5 / 28
第一章:女王さま始めました。
メシマズなんて言ったら失礼だよね。
しおりを挟むラフォーの村は、田舎の村。
バンクロディ王国の北方、首都イースキーから馬車で三日。でも、田舎だ。
東京のような人があふれる大都会を知るあたしにとってももちろん、魔族の国の基準で見ても、わびしい村だ。寒村と言わざるを得ない。
だけど、すぐ北は大河を挟んで悪鬼族の国ニヒトハン共和国と境を接し、東へ行けばほどなく海。その向こうはヒト族の大帝国、レマン帝国が横たわる。我が国の北の重要な拠点なのだ――田舎だけど。
重要な拠点なのに人を割けないあたり、今のこの国の現状を物語っている。
そんな村でも、女王のあたしをもてなそうと一所懸命に用意してくれた料理が目の前に並んでいた。
口にはできないけど、心の中で、敢えて言おう。
わびしい。
メインディッシュは、肉。鶏とか、豚とかだろうか。ボリュームもあってそれなりの体裁にしてあるけど、良く言えばシンプル。ぶっちゃければ、質素だ。
脇には黒パン。それと具がほとんどないスープ。付け合わせの根菜はそれなりだったけど、素朴という印象。
だけどその料理を見てわたしは、感激で涙ぐみそうになった。
だってこの村総出で頑張ったであろう跡が感じられたから。
このラフォーの村は本当に貧しい。大した産業もなく、寒冷地のため農作にも適さない。おまけに水に恵まれず、いつも食うや食わずの状態なのをわたしは知っていた。
今回の行幸に先立って、村には支度金が渡されていた。わたし、ミルドレッドをもてなすための費用と言うのが名目だけど、実質は村への援助金だった。そうでもしてあげなければ食いつなげないほど、この村はまずしかった。
ラフォーの村だけじゃない。この国はどこもかしこも似たり寄ったりだ。当然中央だって潤っているわけじゃないけど、なんとかやりくりして、助け合っていかなくちゃならない。少しでもみんなが楽になれるよう、頑張ったけど、一所懸命頑張ったけど……。再び涙が出そうになって、わたしはあわてて笑顔を浮かべた。
「素敵なもてなしですね。嬉しいです。いただきます」
村人たちの好意を無駄にしちゃいけない。ありがたくいただこう。
黒パンは固かったけど、丈夫な歯とあごのおかげでサクサク食べられた。けどこのパン、フランスパンを一週間天日に干したってくらいの硬さよね? ほとんど石と変わらない。
お肉は、おいしい。新鮮だし、肉の旨みがよく出ている。けど、大味なのは否めない。
味付けは塩味のみ。香辛料はなし。貴重なうえに、寒冷なこの国ではぜいたく品だ。めったに手に入らない。
それでも村のみんなが精魂込めてつくってくれた食事だ。わたしは存分に楽しんだ。その姿を見てみなが喜んでくれているのがわかる。それがわたしにも嬉しい。
時おり会話をはさみながら、あたしは食事を終えた。あたしにとっては見知らぬ異世界の人とも親しくなれたし、まずはお腹もふくれた。質素だけど、穏やかで幸せな晩餐だった。ああ、こんなにゆったりしたの、いつ以来だろう。
あたしはいつも何かに追われていた。時間に、仕事に、家事に、人間関係に、何だかよく分からないものに。いつも追われて何もできないまま一日が終わる。そんな毎日の繰り返しだった。
でも久しぶりに素のままでいられた、そんな気がする。何も気にせず、追われず、心おきなく一日を終えられる。未解決の問題はたくさんあるけど、それにめげることなく、自分を生かしてくれたすべてのものに素直に感謝して、満ち足りた気分でいられる。村人さんたちには感謝しなくちゃね。ごはんは、まあ……お腹いっぱいになっただけでも幸せだよね。
「ごちそうさまでした。おかげでとっても幸せな気持ちになれました。ありがとう」
「いえ、おそれ多いお言葉にございます。お粗末さまでございました」
「みなさんもおつかれでしょう。どうぞ遠慮なく食事を摂って休んでくださいまし」
あたしはみんなに笑いかけると、部屋に引き取った。
◇
「はあ……」
狭い一室は行宮だ。これでも多分、この村では一番上等な場所に違いない。
あたしはベッドに倒れ込んだ。満ち足りていたけど、疲れてもいた。もう動きたくないけど、寝る前にメイクを落としてお風呂に……なんて必要なかったか。
あたしは苦笑いして寝返りをうった。メイクなんかしてないし、お風呂は……ないよね。そんな話かけらも出なかったし。せめて顔、洗えるかしら。
なんか、気疲れがひどい。起きている間じゅうずっと見られていたものね。女王って存在するだけでも大変だわ。その報酬がメシマズ……って言ったら失礼だけど、ご褒美はスイーツが定番じゃないの?
(……帰りたい)
もといた場所に。現代日本に。わずらわしいけど快適な場所。
そこで過ごすいつもの時間。水曜のドラマと土曜のアニメ。あ、先週発売のコンビニスイーツ、まだ試してなかった。来週は話題の映画の続編が封切りだけど、また見られないかな。新しい春物のジャケットと帽子も欲しいけど。カフェでお茶を飲みながらSNSを眺めてまったりとすごして、それから、それから……。
全部できないことばかりだ。
毎日家事に追われて、余計なことをする時間なんてなかった。大好きだったゲームすらすっかりご無沙汰で。あたしの毎日はなんだったんだろう?
ダンナも息子もあたしのことなんかこれっぽっちも気にしてない。もしかしたらあたしが消えたことすら気づいていないんじゃあ?
それとも少しは困ってる? ご飯を作ってくれる人が突然いなくなって、怒ってる? でもそれって家政婦さんとかメイドさんと同じ扱いだよね。あたし自身が必要なわけじゃないよね?
……誰もあたしのことなんか、心配してないんだ。
ふいに涙がこぼれた。
あたしの存在って、意味があったの?
少なくともミルドレッドはこの地で必要とされている。みんなから絶大な信頼を寄せられている。あたしとは雲泥の差だ。
「ふふっ……」
涙を流しながら泣き笑い。滑稽だ。帰りたいと願っている場所は、あたしを必要としていない。あたしなんかいなくても、あの世界はなんにも変わらない。
あたしって、なんだったんだろうな。
思考がぐるぐる巡って、何を考えているのかすらわからなくなってきた。帰りたい? 帰りたくない? あたしはどうしたいのかしら?
混乱した頭のまま、意識がもうろうとして沈んでいく――。
0
あなたにおすすめの小説
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
成瀬一
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる