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恋愛編
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どれくらい思考に耽っていたのだろうか
ドアがノックされる音で思考を中断し、壁にかかっている時計を確認する
晩餐の準備をする時間には少し早いのを見て誰が来たのかと首をかしげながらもだらりと崩していた姿勢を正し、返事を返した
「お邪魔するよ」
「…レオナルド?」
「いきなり悪いね、ちょっと話したいことがあってさ」
そう言いながら入ってきた人物に眉間に皺を寄せる
「それはいいが・・・
お前、執務があるからとカインに連れていかれなかったか?」
「ん?あぁ、それこそいいんだよ
大切な仕事は僕と違って真面目で優秀な兄上たちがやってくれてるから、僕に回ってくるのはそれほど重要なものも、急ぎのものもないんでね」
だからちょっとくらい平気なのさ、と悪びれた様子もなく答えつつ俺の向かいに腰かけたレオナルド
その答えに俺はますます眉間の皺を深くする
重要なものも急ぎのものもなかったとしても、王族である限り毎日一定の仕事は割り振られているはずだ
今日仕事をさぼれば、きっとその仕事は明日に回る
勿論、明日は明日の仕事があるから明日は二倍の仕事量
そしてそれをさらにさぼれば明後日には・・・負の連鎖だ
だが、こいつがそれを素直にこなすとは思えない
と、いうことは誰かが代わりにやっているか、こいつが仕事をするように誰かが見張っているかのどちらかだ
その誰かは・・・
…カインだな
機嫌よくメイドを呼んで茶の用意を持ってくるよう頼む友人を見ながら、俺はこの友人のお目付け役にそっと同情を寄せた
「ま、僕の仕事の話なんてどうでもいいんだよ」
レオナルドがティーカップを手に取り一口飲んでからこちらを見る
その真剣な様子に何事かと自分も居住まいを正した
「ちょっとアルベルトに話したいこと…聞きたいこと?
…いや、相談かな?まぁ、そんな感じの話があるんだけどね」
「…あぁ、なんだ?」
「うーん…何て言ったらいいのかな…」
何時も何時も過ぎるくらいにぽんぽんと軽口を叩くレオナルドが、めずらしく言葉を選ぶような仕草を見せる
よほど言いにくいことなのか…?
「…お前が言葉に詰まるのは珍しいな
なにか言いにくいことか?」
尋ねるとレオナルドは困ったように笑いながら口を開いた
「ん~…
言葉選んでたら伝わらない気もするし…
…単刀直入でもいいかな?」
「あぁ、構わん」
「驚かないでよ?てか、怒らないでよ?」
「大丈夫だ」
この自由な友人から突飛な発言が出ることにはもう慣れている
今さら大抵の事では驚かないだろう
そう思い、頷いて見せる
しかし、俺は次のレオナルドの言葉でその考えを改めなければならなくなった
「アルベルトさ、セシリア嬢のことを僕に譲る気、あったりする?」
「…は?」
咄嗟に言われた言葉が理解できず、間抜けた声が出た
なんだ?なんと言われた?
譲る…何を?
セシルを?
…セシルを、譲る?レオナルドに…?
理解した瞬間、頭にカッと血が上る
冗談じゃない
せっかく恋心を自覚したんだ
そう簡単に渡してたまるか
それに何より…
「ふざけるな
セシルは物じゃない」
出来るだけ冷静な声で答えたつもりだったが、発した声は思ったよりも遥かに低く、怒りに満ちていた
それを聞いてレオナルドが困ったような顔をする
「怒ってるじゃないか
てか、違うんだよ
別にセシリア嬢を物扱いしてるわけでも軽視してるわけでもないんだ」
「そうとしか聞こえないが」
「いや、違うって
ごめんごめん、一から説明するからちょっと話聞いて
晩餐までに話しときたいんだ」
困った表情のままそう言うレオナルドの言葉を俺は一旦聞くことにした
ドアがノックされる音で思考を中断し、壁にかかっている時計を確認する
晩餐の準備をする時間には少し早いのを見て誰が来たのかと首をかしげながらもだらりと崩していた姿勢を正し、返事を返した
「お邪魔するよ」
「…レオナルド?」
「いきなり悪いね、ちょっと話したいことがあってさ」
そう言いながら入ってきた人物に眉間に皺を寄せる
「それはいいが・・・
お前、執務があるからとカインに連れていかれなかったか?」
「ん?あぁ、それこそいいんだよ
大切な仕事は僕と違って真面目で優秀な兄上たちがやってくれてるから、僕に回ってくるのはそれほど重要なものも、急ぎのものもないんでね」
だからちょっとくらい平気なのさ、と悪びれた様子もなく答えつつ俺の向かいに腰かけたレオナルド
その答えに俺はますます眉間の皺を深くする
重要なものも急ぎのものもなかったとしても、王族である限り毎日一定の仕事は割り振られているはずだ
今日仕事をさぼれば、きっとその仕事は明日に回る
勿論、明日は明日の仕事があるから明日は二倍の仕事量
そしてそれをさらにさぼれば明後日には・・・負の連鎖だ
だが、こいつがそれを素直にこなすとは思えない
と、いうことは誰かが代わりにやっているか、こいつが仕事をするように誰かが見張っているかのどちらかだ
その誰かは・・・
…カインだな
機嫌よくメイドを呼んで茶の用意を持ってくるよう頼む友人を見ながら、俺はこの友人のお目付け役にそっと同情を寄せた
「ま、僕の仕事の話なんてどうでもいいんだよ」
レオナルドがティーカップを手に取り一口飲んでからこちらを見る
その真剣な様子に何事かと自分も居住まいを正した
「ちょっとアルベルトに話したいこと…聞きたいこと?
…いや、相談かな?まぁ、そんな感じの話があるんだけどね」
「…あぁ、なんだ?」
「うーん…何て言ったらいいのかな…」
何時も何時も過ぎるくらいにぽんぽんと軽口を叩くレオナルドが、めずらしく言葉を選ぶような仕草を見せる
よほど言いにくいことなのか…?
「…お前が言葉に詰まるのは珍しいな
なにか言いにくいことか?」
尋ねるとレオナルドは困ったように笑いながら口を開いた
「ん~…
言葉選んでたら伝わらない気もするし…
…単刀直入でもいいかな?」
「あぁ、構わん」
「驚かないでよ?てか、怒らないでよ?」
「大丈夫だ」
この自由な友人から突飛な発言が出ることにはもう慣れている
今さら大抵の事では驚かないだろう
そう思い、頷いて見せる
しかし、俺は次のレオナルドの言葉でその考えを改めなければならなくなった
「アルベルトさ、セシリア嬢のことを僕に譲る気、あったりする?」
「…は?」
咄嗟に言われた言葉が理解できず、間抜けた声が出た
なんだ?なんと言われた?
譲る…何を?
セシルを?
…セシルを、譲る?レオナルドに…?
理解した瞬間、頭にカッと血が上る
冗談じゃない
せっかく恋心を自覚したんだ
そう簡単に渡してたまるか
それに何より…
「ふざけるな
セシルは物じゃない」
出来るだけ冷静な声で答えたつもりだったが、発した声は思ったよりも遥かに低く、怒りに満ちていた
それを聞いてレオナルドが困ったような顔をする
「怒ってるじゃないか
てか、違うんだよ
別にセシリア嬢を物扱いしてるわけでも軽視してるわけでもないんだ」
「そうとしか聞こえないが」
「いや、違うって
ごめんごめん、一から説明するからちょっと話聞いて
晩餐までに話しときたいんだ」
困った表情のままそう言うレオナルドの言葉を俺は一旦聞くことにした
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