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女王さま、あれこれ試す。
あたし、渾身の大計画。
しおりを挟む「ずいぶん思い切ったことをなさるものですな。これは元老たちの承認を取りつけないと、予算が工面できませんよ」
サティアス卿が呆れたように言う。
わかってる。とんでもない無駄遣いだってことは。
だけど無駄に終わらせない方法はある。
「それをちょっと聞いてくれる?」
あたしは説明を始めた。
閣僚たち相手に熱弁をふるうこと数十分。
「なんとまあ……そんな気宇壮大なことを考えていらしたとは……」
ザクレス卿が、唸り声をあげながら腕を組む。
「こういう時はお金をけちってチマチマやっていたら駄目なのよ。全力で一点突破、それでこそトータルでお金が稼げるのよ」
あたしの言い分に、閣僚たちは腕を組んで考え込む。
みんな同じポーズなので、とても可笑しい。でも笑うのは内心にとどめておいて。
「北方開発特区、ここに娯楽施設をたーくさん集めて、一大テーマパークにするの。熊猫はその目玉よ。あの動物は珍しいし可愛いし、きっと話題になる。国中からお客が見に来るのよ」
あたしが考えたのはテーマパーク、つまり遊園地を造成することだった。
その目玉に熊猫を据える。珍しい動物だ。みんなこぞって見に来るだろう。
国の北から、南から。文字通り国中から。
「なるほど、そういう心積もりでしたか。いや、正直に言って驚きましたよ。てっきり熊猫の可愛らしさに当てられてご乱心なされたかと」
サティアス卿が言う。頭を下げても、やっぱりひと言多いわねこの男は。確かに熊猫の可愛らしさには半狂乱になりかけたけど。
「しかし、そう上手く行きますかな? 最初こそ珍しいかもしれませんが、いずれは飽きられてしまうのでは?」
サティアス卿に続いて、ザクレス卿も言葉を継ぐ。
「かかった経費に見合う収益があがるか、でしょうね。熊猫は確かに珍しいが、この国の北方は遠い。それだけの時間と金をかけてまで、ここに来たいと思う者が果たしてどれだけいることか」
「確かに熊猫だけではちょっと弱いわね」
あたしは正直に認めた。
「だけど熊猫はあくまで目玉のひとつではあるけれど、それで全てじゃないの。もっともっとたくさんの娯楽、珍しい土産物、くつろげる宿に温泉、もっともっと、もーっとたくさん用意するの。それこそひと月かかっても遊びつくせないくらいに」
あたしがビジネスモデルと考えているのはもちろん、あの場所。東京と言いながら東京じゃないところにある夢の国。
駅を降りた瞬間からもう異世界にトリップできるという、徹底した演出。あそこまでやらなきゃ意味がない。中途半端に現実世界を残しちゃだめなのだ。
だけど一番大切なのは、そんな方法論じゃない。
「あたしはね、あたしはみんなに、国中のみんなに、幸せになってほしいのよ。みんなが素敵な夢を見られる、そんな場所を作りたいのよ。夢じゃお腹はふくれないかもしれないけど、夢を見られるから頑張れる、あたしはそう信じてるのよ」
誰もが憧れる夢の国。それをつくりたいのだ。
そこに行けば誰もが笑顔になれる。そうと聞いて、自分も笑顔になりたいと思う。
そんな人たちがまた夢を見るためにそこを訪れる。そして笑顔になって帰っていく。
そんな空間をこの国に作れたら。
「それこそが熊猫の存在意義になるのよ。熊猫が夢のシンボルになるのよ」
かの国で二本脚のねずみがシンボルであるように、だ。
「そしてさらに!」
ばん! とテーブルを引っぱたいて、あたしは熱く語り続ける。
「それが話題になれば、お客は我が国だけにとどまらない。悪鬼族だって小鬼族だってヒト族だって、みんな夢が見たいはずよ。いえ、妖精族ヴィシュヌだって、竜人族ソヴュールだって、夢を見たくないわけがないのよ! だったらみんなに夢を見せてあげる。でっかいでっかい夢を見せてあげるのよ!」
最後は怪しげなビジネスセミナーみたいになってきちゃったけど、コンセプトは間違ってない。しゃべっているうちにあたしは確信を深めた。夢を見られるから人は頑張れるのだ。絶対成功する。いえ、成功させるのよ、あたしが。
みんな黙り込んでいる。考えていた。
女王であるあたしが言うことだから無下にはできないでしょうけど、それでも戸惑っている様子だ。それはそうよね。見たことも聞いたこともない、突拍子もない話だ。女王ご乱心と片づけられても文句は言えないだろう。
「すぐに判断はつかないと思うわ。だから……話し合いましょう。
みんなで考えましょう。どうすれば一番いい方法になるか。あたしもとことん説明するわ。どうかしら?」
「わかりました。陛下のお心のままに」
最初に賛成してくれたのは、意外なことにルーク将軍だった。
「わたくしは無骨者ですので、このようなことにはとんと疎いのですが……陛下のおっしゃる夢の話を聞いて、何か心が弾むものを感じました。真面目に生きるのは無論大切ですが、人は夢や希望がないと生きていけないものなのかもしれませんな」
おおう、なんというありがたい言葉! 万の軍勢にまさる援軍だわよ、将軍。
「将軍からそんな言葉が聞けるとは、長生きはしてみるものですなあ」
「きみはわたしより年下だろう、サティアス卿?」
「そのわたくしめよりさらに年下の女王陛下からこのような驚きがもたらされるとは、いやはや、歳は取りたくないものですなあ」
「あんた絶対馬鹿にしてるよね? してるよね?」
「二回も念を押さなくても、その通りですから大丈夫ですよ」
「やっぱりその口、成敗する!」
「おう、諫言をなす健気な忠臣をお手討ちになさいますか。なんとご無体な。よよよ……」
「おーけー。今すぐ討ち取ってあんたを護国の鬼にしてあげるからね!」
「今でさえ魔族なのに、死んだら鬼ですか。陛下は鬼か……」
ええい、まったく口の減らない!
◇
ああ言えばこう言うのサティアス卿に付き合ってたらきりがないので、あたしはとっとと委員会の編成を命じた。
サティアス卿の役職である財務方の下にはいくつかの掛がある。その中にあたしは観光掛を新設した。プロジェクトチームってやつかしら。
その人たちに、熊猫にまつわるお題について徹底的に検証してもらうのだ。何しろこの国どころかこの世界ではほとんど見られない「娯楽」。それを徹底的に、かつ誰にも真似できないほどの規模で形づくる。想像すら難しいお題に、どうビジョンを描くか。
その人選はサティアス卿に任せたけど、あたしはひとつ注文をつけた。
「女の子を入れなさい。おっちゃんだけじゃ駄目よ」
「男のわたくしめが言うのならともかく、うら若き乙女である陛下がおっしゃいますか。いつからそのようなおっさんくさい趣味になり果てたのでございましょうか。ああ嘆かわしや……」
わざとらしくため息をつく卿の腕を思い切りひっぱたく。
「男の感性だけじゃ駄目だってこと! 客層を考えなさい。女性や子供、ひいてはそんな子たちを連れた家族連れ。その人たちの目を惹くものが必要なのよ」
某夢の国だって女性と子供に大人気だ。つまるところ、そういった客層の心を掴んだものが勝利する。成功の方程式よね。
どれほど気を遣っても、男が見逃しているところって絶対にあるものなのだ。
観光掛はすぐさま活動に入った。誰もやったことのない事業だから手探りだろうと思うけど、あたしにとっても挑戦だった。あたしは初めて、人に任せるという難事業にチャレンジしていたのだ。
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皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
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