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中編
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クロウの執務室へと続く廊下までやってくると、先導してくれていた侍従が立ち止まった。
「ここから先はお一人で…。執務室で殿下がお待ちです。」
「え…?私だけ…?」
「はい」
普通であれば専属でもないメイドを一人で殿下の元へ行かせたりしない。
今回は直接呼び出されているらしいが、それでも侍従や騎士などが付き添って連れて行くのが一般的だ。
どうして呼ばれているのかもわからないのに、一人…?
戸惑って侍従さんを見つめるが彼はまったく動かない。
しばらく戸惑っていたが、お早く、と急かせれて私は仕方なく歩を進めた。
「アンジェリーナ・リーズです。お呼びとお聞きし、伺いました。」
扉を叩いて名前を告げると、クロウ自ら扉を開いて出迎えてくれた。
久しぶりに近くでに見る幼馴染は背がぐんと伸びて体格も良くなり、知らない人のようだ。
「わざわざ悪いね。さぁ、入って」
短く促されて入室する。
人払いをしているようで、中には本来いるはずの事務官や護衛の騎士さえいなかった。
王宮の中とはいえ…
大丈夫なのかしら?
自分で扉を開くのも危ないと思うのだけど…
首をかしげていると、パタンと扉を閉める音が響いた。
振り返れば今度は二人分のお茶の用意がされている応接ソファを手で示される。
…座れということだろう。
メイドが第一王子とお茶するわけにはいかないんですけど…
「いえ、私は…」
「命令だよ。座って」
遠慮しようと口を開くが、命じられてしまえばそれ以上なにも言えない。しぶしぶ席に着く私を見届けて、クロウも向かいに腰かけた。
「とりあえず、飲んで」
「いえ…」
「いいから。命令。」
「……いただきます」
ゆっくりとティーカップを手に取りそっと口をつける。
口に含んだ紅茶は砂糖もミルクもいれていないはずなのに、ほんのり甘く、どこか不思議な味だった。
「…」
「…」
私が紅茶を飲むのを黙って見つめるクロウ。
用件を聞くために一口飲んだ紅茶をテーブルに戻そうとすると、飲んでからでいいと止められてしまった。
しばらく無言のまま紅茶をいただくという謎な時間が過ぎる。
熱い紅茶を飲み終えた後、クロウはようやく口を開いた。
「…彼とは、どういう関係?」
いきなりの問いかけに首をかしげる。
「彼…ですか?」
「うん、裏庭で一緒にいた騎士」
裏庭と言うことはフレッドのことだろう。
最近はフレッド以外の男性と二人っきりになったことなど無い。
…まぁ、現在進行形でクロウと二人きりだが。
とりあえず持ったままだったカップを置こうと視線をそらす。
するとその短い間に、急にクロウが立ち上がり、私のすぐ側に立った。
「殿下……?」
なんだろう。
様子がおかしい。
今更ながらそう感じた。
無言でこちらを見下ろす瞳に言い知れない恐怖を感じ、背筋に冷たいものが伝う。
私の表情が強ばったのをめざとく認めたクロウがクスリと笑った。
「…かわいい。こわいの?」
クロウの掌が、するりと私の頬を撫でる。そのまま耳朶を指ですりすりと擦られた。
まるで愛撫のようなその触れ方にビクりと身体が跳ねる。カッと頬に熱が集まるのを感じ、咄嗟に身を引こうとするがクロウの手は離れない。
私は言い知れない恐怖をぐっとたえつつ、口を開いた。
「お戯れはお辞めください」
強い口調で咎めてもクロウは笑みを崩さず、私に触れる手も離さない。
手をはね除けて立ち去るべきか。それとも声をあげて誰か呼ぶべきか。
…どちらも王族に一介のメイドが取っていい行動ではないけれど、こういう場合は仕方ないわよね…?
考えている間にクロウが動き、唇同士が触れ合った。
しっかりと伝わる柔らかく、少し冷たい唇の感触に目を見開く。
なに……?
何がおこっているの……?
わけがわからなくて呆然とする私の唇を、クロウの舌がぬるりと這った。
僅かに開いた隙間から舌先を挿入されそうになり、私の思考はやっと抵抗しなければという考えにたどりついた。
「ぃやっ……!」
両手で彼の胸を押し返そうとするが、両手首を掴まれ押さえつけられる。
それどころか、声を上げて口を開いた隙に舌が入ってきてしまった。
「っ……んぅっ…」
口腔内を舐め回され、逃げ場のない舌を絡め取られる。くちゅくちゅと濡れた音が耳に届き、カッと体温が上がった。
まるで、味わいつくそうとするような濃厚なキス。
どうして?なんで?
最近は話すことすらなくなっていたのに、いきなりなんでこんなこと……
何より、私には恋人が…フレッドがいるのに
クロウも見ていたなら知ってるはずなのにどうして…!
抵抗しようにも大きな身体で覆い被さられ、手まで拘束されてしまえば私になす術はない。
耐えるようにぎゅっと目を瞑ると、知らないうちに浮かんでいた涙が零れた。
「……はぁ……」
「……ぁ……ふぅ……ぅ…」
どれくらいの間、彼に翻弄されていたのだろう。
最後に思いっきり舌を吸われ、唇が離れた。
熱を帯びた瞳と目が会い、濡れた口許が孤を描くのを、悲しみや怒り…様々な感情が渦巻く中でみつめた。
クロウは笑みを深め、ゆっくりと私の服に手をかける。
「っ……ダメ……っ」
「ダメ? 全然抵抗してないくせに」
「ゃだっ…!」
「本気でやめさせたいなら、もっとちゃんと嫌がらないと駄目だよ」
楽しそうな笑みを浮かべ、あっという間にメイド服が取り去られた。
せめてもの抵抗で見をよじり、身体を手で隠そうとするが、体が思うように動かない。
なんで…!?いや…嫌…!!
私にはフレッドが居るのに…!
どうして思いっきり振りほどけないの…!!
これじゃまるで続きを望んでるみたいじゃない…!
「ああ……凄く可愛いね」
うっとりと噛みしめるように言われてさらに身体が熱くなった。
「見ない、で……っ」
次から次へと涙があふれる。
それを舐め取るように目尻に口付けられて反射的にキュッと目を閉じた。
「大丈夫。大切に、優しくするからね…」
まるで子供をあやすような声音で髪を撫でられながら耳元で告げられた言葉に、恐る恐る目を開く。
近距離で見つめあったクロウの双眸は、柔らかく細められているのに、瞳はどこまでも暗く翳っていた。
「ここから先はお一人で…。執務室で殿下がお待ちです。」
「え…?私だけ…?」
「はい」
普通であれば専属でもないメイドを一人で殿下の元へ行かせたりしない。
今回は直接呼び出されているらしいが、それでも侍従や騎士などが付き添って連れて行くのが一般的だ。
どうして呼ばれているのかもわからないのに、一人…?
戸惑って侍従さんを見つめるが彼はまったく動かない。
しばらく戸惑っていたが、お早く、と急かせれて私は仕方なく歩を進めた。
「アンジェリーナ・リーズです。お呼びとお聞きし、伺いました。」
扉を叩いて名前を告げると、クロウ自ら扉を開いて出迎えてくれた。
久しぶりに近くでに見る幼馴染は背がぐんと伸びて体格も良くなり、知らない人のようだ。
「わざわざ悪いね。さぁ、入って」
短く促されて入室する。
人払いをしているようで、中には本来いるはずの事務官や護衛の騎士さえいなかった。
王宮の中とはいえ…
大丈夫なのかしら?
自分で扉を開くのも危ないと思うのだけど…
首をかしげていると、パタンと扉を閉める音が響いた。
振り返れば今度は二人分のお茶の用意がされている応接ソファを手で示される。
…座れということだろう。
メイドが第一王子とお茶するわけにはいかないんですけど…
「いえ、私は…」
「命令だよ。座って」
遠慮しようと口を開くが、命じられてしまえばそれ以上なにも言えない。しぶしぶ席に着く私を見届けて、クロウも向かいに腰かけた。
「とりあえず、飲んで」
「いえ…」
「いいから。命令。」
「……いただきます」
ゆっくりとティーカップを手に取りそっと口をつける。
口に含んだ紅茶は砂糖もミルクもいれていないはずなのに、ほんのり甘く、どこか不思議な味だった。
「…」
「…」
私が紅茶を飲むのを黙って見つめるクロウ。
用件を聞くために一口飲んだ紅茶をテーブルに戻そうとすると、飲んでからでいいと止められてしまった。
しばらく無言のまま紅茶をいただくという謎な時間が過ぎる。
熱い紅茶を飲み終えた後、クロウはようやく口を開いた。
「…彼とは、どういう関係?」
いきなりの問いかけに首をかしげる。
「彼…ですか?」
「うん、裏庭で一緒にいた騎士」
裏庭と言うことはフレッドのことだろう。
最近はフレッド以外の男性と二人っきりになったことなど無い。
…まぁ、現在進行形でクロウと二人きりだが。
とりあえず持ったままだったカップを置こうと視線をそらす。
するとその短い間に、急にクロウが立ち上がり、私のすぐ側に立った。
「殿下……?」
なんだろう。
様子がおかしい。
今更ながらそう感じた。
無言でこちらを見下ろす瞳に言い知れない恐怖を感じ、背筋に冷たいものが伝う。
私の表情が強ばったのをめざとく認めたクロウがクスリと笑った。
「…かわいい。こわいの?」
クロウの掌が、するりと私の頬を撫でる。そのまま耳朶を指ですりすりと擦られた。
まるで愛撫のようなその触れ方にビクりと身体が跳ねる。カッと頬に熱が集まるのを感じ、咄嗟に身を引こうとするがクロウの手は離れない。
私は言い知れない恐怖をぐっとたえつつ、口を開いた。
「お戯れはお辞めください」
強い口調で咎めてもクロウは笑みを崩さず、私に触れる手も離さない。
手をはね除けて立ち去るべきか。それとも声をあげて誰か呼ぶべきか。
…どちらも王族に一介のメイドが取っていい行動ではないけれど、こういう場合は仕方ないわよね…?
考えている間にクロウが動き、唇同士が触れ合った。
しっかりと伝わる柔らかく、少し冷たい唇の感触に目を見開く。
なに……?
何がおこっているの……?
わけがわからなくて呆然とする私の唇を、クロウの舌がぬるりと這った。
僅かに開いた隙間から舌先を挿入されそうになり、私の思考はやっと抵抗しなければという考えにたどりついた。
「ぃやっ……!」
両手で彼の胸を押し返そうとするが、両手首を掴まれ押さえつけられる。
それどころか、声を上げて口を開いた隙に舌が入ってきてしまった。
「っ……んぅっ…」
口腔内を舐め回され、逃げ場のない舌を絡め取られる。くちゅくちゅと濡れた音が耳に届き、カッと体温が上がった。
まるで、味わいつくそうとするような濃厚なキス。
どうして?なんで?
最近は話すことすらなくなっていたのに、いきなりなんでこんなこと……
何より、私には恋人が…フレッドがいるのに
クロウも見ていたなら知ってるはずなのにどうして…!
抵抗しようにも大きな身体で覆い被さられ、手まで拘束されてしまえば私になす術はない。
耐えるようにぎゅっと目を瞑ると、知らないうちに浮かんでいた涙が零れた。
「……はぁ……」
「……ぁ……ふぅ……ぅ…」
どれくらいの間、彼に翻弄されていたのだろう。
最後に思いっきり舌を吸われ、唇が離れた。
熱を帯びた瞳と目が会い、濡れた口許が孤を描くのを、悲しみや怒り…様々な感情が渦巻く中でみつめた。
クロウは笑みを深め、ゆっくりと私の服に手をかける。
「っ……ダメ……っ」
「ダメ? 全然抵抗してないくせに」
「ゃだっ…!」
「本気でやめさせたいなら、もっとちゃんと嫌がらないと駄目だよ」
楽しそうな笑みを浮かべ、あっという間にメイド服が取り去られた。
せめてもの抵抗で見をよじり、身体を手で隠そうとするが、体が思うように動かない。
なんで…!?いや…嫌…!!
私にはフレッドが居るのに…!
どうして思いっきり振りほどけないの…!!
これじゃまるで続きを望んでるみたいじゃない…!
「ああ……凄く可愛いね」
うっとりと噛みしめるように言われてさらに身体が熱くなった。
「見ない、で……っ」
次から次へと涙があふれる。
それを舐め取るように目尻に口付けられて反射的にキュッと目を閉じた。
「大丈夫。大切に、優しくするからね…」
まるで子供をあやすような声音で髪を撫でられながら耳元で告げられた言葉に、恐る恐る目を開く。
近距離で見つめあったクロウの双眸は、柔らかく細められているのに、瞳はどこまでも暗く翳っていた。
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