幸福の王子は鍵の乙女をひらく

桐坂数也

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第二章 水の鍵の乙女

チートに与えられし称号は。

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「あ、セエノの異人さん。おはよう」

 声をかけてきたのは、昨日最初に岩を押し上げてくれた中の一人だ。

「あんたの考えた、棒を使うやり方、なかなかいいな。あっちでも早速使ってるよ」

「あ、セエノの異人さん」

 松葉づえを頼んであった職人だ。

「出来上がるには何日かかかりそうだが、あんたのあれはとても使いやすそうだ。あんたの国じゃよく使ってるのかね?」

「あ、セエノさん」

 薬草をくれた女の人だ。

「服を用意しときました。昨日自分で破いちゃったでしょう? 丈が合うといいんですけど」
「セエノさん。おはよ。ちゃんと食べた?」
「セエノさん。奥さんの分も服用意してあるから、よかったら使ってよ」

「セエノさん。どうかしましたか?」
「……サキまでそんなこと言うか」

 うずくまっていたぼくは、恨みがましい目でサキを見上げた。

 異世界人がチート能力で大活躍するのはよくあることだし、それが伝説・伝承になることもあるだろう。
 だけど、これはあんまりだ。むしろ黒歴史だ。こんな恥ずかしいエピソードを残したくない。

「そうですか? わたしはいいことだと思いますけど」

 サキがまとった貫頭衣は濃い藍色に染められている。いつも黒服のサキのためにあつらえてくれたらしい。緩い衣服から伸びる白い手足がまぶしい。

「でもなあ……」

 釈然としない。
 しかし、回りの人たちには受け入れられたみたいだ。それで良しとし……。


 ……やっぱり釈然としない。



+ + + + +


「してやられましたな」
「うん」

 ラガンの言葉に、キリエはうなずいた。
 アスガール国。標的を取り逃がしたキリエは、いったん故国に戻っていた。今回もまったくいい所がない。やられっぱなしだった。

「今回ばかりは拙速だった。すまない」
「いえ、そんなつもりでは……」

 実直な武人は、かえって恐縮してしまう。

「まあまあ。戦略を練り直しましょう。ステージが変わった、ということですね?」

 フラムの言にキリエがうなずく。

「今度の世界は魔法も使える。前の世界のように戦闘に不向きなごみごみした所でもない。地の利は我らにあると言っていい」
「それはそれは。腕の振るいがいがあると言うものです」

 にこにことフラムが応じる。

「では今回、私が参ろう」
「ラガン? 副将のきみが行くのかい? それはちょっと」
「主将のキリエ隊長が行かれるのだ。我らが行かずしてどうする」
「我ら……ということは、私も行くのかい?」
「当たり前だ」
「やれやれ」

 フラムは肩をすくめると、

「ユナフル。メルフル。いるかい?」
「は」「こちらに」

 二人の女性魔術師が同時に答える。

「例の技、進めといてね。もう少しだからさ」
「は」「かしこまりました」
「ま、ここで片がつきゃ必要ないんだけど。戦いは二手先三手先を見込んでおかないとね」

 そこでフラムは振り返る。

「というわけで、今回も移動できる人数は限られます。7名……いや8名が限度ですか。パーティの構成はいかに?」
「ではラガンの隊から剣士をあと二名。フラムは魔術師を三名。剣士が攻撃主体だ」

 キリエが明快に答える。

「では魔術師隊は補佐に回りますか。とは言え、攻撃力も欲しいですねえ。闇属性は私でよいとして、残りは水属性かな?」
「いや。あの世界に今、水はない」
「……そうでした」

 キリエの言葉にフラムは曖昧な笑みを返した。

「では、赤の姫相手ですから、土と風ですか。そうそう。剣には魔法を付与しておきましょう」
「要らぬ」

 言下にラガンが拒絶する。

「まあそう言うなって。きみらの剣の腕は承知しているし誇りは充分に尊重するが、相手は赤の姫。場合によっちゃ青の姫もだ。使えるものは何でも使ってくれたまえよ」

 フラムはラガンの肩をぽんと叩き、腕組みのラガンは「ふん」と顔を背ける。
 これでもなんだかんだで上手くやっているのだから、仲がいいのか悪いのか。


「よし。出立は明後日。第一は水の鍵の開錠の阻止。第二は火の鍵の乙女の奪回」
「では第一は我が」とラガン。
「では第二は私が」とフラム。
「今度こそ仕留めよう。力を貸してくれ」

 その場の全員が敬礼を返した。



+ + + + +


「さてと」

 夜。月が中天にかかる前。
 ぼくは立ち上がった。

「行くのですか?」
「うん。クルルと話をしてくる」

 サキは黙って認めてくれた。

「行ってらっしゃい」
「うん」

 世界を救う方法。いや、クルルを救う方法。ひいてはぼくら自身を救う方法。
 方法はある。確信もある。あとはそれを確認するだけ。
 そして、決意するだけ。覚悟を決めるだけ。

 星明りをたよりに、ぼくは外を歩いていた。
 星がこんなに明るいなんて知らなかった。月も明るくてとても綺麗だ。道はよく見えた。
 手足の枷は、ちょっときつい。いましめの魔法が効いているようだ。けど、ぼくが今向かっているのは、もう一人の縛めの魔法に縛られている人のところ。だから多分、脱走とはみなされない。

 不案内な異郷の地。目的地を探してうろうろと迷う。あまりサキと離れていると目的を果たす前に燃料切れになってしまう。少し焦りはじめたとき、目当ての塔が見つかった。



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