぇ!」とか言って納税拒否したら? ……ね。
「なるほど」
「陛下、農民の納税に依存するこのやり方、いつからやっているんですか?」
「…………」
黙ってしまった国王は、はぁっとため息をついてトリスタンをちらりと見た。
「二十年以上前から。農民支配を強めるために、トリスタンから提案されて」
「不作だった年はどうしたんですか?」
「何がなんでも納税させた。その代わり農民が半分まで減ったが」
うわぁ……これは酷すぎる。
今度は、アールテムの腐った政治に顔が引きつりそうになった。
「トリスタン大公爵、これから政治の話をしますのでご退出願います」
私に命令されたトリスタンは悔しそうな顔をあらわにし、思いっきり足音を立てながら『王の広間』を去っていった。
今ここに、貴族派のトリスタンと平民派の私のバチバチ関係が作られたのであった。
まだサックスを始めて一週間ほどだが、最低音から最高音までしっかりと音が出るようになっていた。
私、さすがに最高音がちゃんと出たのは、もうちょっとかかった気がするんだけど。
「じゃあリリー、楽譜を渡すね」
私が取り出したのは、ハルドンへの招待演奏の時にも演奏した賛美歌の楽譜である。
この楽譜も前世と同じ書き表し方で、フルートやトランペットとともにアンマジーケ(こっちの言葉で『魔法がない世界』という意味)から入ってきたものらしい。
「まず、この一行分の音符を読んでみようか」
ト音記号のうずまきが始まるところが、『ソ』の音。
ゆっくり、二分かかってようやく読み終わった。最初は私もそんな感じだったなぁ。
「答え合わせするよ…………うん、全部合ってる!」
「合ってる! やったぁ!」
「そしたら今日はもう一行やってみようか」
「やるやる!」
最初はとりあえず褒めまくって、やる気を削がないようにしないと。
「あっ、一個だけ違うなぁ。ここはソラシドレミファ、だからファだね」
「ソって書いちゃった」
「大丈夫、だんだん慣れるから。あとは全部合ってるからよくできてるよ!」
少しリリーはへこんだものの、私の言葉で再び笑みを取り戻してくれた。
もうちょっと……まぁリリーが一曲吹けるようになったら、人前で私と一緒にデュエットで演奏できればいいなぁ……。
その日の午後、私は宰相としての初仕事をしに王城に向かった。偵察した様子を国王に報告するためである。
「失礼します」
私はいつものように、玉座に座る国王を見ようとする。
「げっ」
見間違うはずもない。国王の前で悪そうな顔をしてごますりをする、大公爵の姿だった。
「あの時の! よくも私をあんな目に!」
「どうして大公爵様がここに?」
「それは私のセリフだ」
貴族の最高地位である大公爵と、国王の政治の補佐をする宰相が出くわしてしまった。
吹っ飛ばして重傷だったはずなのに? 戻ってくんなし!
「グローリアには今日から宰相として、私の政に協力してもらうことになった」
「宰……相って、私はどうなるんですか!?」
国王に詰め寄るトリスタン。
「そもそもトリスタンが大公爵なのは、あなたのお父様を始めとするご先祖の方々の頑張りでなれている。報酬として、王都とその周りの村の『代表』を任せているだけだ」
遠回しに「国の政治には手を出すな」と言っているようである。
「グローリアには男爵になった時点で領地をあげるべきであったが、用意しているうちに多大な貢献をしてくれた。そこで、領地を与える代わりに私の補佐をする『宰相』になってもらった」
そうそう。前世で政治とかしたことないし、今世でももとは平民だから領地の運営とかよく分かんないし。
「プレノート家の当主であり宮廷音楽家でもあるグローリアは、領地を与えるよりそちらの方がむいておる」
「えっ、大公爵だから、国王の政治の補佐ができているのかって思ってました」
勘違いしてた……! 私が宰相になったら大公爵と役目が被るんじゃないかって思ってた!
「いや、初めは相談をしていただけなのだが……いつの間にか補佐をしてもらうようになっていた」
えっと……国王はそれを黙認してたってこと? 確かに国王は誰かの意見に頼りたいっていうタイプだからね。
「グローリアに会ってから、『悪いことは悪い』とけじめをつけなければならないと自覚した。はっきりと補佐の役職を作ることで、けじめをつけようと考えた次第だ」
半ば相談役を降ろされたトリスタンは、私への怒りをあらわにして国王に訴える。
「ではなぜ、宰相をこの私に任命なさらなかったのですか!」
「そなたが大ケガをして療養していたからであろう。しかもくだらない理由で竜巻に飛ばされて」
「ぐっ……!」
反論できずにいるトリスタン。私は心の中で大笑いし、顔までも引きつりそうであった。
「陛下、王都と農村の偵察の報告をしてもよろしいでしょうか」
「ああ、どうぞ」
こちらをにらみつけているトリスタンを無視し、私はメモをした手帳を片手に読み上げる。
「まず王都は貧富の差が激しすぎます。貴族と平民ではなく、平民どうしの差が激しいと感じました。中には王都に住んでいても、農民と同じくらい貧しい人もいました」
「平民どうしの貧富の差……か」
「農村は言うまでもありません。王都より税が重い上に、そもそも王都にすら入れないって……」
私は読み上げながらあきれていた。明らかに農民から搾取しようというのが見え見えである。
「しかも、食料のほとんどを農民からの納税でまかなっていることも問題です。これではいつか必ず破綻します」
例えば天気がよくなくて、あまり作物がとれなかったら? あとは農民が「ふざけんじゃねぇ!」とか言って納税拒否したら? ……ね。
「なるほど」
「陛下、農民の納税に依存するこのやり方、いつからやっているんですか?」
「…………」
黙ってしまった国王は、はぁっとため息をついてトリスタンをちらりと見た。
「二十年以上前から。農民支配を強めるために、トリスタンから提案されて」
「不作だった年はどうしたんですか?」
「何がなんでも納税させた。その代わり農民が半分まで減ったが」
うわぁ……これは酷すぎる。
今度は、アールテムの腐った政治に顔が引きつりそうになった。
「トリスタン大公爵、これから政治の話をしますのでご退出願います」
私に命令されたトリスタンは悔しそうな顔をあらわにし、思いっきり足音を立てながら『王の広間』を去っていった。
今ここに、貴族派のトリスタンと平民派の私のバチバチ関係が作られたのであった。
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