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第三章 風の鍵の乙女
14.クローマ島沖魚雷戦。
しおりを挟むクローマ島に上陸してからさらに一日。
いつ敵が来るか、じりじりと神経を削られる不安を感じながら、ぼくらは上陸予想地点の補強をしたり、準備に勤しんでいた。とは言え、ちいさな島なので、大してすることがあるわけでもない。あとは焦る自分の心との戦いだ。
だが、来るべき時はいつか必ずくる。
「子爵さま! 船です!」
その報告に、緊張が一気に高まった。
いよいよ始まる。
船影はどんどん大きくなってくる。やがて誰の目にも明らかになったそれは、もくもくと黒い煙を吐き、大きな機械音をさせながら近づいてきた。
「蒸気船か……」
船腹に巨大な外輪を持つ、蒸気機関の船だった。大きさは三十メートルを軽く越えるだろうか。それが三艘、ゆうゆうと進んでくる。圧倒的優位を見せつけるかのように。
「兵士を満載しているんだろうな。我々は手出しもできずに、島に取り付かれるのを眺めているしかないのか」
子爵の慨嘆ももっともだ。
派遣軍は自信満々でいることだろう。普通に考えれば、弱小貴族の抵抗などものの数ではないはずだ。
普通ならば。
普通でないことに、こちらには強大な魔力を持つ鍵の乙女がふたりもいた。うちの姫さまたちの前を黙って通れると思わないことだ。
「クルル。こんなのできるかな?」
ぼくの提案をクルルはすぐに理解してくれた。にやっと笑って、
「うん。わかった。ありったけの『槍』をぶつけてやるよ」
目を閉じて、両手を前方に差し出した。
海の上に次々と、巨大な氷の槍が現れる。長さは五メートル以上、ひと抱えもありそうな太さの尖ったオブジェクトが、海上にどんどん並んでいく。
そしてクルルは大きく伸びあがると、頭上から手を振り下ろした。
「海神の矛戟!」
一斉に発射された氷の槍はすぐさま海中に飛び込み、敵の船に向かって突進していく。
そして。
くぐもった衝撃音がたてつづけに響いてきた。
「よしっ! 全弾命中だ」
ぼくはクルルと、ハイタッチを交わす。
クルルに撃ってもらったのは、氷の魚雷。
火薬は積んでいないから派手な水柱こそ上がらないものの、吃水下のどてっ腹にいくつも大穴を開けられてはいかに大船でもたまったものではない。
当然この世界にはまだ魚雷なんかあるわけがないから、妨害されることもなく難なく命中。おそらく何が起こったのかすら、まだわかっていないだろう。
「よし。もう一回だ!」
「あいよ。『海神の矛戟!』」
凶悪な氷の柱が音もなく海中を突き進んでいき、またも船腹に突き刺さった。
艦隊の動きが、目に見えて変わった。
わらわらと動きを乱すと、方向転換に入った。その間も浸水が止まらないと見えて、一隻は傾き始め、もう一隻も船尾が沈み始めている。
「やったね」
「よしよし。よくやった」
ぼくはくしゃくしゃとクルルの頭をなでた。クルルは嬉しそうだ。
小さな島全体から、歓声が上がった。
「見ろ! 退却していくぞ!」
「すごい! あんな巨大な艦を撃退してしまった!」
「なんて力だ! 赤子の手をひねるとはこのことか!」
艦隊はもはや上陸戦どころではなかった。ほうほうの態で逃げて行く。
「陸地まで辿り着けるといいけどな」
こうして緒戦は、直接刃を交えるまでもなく、モリガン子爵側の圧勝に終わった。
+ + + + +
吹けば飛ぶようなちっちゃな島は、大いに沸き返っていた。
無理もない。本来なら数倍、十数倍の敵を相手に、血みどろの戦を覚悟していたであろう戦士たちだ。ところがふたを開けてみれば、指一本動かすまでもない大勝利。浮かれてしまうのも仕方ないと言えた。
そして午後には、さらに吉兆とも言えるできごとがあった。
風が吹いたのだ。
「風だ!」「風が吹いている!」
これもまた、大騒ぎ。たかが風だが、この世界においては十何年ぶりかの天の恵みだった。
さえぎるもののない孤島、クローマ島の上を、強い海風が吹き抜けていく。
「忘れていたわ、風なんて。子供の頃以来かしら」と、アメリア。
「風、ね。そう言えばそんなものもあったかも」とは、シンシア。
「なんですの、これは? 風、というのですか?」と、エルミアに至っては風の存在自体を良く知らなかった。本当にこの世界は、風が欠乏していたんだなと思い知らされる。
気持ちのいい海風だったが、ぼく心は晴れなかった。
「ううむ、まさか本当に風を取り戻してしまうとは」
傍らでモリガン子爵が、腕を組んで唸っていた。
「子爵さまは、風が取り戻されることをご存じだったのですか?」
「うむ。都で集めた情報の中にそういう話もあってな。まさかそんな与太話が現実にあるとも思えなかったのだが……本当だったのだな」
なるほど、先日子爵が出掛けていたのは、情報収集のためだったのだ。子爵はぼくの提案を実直に実行してくれていた。貴族とは思えないひとの好さだ。口幅ったい言い草だが、こんないい人を権力争いの犠牲にはしたくない。
「グエンラルデ、いや、この世界に風をもたらす。ジョアン王子はその功績をもって王位をせしめるつもりだと聞いた。確かに巨大な功績だ。ベルリアン殿下もむげにはできないだろうな」
「しかし、この風はいつまで続くでしょうね」
「? どういうことだね?」
ぼくは宰相邸で聞いた話、それからナユタと話した推論を語った。
「なんだって!? すると、この国の風を再び掠め取ろうという、こすっからい連中がいるのか?」
「はい」
モリガン子爵は再び腕を組んで、唸った。
残念なことに、悪だくみを予想はできても、ぼくらには止める手立てがなかった。今ぼくらがいるのは首都からはるか遠くの、そのまた遠くの離れ小島。とうてい手は届かない。歯ぎしりしながら見ているしかなかった。
果たして、強い海風は翌日にはすっかり止んでしまった。その翌日も。もう空気はそよとも動かず、元のよどんだ世界に戻ってしまった。
「リョウタどのの言う通りだったな。我が国は再び風を奪われてしまったということか」
「はい」
そして次には、この島を全力で攻めにくるだろう。
この世界に残った唯一の風の鍵の乙女、エルミアを手に入れるために。
エルミアを開いて再び風のエレメントを取り戻す。ジョアン王子にはそれしか道は残されていないはずだ。なにが何でもエルミアを強奪しようとするだろう。
その時ぼくは、ミアを守り切れるのか。
+ + + + +
夜中、ぼくは目を覚ました。
真夜中はとうに過ぎているが、夜明けにはまだ遠い時間。ぼくはそっと起き出して外に出た。
戦時下で仕方ないとは言え、固い岩の上、わずかに雨露をしのげる程度の場所に全員が雑魚寝というのは、心も身体もひどく疲れる。だけど思えば、ふかふかのベッドで寝ていたのはほんの数日だった。サキと出会ってから、地べたや牢屋や馬車の中……いったいどんな生活だったんだか。
座り込んで暗い海を眺めていると、いきなり後ろから目をふさがれ、心臓が跳び上がった。
「だっ、誰だ!」
「きゃっ」
相手を投げ飛ばしそうな勢いで立ち上がりかけると、後ろで可愛らしい悲鳴が聞こえた。
「……エルミア、さま?」
エルミアが尻もちをついていた。
「ごめんなさい。驚かせてしまいましたか?」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。お怪我はありませんか」
ぼくはエルミアに手を差し出して助け起こした。
まったく気配を感じなかった。敵に後ろを取られたかと全身鳥肌が立ってしまったほどだ。
キリエと渡り合って、少しは感覚が磨かれたと思ったのに、全然成長していない。軽くへこんだ。
「まったく気づきませんでした。だめだめですね、ぼくは」
「ふふっ。モリガン家の特技ですから」
エルミアはいたずらっぽく笑う。
「特技?」
「はい。わたくしはお父さまの技を受け継いでいます。裏の技を」
そうか。
か弱そうに見えるが、エルミアも暗殺者の血を受け継いでいるということか。
「わたくしは、姉さまや姫さま方のようには戦えません。後ろで守られているだけです。でもいざという時にはリョウタさま、あなただけはきっとお守りしますから」
真剣なまなざしで、エルミアは言う。
やっぱりだめだな、ぼくは。
「いいえ。守られているだけなんてことはありませんよ、ミアさま」
ぼくはエルミアの肩に手を置いて、笑みを向けた。
「みんな、あなたを守りたいから戦うのです。引け目を感じることなんかありませんよ」
それに、とぼくは思う。次からは本当にエルミアをめぐる攻防になる。サキもクルルも、もちろんぼくも、全力でエルミアを守ることになるだろう。
「リョウタさま。あなたは本当にお優しい方ですね」
エルミアがぼくの手をとって、自分のほおに当てる。
「あなたには姫さまがたもいらっしゃるのに。それでもわたくしを守ると言って下さって、とても嬉しいですわ」
エルミアの微笑みは穏やかな、はかなげな笑みだった。
ぼくは胸が締めつけられるような気持ちになる。
誰だって、自分に自信を持てない時期がある。自分には何の価値もない、存在する意味なんかない。そうとしか思えない時がある。とてもよくわかる。ぼくだってそうだから。
何のとりえもない、頼りにならない自分。それでも少しは意味がある、いてもいいんだと思えたのは、サキが、クルルがいたからだ。
サキを守ってあげなければ、と思ったからぼくは戦えた。
クルルを助けてあげなければ、と思ったからぼくは頑張れた。
ぼくはいつもふたりに守ってもらってばかりだけど、それでも必要とされているのがわかるから、いてもいいんだって思える。
きみもそう思える時が早く来るといいな、ミア。
それには一刻も早く、きみをひらく必要がある。だけど……。
「お楽しみのところ悪いけど」
「うひゃあっ!!」
文字通り飛び上がって振り返ると、クルルが立っていた。やれやれ、という顔をしている。
ぼくの手はエルミアの肩に置かれたままだった。気まずい。
「そんなことより」
気にせずクルルは、ひくひくと猫耳を動かしながら、言を継いだ。
「何かくるよ。音が聞こえる」
「なんだって!?」
ぼくは伸び上がるように首をめぐらせた。
ほんのかすかに、低く低く、唸るような音が聞こえたような気がした。
「……何の音だ?」
「多分この間の船だと思う」
蒸気機関の音なのか。
「ということは、夜襲か?」
「そうみたいだね」
クルルの声も表情も真剣だ。
ぼくはエルミアを振り返った。
「ミアさま。みんなを起こして下さいますか?」
+ + + + +
サキを起こし、クルルと一緒に高台に戻った頃には、低い音ははっきりとわかるほどになっていた。
上陸される前に気づいたのはクルルのお手柄だった。聞き逃してしたら、たいへんなことになるところだった。だけど海上はわずかな星明りに照らされているだけで、何があるのかまったく見えない。
と、低い音がやんだ。機関を停止したようだ。それほど大きな音ではなかったから、まだ相当距離があるだろう。こちらに気づかれる前に上陸を果たしてしまおうという意図だと思われた。
「小舟に分乗して上陸かな。くそっ、読めているのに手を出せないなんて!」
アメリアが悔しそうに言う。服は着ているものの、甲冑をまとう途中で飛び出してきたらしい。軽装の歩兵のような格好になっている。
「大丈夫です」
ぼくは言った。
「サキとクルルで、できる限り阻止して見せますよ」
「できるのか?」
アメリアの問いに、サキとクルルは自信たっぷりでうなずく。
「その代わり、陸戦になったらおまかせしますよ、アメリア将軍」
ぼくの軽口に、アメリアは破顔して答えた。
「ああ、まかせろ」
サキが唇に指を当て、それから闇の虚空に向けてさっと振り投げた。
「煉獄の燈明!」
はるか前方の闇に眩しい火の玉が出現し、ぼくらは手をかざして目をかばった。
灯火は海上に落ちることなく、真っ黒い海面を照らし出している。
黒い平面となった海の上。いくつもの小さな影が見えた。上陸艇だ。
「見ろ!」
「この島に取りつく気か!?」
「大丈夫です」
サキがそう言って、大きく手を振り上げる。
「紅蓮の炎海!」
上空の火の玉から無数の小さな火の玉が吐き出され、海上に向かって降り注ぐ。真っ暗な海が見る間に、明々と燃える炎の海になってしまった。
(すごい)
相変わらず絶大な破壊力だ。ナパーム弾ってこんな感じだろうか。海の上で新たに上がる炎がある。火が付いた船があるようだ。
「よしっ! あたしも手伝う!」
クルルも並んで手を振り上げる。
「酷薄の氷弾!」
無数の氷の弾丸。その先端は尖っている。凶悪極まりない氷の雨が海上を襲った。
寄せ手の船は次々と沈んでいく。何百人という大軍も、鍵の乙女ふたりの前では赤子も同然だった。
だが全てを仕留めることはできなかった。
炎と氷の弾幕をかいくぐり、島に近づく船がいくつかあった。
「総員! 戦闘準備だ! ひとりたりとも上にあげるな!!」
アメリアが抜刀し、声を張る。おう、と声が返り、それは鬨の声となって島を包み込んだ。
兵士の先頭に立つべく、陣地から駈け下りようとするアメリアに、シンシアが声をかけた。
「待って、姉さん」
「どうした?」
「敵は前面だけとは限らないわ」
シンシアの言わんとすることをアメリアは瞬時に理解した。
「わかった。手勢を置いていく。好きに使って」
「ありがとう。ご武運を」
「おう!」
言うなりアメリアは雄叫びをあげて駆け下りていく。
「者ども、続け!」
長い髪をなびかせて走る姿は遠目にも美しかった。戦女神と言うにふさわしい。兵士たちに人気があるのもよくわかる。
はるか下方、船着き場から剣戟の音が聞こえ始めた。黒い空にもうひとつ、火の玉が上がる。サキが島の上に打ち上げたのだ。ここまでくれば視界はできるだけ明確に確保できた方がいい。
どの位の敵が上陸できたのか、ここからではよくわからなかった。だが音は水際から移動していない。善戦しているようだ。
ぼくと並んで戦況を見ていたクルルが訊いてきた。
「どうしよう? あたしたちも加勢した方がいいのかな?」
「いえ、まだです」
ぼくが答えるより早く、脇から声がした。
見ると、シンシアが双眼鏡をのぞきながら歩き回っている。
「正面の部隊はおとりかもしれません。あなたたちは切り札です。まだ出馬には早すぎます」
さすが、幕僚の格好は伊達じゃなかった。ここからでは把握しにくい戦況をしっかり読んでいる。
「まだ島全体が見えにくいですね。姫、もっと明かりを」
シンシアに言われて、サキはさらにいくつかの火の玉を打ち上げた。昼間のような明るさになる。
船着き場周辺で戦っている人たちが見える。人影が小さくて判別できない。が、ひときわ通るアメリアの叱咤が聞こえる。優勢みたいだ。
「リア姉さま……」
エルミアが胸の前で、ぎゅっと手を握り合わせている。
「いたわ! 反対側よ!」
シンシアの叫び声に、その場の全員が一斉に振り返った。
「潰した船着き場に取りついたみたいね。なかなかやるわ。迎撃!」
おう! と兵士たちが応じ、走り出す。
「クルル!」
「まかせて!」
瞬時に青い髪と紅の眼に変わったクルルが飛び出した。木々の間を忍者のように跳んでいく。兵士が辿り着く前に、敵に遭遇できそうだ。
やがて、氷の柱がいくつも地面に突き立つのが見えた。それでも位置は海よりだいぶ内陸に入り込んでいる。木々が邪魔をして、完全に防ぎ切るのは難しいかもしれない。あとは追いついた兵士たちと協力して、地道に立ち向かうしかない。
「遼太さん」
「なあに? サキ」
ぼくの袖を引いたサキは、遠くの一点を見つめている。
「人が多いので見えにくいですが……あの辺りに人の熱を感じるです」
「なんだって!?」
サキの指さすあたりを見たが、木が深くて目視では確認できない。
「残る海岸は断崖ばかりだけれど、よじ登ったのかしらね。大した執念だわ」
シンシアが言って、残る兵士に出動を命じる。ぼくも振り返って、サキに声をかけた。
「サキ。頼めるか?」
「はい」
「火の手をあげて、目印になってくれればいい。頼むよ」
「はい。まかせて下さい」
瞬時に紅に染まった髪を振り、紅の眼を見開くと、サキは飛び出して行った。
あとに残った者はほとんどいない。すでに総力戦になっている。
今ここまで攻め込まれたら、ひとたまりもない。
「すごいのですね、姫さまたち」
エルミアがびっくりして、サキの行った先を見ている。
「戦う姿はもっとすごいですよ」
「そうなのですか? 今の技だけでも人間離れしたすごいものですのに……なんて素敵なのでしょう」
エルミアの目に、憧れの感情があるのをぼくは見てとった。
「姉さまたちも素敵ですけど……姫さまたちも素敵です。リョウタさまは素敵な女性ばかりに囲まれているのですね。わたくしも……」
その続きはよく聞き取れなかった。エルミアは赤い顔をしてうつむいている。
島全体が乱戦模様だ。シンシアは全体に戦線を下げるよう指示していた。この島はそんなに大きくないが、今の人数で守り切るには大きすぎた。だが全体に森や崖におおわれていて、人が通れる道は多くない。水際は捨てて、要所を守り抜く。少ない人数でしのぐための作戦だ。
しかし、水は少しずつ漏れていく。
「いたぞ!」
ふいに湧いた叫び声に、ぼくはエルミアをかばうように前に立った。現れたのは敵兵。防衛線をかいくぐって、ついにここまで達した者がいたのだ。
敵兵はエルミア目がけて殺到してきた。敵兵と目が合う。当然ぼくは剣なんか使えない。これはだめかな。
がっ
そこにさらに割って入ったのはロゼッタさんだった。
「ロゼッタ!」
「ミアさま! さがって下さい! リョウタさま、ミアさまを!」
両手で短剣を持ち、敵を食い止めるロゼッタさん。だけど力ではかなわない。弾き飛ばされる、と思った瞬間、態勢を崩して敵の足を払った。倒れた兵士にとどめのひと刺し。強い。
その脇をすり抜けて、もう一人がこちらに肉薄する。ぼくはエルミアをかばうように抱え込み、空いた手を上げた。
防御魔法発動。
振り下ろされた剣が見えない壁に弾かれる。二度三度。敵の兵士に焦りの表情が見える。わけのわからない事態に戸惑っているようだ。
斬撃をしのいでいるうち、敵兵は味方の剣に沈められる。
「ミアさま。大丈夫ですか?」
「はい。守って下さって、ありがとうございます」
しばらくぼくにしがみついていたエルミアだったが、やっと落ち着いたみたいだ。そっとぼくから離れた。
気がつくと、剣戟の音も収まっていた。
「やれやれ。やっと掃討できたみたいだわ」
アメリアが抜き身の剣を提げたまま戻ってきた。つくづく豪快な人だ。
「ご無事のお戻り、なによりです。姉さま」
出迎えたシンシアにアメリアは笑いかけた。が、シンシアの表情は浮かない。
「心配するなよ、シア。次もきっちり撃退してやるさ」
「次も同じだといいのだけれど……」
そしてぼくは、戻ってきたサキとクルルをねぎらっていた。
「おつかれさま。怪我はないかい?」
ふたりの頭をなでてやりながら、ぼくは今の戦いを思い返していた。
きわどかった。次はさらに何か手を打ってくるだろう。
読み切れるか。
しのぎ切れるか。
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