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第一章:女王さま始めました。
なにもないから、できること。
しおりを挟む「やっぱりあなたって性格最悪ね、サティ」
「お褒めにあずかり、光栄です」
「褒めてないけど」
「そのツンデレぶり。わたくしめへのご褒美にございますか?」
「誰がツンデレよっ!」
ていうかそんな言葉、どこで覚えた!?
「まあ確かに、今回の働きはみごとでした。底意地が悪いことこのうえないけど」
「恐れ入ります。やはり素晴らしいツンデレぶり」
「だからツンデレじゃないっ!」
どこまでふざけてるのかしら、このイケメンは。
だめだ。いつまでもこのペースだと、さすが天然のあたしでも人格崩壊しかねない。
「話を戻すわ。まじめな話よ。座って」
今日一日考えたことを、あたしはサティアスに相談し始めた。
◇
明けて翌日。
あたしたちは村長をともなって海岸に来ていた。
これからこの村の特産品をつくる。
うまくいくか、それはわからない。けど条件は揃っているはず。
「うん。この辺でいいかな?」
わりと広めの砂浜。陽当たりもよく、冬なのにぽかぽか陽気だ。
「ここに海の水を撒くのですか?」
村長も半信半疑、というか狐につままれたような顔をしている。それでもあたしの言う通り、村人に指示を出し始めた。
海から水をすくって砂浜に撒く。ただ撒く。それを何度も繰り返し。
それが乾いたところで、砂を削ってかき集める。
大釜に湯を煮立たせて、そこに砂を入れて煮詰め、上澄みをすくいとる。
それをまた別の釜で煮詰めて煮詰めて……やがて白いどろどろしたものが現れる。
よし。出来た。
「これは……?」
「塩ですよ」
「塩? これが?」
村長がつまんで口に入れる。
「からっ! ……本当だ、塩だ!」
「まさか……? あ、ほんとだ!」
「どれどれ……。おお、本当だ!」
みんなが次々と口に入れては顔をしかめている。そりゃ塩を直接舐めたらしょっぱいよ。
「これを村の特産にするのよ。やり方はこんな感じで。もっと大規模にして、手順も効率化すればちゃんと採算ベースにのるようになるわ」
「確かに塩は貴重ですが……この村で作る意味があるのですか?」
「ふふ、あるのよ」
この世界でも、塩は必要。でもって貴重品だ。
塩は岩塩から取れる。岩塩は取れるところが限られる。だから岩塩が取れるところは莫大な利権を手にすることができる。
その利権が、今後ここで産出できる。
今日は手順を見せるために簡単にやったけど、塩田で塩をつくるには何日もかかる。その間雨が降ったら、それだけでもう失敗だ。
ところがこのイーハ村は地形のせいで雨が少ない。
おかげで畑作などには向いていないし、その分海での漁に力を入れてきた。今まで水にはとても苦労してきたはずだ。
その逆境が、塩田には最適の条件になる。
今までの持たざる苦労が、今までにないものを与えてくれる。
そうと理解したとき、村長の目から涙があふれた。
「そうか……そうですか。雨が少ないこの気候はずいぶん恨みもしましたが……。役に立つのですか」
うん、間違いなく。
みんな幸せになれるよ。
あたしはサティアスの方を向いて、親指を突き立てて見せた。どうよこれ。
誰にも文句は言わせないわ。
サティアスは虚を突かれた表情をしていた。あらあら、さすがのサティもちょっとは悔しい? ねえ悔しい? うふふ。
それでも我に返って、彼は不敵に笑って親指を突き上げて返してくれた。「おぬし、やるな」ってところかしら。褒めてもらったと思っていいよね。
「村長。この村の塩、国が全部買い取るわ。だから安心してたくさん作ってくださいな」
あたしは宣言した。これで国の専売品。村にも、国にも莫大な富が流れ込むはずだ。
のみならず、塩のような重要な物資を確保しておくことは国の自立を確保するのにも不可欠。いざというときでも帝国や共和国に首根っこを押さえられずにすむ。もちろんいざというときが来なければいいのだけれど、強気に出られる材料は多いほどいい。
「どう、サティ? あたしも少しは役に立つでしょ?」
「大したものです。感服致しました。これならソーイとサビィ、陛下がたらふく食したとしても充分お釣りが来ますな」
「まるであたしが食い気ばかりみたいに言わないでよ」
「色気もない陛下から食い気を取ってしまったら骨しか残りませぬ。それでなくとも残念で貧弱な……」
「不敬をはたらく口はこの口かっ! この口成敗してつかわそうかっ!」
サティアスの両のほっぺたを思い切りつねり上げた。
こやつ、ひとの胸もとをまじまじ見つめて言いやがって。胸が小さいことはあたしだって気にしてるんだちっくしょー。
「陛下、不敬などんでもない。みなが親しみやすい女王像を作り上げるべく、日々努力しているわたくしめの苦労も察していただきたいものです」
気がつけば村長以下村人みんながほっこりした表情で、あたしとサティアスを見守っていた。
なにそのじゃれあう小動物を愛でるようなのどかな雰囲気は。和やかな雰囲気なのはいいのだけれど、ああ、あたしには威厳とか畏怖とかいう冠はつかないのかしら……。
「と、とにかく」
気を取り直し、あたしは精いっぱい取り澄まして村長に向き直った。
「塩。お任せしました。国にとっても大事な産業になりますからね」
「心得ております」
「それと、通商の件は国としては動けませんが、全面的に協力します」
「陛下、こんな辺鄙な村のためにお骨折りいただき、ありがとうございます」
村長は深々と頭を下げてくれる。
「ここは貧しい村です。雨もない。仕事もない。魚を獲って細々と暮らすしかないと思っていました。
それが新しい産物を生み出すもとになるとは……。思ってもみませんでした。何もないことが強みになることもあるのですね」
「そうよ。諦めることなんかありません。みんな幸せになっていいんです。一緒に頑張って豊かになりましょう。笑って過ごせる毎日を作りましょう」
村長は黙って、なにやら感慨深げにあたしを見つめている。
「……何か?」
「いえ、おそれながら、陛下は不思議な方であらせられますね」
「?」
「我らのような下々の目線まで降りてこられて、一緒に頑張ろうと言って下さる。我ら一人ひとりまで、行く末を案じて下さっている。ありがたいことです」
そう言ってもらえるのは嬉しい。けどあたしには、どうしても言いたいことがあったんだ。
「あたし、みんなにもっと自信をもってほしいんです。敗戦でみんなたくさん傷ついてすっかりうなだれてしまって……でもほんとはみんな、すごいんです。あたしはそれを知っています。だからみんなに思い出してほしいんです。もっと自信をもって、誰はばかることなく幸せになっていいんだって」
村長は慈しむような穏やかな目であたしを包んでくれた。
「そうですな。さきの戦争で、この村でも犠牲者がたくさん出ました。でもいつまでもそれに囚われていては駄目ですな。死んでいった者のためにも、生きてある者は幸せにならなければ」
うんうん。
過去を忘れろとは言わない。
死者を悼むなとは言わない。
でも、今生きている人は、今まさに生きているんだから。
生きて幸せにならなくちゃいけないんだから。
誰がなんと言おうと、それが生き残った者の務めなのよ。
「陛下のお心遣い、みな終生忘れません。御身にもその行いに相応しい幸が訪れること、一同お祈り申し上げます」
「ありがとう」
◇
翌日、あたしたちはイーハの村をあとにした。
これからこの村は、もっともっと発展する。国の南部の産業と商業の要になる。そうなってもらわなくちゃ困る。
あたしは願いをこめて、馬車から手を振り続けた。見送りのみんなもずっとずっと、見えなくなるまで手を振ってくれた。
みんな、元気で。頑張って。
そう思いながら。
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