女王さまになったけど、魔族だし。弱小国だし。敵だらけだし。

桐坂数也

文字の大きさ
11 / 28
第一章:女王さま始めました。

南は南で、ややこしい。

しおりを挟む

 北から帰って、今度は南。
 イーハの村は、比較的温暖なところだ。入り江を望む場所にあり、山に囲まれているので、雨が少ない。
 入り江は外海に繋がっていて、その先にはティーハン国の大きな島影が見える。そのさらに向こうはヒト族の大帝国、レマン帝国だ。

 ティーハン国と誼を通じることは、さまざまな意味があった。

 悪鬼族の国はふたつある。ひとつは我が魔族の国バンクロディ王国と境を接する広大な国、ニヒトハン共和国。もう一つは南海に浮かぶ島にあるティーハン国。
 この二国、同じ民族だけど敵対関係にある。昔ニヒトハンの中で政争があって、敗れた一族が南の島へ逃れたんだそうな。その一族が建てた国がティーハン国。昔と言ってもそんなに昔じゃない。先王エリアル王、つまりあたしのお父さんが子供だったくらいの頃の話だという。

 ティーハン国はレマン帝国と仲がいい。ぶっちゃけて言っちゃえば、レマン帝国の庇護を受けている。だからここを通じて帝国と友誼を深める、というのは安全保障上必要なことだった。
 そしてティーハン国と誼を通じることで、ニヒトハン共和国を牽制できる。裏の目的はこれだった。敵の敵は味方。綺麗ごとだけじゃ敵だらけのこの地域を生き抜けない。特にニヒトハンみたいにずる賢くて、侵略の意志を隠そうともしない連中相手には、相応の覚悟が必要なんだ。

 だからこそ、ここには国費を投じてでも事業をなす意味がある。

「それで、取るものも取り敢えず駆け付けたわけですが」

 同行の財務方、サティアス卿が笑いながら語り掛けてきた。

「何かわかりましたかな?」
「……サティのいじわる」

 あたしはちょっと涙目になってふくれながら、ぷいと横を向いた。サティアス卿はにやにやとそんなあたしを眺めている。
 サラサラの金髪もさわやかな、このいけすかないイケメンは御年三十歳、あたしをいじることを生き甲斐にしてるんじゃないかと思うくらいよく絡んでくる。真面目に生きてる時間ってあるのかしら、この人は。

 でもこの国では数少ない、ちゃんと金勘定が出来る人だ。だから財務もお願いしているし、今回の案件もまかせている。

「おやおや、それでは国政を放り出してまで飛んできた甲斐がありませんな」
「わかってるわよ」

 ちょっと反省はしている。

 聖女さまの言葉に不安に駆られてあとさき考えずに飛び出してきちゃったけど、いかに現地情報が大切とはいえ女王さまが政務を放り出してほっつき歩いてばかりいるのもまずいわよね。水戸黄門の諸国漫遊じゃあるまいし。

 道すがら、サティアス卿に状況の説明は受けていた。ティーハン国、ひいてはレマン帝国と仲良くしようとしていることにニヒトハン共和国がいい顔をしないこと。ことあるごとに抗議を繰り返していること。

 まだ実力行使には至っていないけど、偶発的な衝突がいつ起こらないとも限らない。
 それを未然に防ぐため、このサティアス卿がたびたび現地入りしては交渉に当たっているのだけれど、ニヒトハンは中々に強硬らしい。

「どうしたらいいと思う? サティアス卿?」
「さて、袖の下で解決するならわたくしめの領分ですが、手もとの山吹色の菓子で足りますやら」

 こういうことを平気で言っちゃうから、聖女さまみたいな人たちから嫌われるんだよね、この人。有能なのに。

「サティ。あなた、もったいないわよ。もう少し言動を考えなさい。せっかくのいい男が台なしだわ」
「お褒めにあずかり、恐縮でございます」
「……あなた、あたしのこと絶対ばかにしてるでしょ?」

 あたしの突っ込みなんか平気で無視して、この優男は続ける。

「この後、悪鬼族の代表と会うことになっております。立ち会いますかな?」

 あたしは緊張してうなずいた。
 生の交渉の現場が見られる。矢こそ飛び交わないけれど、真剣勝負の場であることは間違いない。
 あたしもその技を会得しなくちゃ。


 ◇


 悪鬼族の国ニヒトハン共和国の代理人。
 悪鬼族は鬼族のひとつ。角が生えているけど、魔族の角とは違う。こめかみの上あたりから真っ直ぐ突き出ている。

 その鬼が不機嫌な顔をしていると、それだけで怖い。

「我が国はティーハンなる者どもを国と認めていない。あれは我らに弓引く叛徒どもの集団にすぎない。それと国交を持とうなど我が国に敵対する意図があるとしか思えん!」

 不機嫌な鬼が形相のままの声を出すと、かなり怖い。
 あたしはサティアス卿の秘書、という態でうしろに控えていた。直接相対しているわけじゃないけど、それでもけっこうびびる。
 けれど表面上サティアス卿は平然としていた。

「そんな意図はありません。わたしたちはニヒトハンともティーハンとも友好的な関係を築きたいと思っています。敵対するつもりなどありません」
「どうだか」

 なかばあざ笑うように、悪鬼族の代表が言う。

「帝国を相手に大戦争をしでかしたこと、我々は忘れていないぞ。今もティーハンと結託し、我が国を陥れようとの策略があるのは明らかだ」」
「あれは不幸な出来事でした」

 サティアス卿は神妙に答える。

「わたしたちは大いに反省したのです。戦争はなにも生み出さない。いいことなど何もない。どこの国とも諍いを起こさず、平和的に付き合っていくのが、結局は両国のためにいちばんよいのだと」
「ごまかすな!」

 悪鬼はテーブルをどんと叩いて、

「そんなおためごかしでは誤魔化されんぞ! そうやってまた我々をだますつもりだろうが!」
「いえいえ、そんなつもりはありませんよ」
「口先ではなんとでも言える! 到底信用することなどできん!」

 うーん、勢いよくいろいろ言っているけれど。
 要するにウチに言い分を認めたくないってことみたい。
 おまえらはオレたちの風下に立っていればいいと。

「どうすれば信用していただけるのですかな?」
「我が国をたばかることはないという誠意を見せてもらおう。でなければ信用できん」
「で、どのようにせよと?」
「それは貴国が考えることだ」

 サティアス卿の後ろで、表情を見られないよう注意しながらあたしは心の中で舌を出していた。
 ふざけんなって。これって完全ないやがらせよね? 誠意を見せろとか、ヤクザじゃあるまいし。

「金ですかな? ですが我が国と貴国は戦争をしたこともなく、賠償金など払う名目が存在しないのですが」
「金額や名目の問題ではない! 貴国が我が国を侵略しないという証が必要なのだ!」
「すると人質ですか? まさか女王を差し出せと?」
「そこまでは言わない。だがそれに準じる行為は検討に値する」
「ティーハンと断交せよということですかな?」
「我が国はティーハンなる者どもを国と認めていない。その基準に則った節度ある判断を求めるものである」

 まわりくどいなあ……。
 要するに、おれの側につけ、と。まるでガキ大将の言い争いみたいよね。はあ、男ってほんと、バカ。

「わかりました。貴国には深遠にして高邁なる理想が存在するのですな」
「そうだ。我が国の理想に貴国も殉ずることを進める。貴国もさらなる高みへと進むことができるだろう」
「なるほど、わたくしごときでは貴国の深遠にして高邁なる理想を理解できかねますが、他ならぬ深遠にして高邁なる理想、間違いのあろうはずがございませんな。深遠にして高邁なる境地に至れるよう、われわれも深遠にして高邁なる叡智をはたらかせましょうぞ」

 悪鬼族の代表は露骨にいやな顔をした。からかわれているのがわかったんだろう。
 サティアス卿は気づかぬふりで真面目そうな顔をしながら、

「次回は深遠にして高邁なる手土産を用意いたしょう。しばしお待ちを」

 最後まで馬鹿にし切って席を立ったのだった。


 ◇


「ご苦労さま。最後はちょっとやり返したみたいだけど?」
「不完全燃焼ですな。もうちょっとへこましてやりたかったのですが」

 めずらしくサティアスはまじめに返答してくれた。肚に据えかねていたのはあたしと同じみたい。

「まあやり返すのは次のラウンドにしましょう」
「調子いいこと言って、手札はあるの?」
「切り札は何枚かありますよ。ですが今ひとつ決め手に欠けましてね。もう少し材料がほしいのですが。それはそうと」

 サティアスはがらりと口調を変えて、

「さっさとイーハの村へ参りましょう。不愉快な連中との不愉快なやりとりは忘れて、地元の慰撫に精を出しましょうぞ。イーハにも名産はございますよ」



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

成瀬一
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...