女王さまになったけど、魔族だし。弱小国だし。敵だらけだし。

桐坂数也

文字の大きさ
18 / 28
女王さま、戦場へ赴く。

ただいま、聖女さま。

しおりを挟む
 戻ってきたー。
 もういろいろ、ばたばたであたしの本拠地はどこだ?って感じだけど。

 首都イースキーに戻ったあたしは福音教教会の聖女さまに会いに行った。
 あの方苦手だけど。超おっかないけど。
 でも会わなくちゃいけない。

「でもこわいよ~クロエ~」
「はいはい、大丈夫ですよ」

 クロエにつかの間、頭をなでなでしてもらってダメダメな時間を過ごす。ああ、可愛いなあこの娘。まるで麻薬のようだわ……。
 そのクロエに泣く泣く別れを告げる。

「そんな、陛下。今生の別れではないのですから。お茶を用意してお待ちしておりますね」

 クロエの癒しの笑顔に送り出されて、教会本部。

 う~、こわいよお。
 今もびびって足が震えている。

 でもあたし、戦いに行くわけじゃないから。
 クロエも言ってたよね。

「けんかをしに行くわけではないのでしょう? 聖女さまもお国の大事なお方、誼を深めてきて下さいまし」

 だから、有意義な会見にしたいわよね。
 教会のお茶はおいしいかしら。


 ◇


 あいさつもそこそこに、あたしは用件を切り出した。

「寄付、ですか?」
「さようでございます、ベアトリスさま」

 扇子で表情を隠す聖女さま。ちょっと困惑してるかな。

「教会は我が国の根幹です。国の柱は国民の喜捨によってこそ成り立つべきものと考えます。
そこで、教会が受け取る寄進はバンクロディ王国民のみに限ることとして、異種族の寄進はご辞退いただきたく」

 南の村で見聞きした状況。教会に外部勢力が入り込んでいるという実態。
 力のあるものに取り入ろうとするのは当然だ。それは当然あたしたちが警戒しなくちゃならないこと。でないと国を内側から食いつぶされてしまう。

 だけどそれは、自助努力にまかせるには難しい。だから他者のチェック機能が必要になる。
 極論すれば国が定めた法規で禁止しちゃう、ってのが一番手っ取り早い。

「我が教会の懐に、国が手を突っ込むと?」

 うわあベアトリスさまの目、目が怖いよお……。
 アタクシのナワバリに手を出そうなんて百万年はやいわよこの小娘が、という幻聴にあたしはおびえた。けど、ひくわけにはいかない。

「とんでもございません。趣旨をご理解いただけたなら、きっとご協力をいただけるものと確信しておりますわ。ですから」

 あたしは言葉を切った。
 いや、演出じゃなくて。心臓が締めあげられるようだけど、言う。

「教会への寄進の内訳をぜひ公開していただきたいと」
「なんだと!」

 怒声を発したのは聖女さまではなく、後ろのヒトだった。

「教会をなんと心得るか! 神聖不可侵の神の御使いである我々にひざを屈しろというのか!」

 ああ、監督官さんね。
 そりゃあなたには都合悪いでしょうね。帝国から資金が流入しているかはまだ分からないけど、懐を探られるのはプライドが許さないでしょうね。

「そんなことはありませんよ。他ならぬ福音教教会ですから、めったなことはないと存じますが、近頃よからぬ事を考える輩が多くて、困っておりますの」
「我らに後ろ暗いところがあると申すか! 聞き捨てならぬ!」
「およしなさい」

 あらあら、聖女さまがたしなめるのも聞かず、監督官はひどくエキサイトしちゃってる。
 そこまであからさまな反応だと、逆に疑っちゃうよ?

「神の御使いたる我らがひざを屈するのは主上たる神のみ! 我らに命ずることができるのは主上と帝国をおいて他にない! きさまらごとき魔族に命令されるいわれなど断じて……」

 ばしっ!

「ひっ」

 聖女さまの扇子が監督官の顔面にクリティカルヒット。
 監督官はよろめき、あたしは小さく悲鳴をあげた。

「およしなさいと言っています」

 聖女さまの声は氷より冷たい。

「女王陛下に対し奉り、なんという無礼な振る舞いか。我が国の王を侮辱することは許しません。控えなさい」

 監督官は黙って引き下がり、あたしは震えあがった。なんという迫力。あたしじゃ到底かなわない。こえぇよー。

 でも。

 あたしをかばってくれたんだよね?
 あたしのために怒ってくれたんだよね?

 おっかないだけの人かと思っていたけど――今もおっかなくてびびってるけど――でもやっぱり、同じ魔族。あたしのことも少しは思ってくれていたんだ。

 そう思ったら、あたしの心にほんの少し、じんわりとあったかいものが湧き上がった。
 思わず口もとが緩むあたしに、なにか? と目を細める聖女さま。目は怖いけど、実は頼りになるおばさまだったのね。あ、あたし白川未悠みゆも同年代だから、あたしがおばさまって言ったら失礼かしら。

 なんとなく尻尾を振りそうなオーラのあたしの表情を受けて、

(つけあがるんじゃないわよ小娘が)

 という鉄のオーラで扇子を口もとに当てながら、聖女さまが口を開く。

「失礼しました、陛下。ご協力は惜しみませんが、さりとて尊き寄進を日の下に晒せとはご無体なおおせ。そればかりはどうかご勘弁を」

 聖女さまが頭を下げる。形の上では頭を下げているけれど、ここは絶対譲れないと態度が表明している。

「どうしてもだめですか?」
「外部に公開することはできかねますが、内容についてはわたくしどもの本部で精査し、不正のなきようはからいましょう。それでいかがですか?」
「わかりました。ご協力感謝します」

 口調は抑えたけど、あたしは飛び上がって聖女さまに抱きつきたい心境だった。もう全面協力に等しい回答じゃない?
 向こうでは監督官が怒りに燃えた目をしている。そうね、これで少なくともフリーハンドで教会を操る、というようなことはできなくなった。それは帝国も同様だ。

「さっそく全教会に触れを出しますわ。よもや不心得者がいるとは思いませんが……」
「ありがとうございます」

 あたしは重ねて聖女さまに頭を下げた。これで万全、とはいかない。やろうと思えば抜け道はいくらでもある。でも少なくとも監視の目が光っているよ、という警告にはなるだろう。なんでも好き放題ってわけにはいかなくなる。それで充分だ。

 あたしは改めて、聖女さまのはからいに感謝した。立場は違えどあたしと同じ組織のトップ。しかも敵対勢力の監視つき。思い通りにいかなくて腹の立つこともたくさんあっただろう。
 それでも国のことを思ってしてくれたことに、不覚にもあたしは感動してしまった。
 なんとなく親近感まで覚えた。肚を割って話したら、お友だちになれるかも知れない。

 当の聖女さまはそんな慣れあったぬるい空気は欠片も感じさせなかったけど。

「有意義な時間でした、ベアトリスさま。ご協力に感謝いたします」

 あたしは立ち上がってていねいに頭を下げた。

「とんでもございません。今後ともよしなに」

 ちょっとあったかい気分のまま、あたしは教会から戻った。
 聖女さまのお言葉も、今は明るい未来への協力の証と思える。多分、目指すところは同じはずだから、協力できないはずがない。
 お互い気安くしゃべることすらままならないけど、でも国のため、民のため、頑張りましょう。帝国なんかに負けてなるものですか。

 でもそんな幸せ気分は長くは続かなかった。

 館に戻る道すがら、馬車に向けてもの凄い勢いで近づいて来る者がいた。

「陛下―っ! 女王陛下はおわしますかーっ!!」
「わたくしはここです。何ごとですか?」

 馬に乗ってきたのは、若い近衛騎士さんだった。

「一大事にございます。帝国が我が国へ攻め入ってまいりました!」

 あたしは絶句した。
 一瞬言葉の意味がわからなかった。

「……どういうことですか?」

 やっとそれだけ、言葉を絞り出した。血の気が引いていくのがわかる。心臓があり得ないほどどきどきしてる。どういうこと? 何が起こったの?

「レマン帝国軍が海を越えて、我が領内に侵攻してきたとのこと。すでに制圧された地域があるようです。急ぎお戻りください!」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

成瀬一
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...