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「やった……!」
一週間後。
新たに出した動画の再生回数は一万回を超えていて、多少なりとも反響があったようだ。コメントもいつもより多く、チャンネル登録者も増えた。
少し誇張した表現のサムネイルと、タイトルを眺めて満足する。
「東雲さんに感謝しないとね……」
動画を作るにあたって、東雲さんの協力なくしてはありえなかった。だから一応ちゃんとお礼を言っておかないと……。
私は早速彼に連絡を取ることにした。
電話を掛けるとすぐに繋がった。
『はい、東雲です』
「あの、瀬戸です。先日はどうもありがとうございました。ええっと、あんなに素晴らしい集会に参加できて本当に良かったです。儀式も刺激的で……。もしまた幸福の会の活動的なのがあれば、ぜひ参加したいんですけど、良かったらまた教えてくださいませんか?」
『……! はい、もちろんです! また連絡しますね!』
嬉しそうな様子を隠さない東雲さんに少し申し訳なく思いながら、私は電話を切った。
それからは東雲さんと連絡を取りつつ、一緒に集会に参加して、動画の編集をする、という日が続いた。
一見真面目な団体だが、たまにドン引きするようなことをする、というスタイルが視聴者の興味を惹きつけているようで、この潜入調査シリーズの人気は尻上がりだ。
それにイケメン信者という名前でたまに登場させている東雲さんとのやり取りも結構好評で、彼には感謝せざるを得ない。
ある日、集会の帰りに東雲さんから食事に誘われた。私は喜んで応えた。
連れて行かれた先は隠れ家風の雰囲気が良いレストランだった。
そこで私は東雲さんと食事を楽しみながら、色々な話をした。
彼との話はつい夢中になってしまうほどだった。
幸福の会についてのことや、趣味のこと。好きな音楽など、様々な話題に触れ合うことができた。
打ち解けている、と言っても良いぐらいの関係になったのではないだろうか。
彼は宗教活動の傍ら、会社員を勤めているらしい。詳しく聞くと大手企業の営業職で、彼は謙遜をしていたがエリート街道真っ只中を歩んでいる優秀な人間だ。
思わず感心してしまった。
イケメンで、優秀で、性格も誠実で。幸福の会の信者じゃなかったら完璧なのに……と思ってしまった。
「瀬戸さんは楽しい方ですね」
「えっ? 私? あはは、東雲さんのトークスキルのおかげですよ」
「いえ。僕はいつも聞き役に回ることが多いんです。でも今日は久しぶりに楽しく喋ることができたし、楽しく聞くこともできた。あの時、あなたに声をかけて良かった」
そんなことを言われると、少し照れ臭いのと、嬉しいのとで笑みが溢れた。
「えへへ、それは良かったです。じゃあこれからも東雲さんのお話、たくさん聞かせてくださいよ!」
「ふふ、良いんですか? お気持ちだけでも、ありがたいです。……とても」
「いえいえ~」
お互いにお酒も入って、開放的になったせいなのか。少し腹を割って話してしまったと思う。
ほんのり朱が差した彼の顔を眺めると、潤んだ瞳が向けられた。
色っぽい表情に一瞬どきっとしてしまい、固まってしまう。
「そ、そろそろ帰りましょうか」
「ええ、そうですね。今日は付き合っていただいてありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。楽しかったです!」
「……良ければまた、ご一緒してくれますか?」
「……はい!」
そうして私達は解散した。
私は帰宅する途中、ずっとドキドキしていた。
気を引き締めないと本当に東雲さんのことを好きになりそうで、割り切らなければ。と、自分に言い聞かせるのであった。
■
潜入動画を投稿してから数ヶ月……。
正直幸福の会関連のネタも尽きて来たところで、再生回数も落ち着いて来た。これ以上引き伸ばしても飽きられるだけだろう。
そろそろ何か別の企画に着手しなければ、と思ったが、その前に幸福の会から抜け出すべきだ。しかし一体どうやって抜け出そう。自分でも関わり過ぎたな、と思った。
ネタになるようなことを一瞬でも見逃さないために、集会がある度に通っていたし、顔見知りもかなりできた。
何より東雲さん――。
幸福の会はやめれば良いだけだけど、彼とはどうしよう……。
彼とは仲良くなり過ぎたと思う。集会帰りに食事に行ったり、気が付けば悩みを聞いたりする仲になっていた。
それに、私は彼を悪しからず思っている。
ともかく、次のネタは幸福の会、脱会編で決まりだ。
私は一番初めにもらったパンフレットを隅々まで眺めた。
入会の方法は載っていたが、どこを探しても退会の方法は載っていなかった。
「当たり前だよね……」
といっても幸福の会に直談判する勇気はない。
かくなる上は東雲さん、と行きたいところだが、東雲さんは最近仕事が忙しいみたいで最後にメッセージを送ってから返事がない。
もういっそこのままでも良いのかな、と少し思ってしまった。
集会はお菓子食べ放題だし、行く頻度減らせば後は普通の生活を送れば良い。
そんなことを思いながら放心していると、握っていたスマホが振動した。
「返事来た……!」
少し悩んだが、彼に相談することに決めた。
私は「ちょっと相談なんですけど、お電話できますか?」と持ち掛けた。
そうして電話が掛かってきて、脱会したいという旨を伝えると、理由も聞かれず、あっさりと承諾された。
しかし、一応ということで最後に直接会って手続きを行うことになった。
指定された夜に、喫茶店で待ち合わせる。
東雲さんは先に席に着いていた。相変わらず今日もスーツを着こなしていてかっこいい。もうこの姿も見納めか……と思うと、少し寂しい気分になった。
「お待たせしました」
「いえいえ。呼び出してすみません」
席に着くと、早速退会の手続きが行われた。
私が退会届の書類に記載すると、東雲さんが代わりに届けてくれるらしい。
本当に最初から最後まで、お世話になりっぱなしだ。
「これで大丈夫です。お疲れ様でした」
「東雲さん、いろいろとありがとうございます」
「いいえ。僕の方こそ、瀬戸さんと過ごせて楽しかったですよ。寂しくなります」
「わ、私も……」
「そろそろ帰りましょうか」
「はい……」
お店も閉店間際だったので、あっさりと解散になった。
駅まで私を送ってくれる東雲さんと隣り合って歩く。
その穏やかな横顔を見上げると、途端に罪悪感が溢れ出してきて、全てを打ち明けそうになってしまった。
「あっ……」
頬に冷たい感触を感じる。みるみる内に雨が降り出していた。しばらくすると土砂降りになった。
東雲さんの方を見ると困ったような顔をしている。
「瀬戸さん、これで家に帰るのは大変でしょう。風邪を引くかもしれません。すぐ近くに僕の家があるんです。よければそこで雨宿りしていきませんか?」
「あ、は、はい! そうですね!」
私は咄嵯に答えてしまった。
一週間後。
新たに出した動画の再生回数は一万回を超えていて、多少なりとも反響があったようだ。コメントもいつもより多く、チャンネル登録者も増えた。
少し誇張した表現のサムネイルと、タイトルを眺めて満足する。
「東雲さんに感謝しないとね……」
動画を作るにあたって、東雲さんの協力なくしてはありえなかった。だから一応ちゃんとお礼を言っておかないと……。
私は早速彼に連絡を取ることにした。
電話を掛けるとすぐに繋がった。
『はい、東雲です』
「あの、瀬戸です。先日はどうもありがとうございました。ええっと、あんなに素晴らしい集会に参加できて本当に良かったです。儀式も刺激的で……。もしまた幸福の会の活動的なのがあれば、ぜひ参加したいんですけど、良かったらまた教えてくださいませんか?」
『……! はい、もちろんです! また連絡しますね!』
嬉しそうな様子を隠さない東雲さんに少し申し訳なく思いながら、私は電話を切った。
それからは東雲さんと連絡を取りつつ、一緒に集会に参加して、動画の編集をする、という日が続いた。
一見真面目な団体だが、たまにドン引きするようなことをする、というスタイルが視聴者の興味を惹きつけているようで、この潜入調査シリーズの人気は尻上がりだ。
それにイケメン信者という名前でたまに登場させている東雲さんとのやり取りも結構好評で、彼には感謝せざるを得ない。
ある日、集会の帰りに東雲さんから食事に誘われた。私は喜んで応えた。
連れて行かれた先は隠れ家風の雰囲気が良いレストランだった。
そこで私は東雲さんと食事を楽しみながら、色々な話をした。
彼との話はつい夢中になってしまうほどだった。
幸福の会についてのことや、趣味のこと。好きな音楽など、様々な話題に触れ合うことができた。
打ち解けている、と言っても良いぐらいの関係になったのではないだろうか。
彼は宗教活動の傍ら、会社員を勤めているらしい。詳しく聞くと大手企業の営業職で、彼は謙遜をしていたがエリート街道真っ只中を歩んでいる優秀な人間だ。
思わず感心してしまった。
イケメンで、優秀で、性格も誠実で。幸福の会の信者じゃなかったら完璧なのに……と思ってしまった。
「瀬戸さんは楽しい方ですね」
「えっ? 私? あはは、東雲さんのトークスキルのおかげですよ」
「いえ。僕はいつも聞き役に回ることが多いんです。でも今日は久しぶりに楽しく喋ることができたし、楽しく聞くこともできた。あの時、あなたに声をかけて良かった」
そんなことを言われると、少し照れ臭いのと、嬉しいのとで笑みが溢れた。
「えへへ、それは良かったです。じゃあこれからも東雲さんのお話、たくさん聞かせてくださいよ!」
「ふふ、良いんですか? お気持ちだけでも、ありがたいです。……とても」
「いえいえ~」
お互いにお酒も入って、開放的になったせいなのか。少し腹を割って話してしまったと思う。
ほんのり朱が差した彼の顔を眺めると、潤んだ瞳が向けられた。
色っぽい表情に一瞬どきっとしてしまい、固まってしまう。
「そ、そろそろ帰りましょうか」
「ええ、そうですね。今日は付き合っていただいてありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。楽しかったです!」
「……良ければまた、ご一緒してくれますか?」
「……はい!」
そうして私達は解散した。
私は帰宅する途中、ずっとドキドキしていた。
気を引き締めないと本当に東雲さんのことを好きになりそうで、割り切らなければ。と、自分に言い聞かせるのであった。
■
潜入動画を投稿してから数ヶ月……。
正直幸福の会関連のネタも尽きて来たところで、再生回数も落ち着いて来た。これ以上引き伸ばしても飽きられるだけだろう。
そろそろ何か別の企画に着手しなければ、と思ったが、その前に幸福の会から抜け出すべきだ。しかし一体どうやって抜け出そう。自分でも関わり過ぎたな、と思った。
ネタになるようなことを一瞬でも見逃さないために、集会がある度に通っていたし、顔見知りもかなりできた。
何より東雲さん――。
幸福の会はやめれば良いだけだけど、彼とはどうしよう……。
彼とは仲良くなり過ぎたと思う。集会帰りに食事に行ったり、気が付けば悩みを聞いたりする仲になっていた。
それに、私は彼を悪しからず思っている。
ともかく、次のネタは幸福の会、脱会編で決まりだ。
私は一番初めにもらったパンフレットを隅々まで眺めた。
入会の方法は載っていたが、どこを探しても退会の方法は載っていなかった。
「当たり前だよね……」
といっても幸福の会に直談判する勇気はない。
かくなる上は東雲さん、と行きたいところだが、東雲さんは最近仕事が忙しいみたいで最後にメッセージを送ってから返事がない。
もういっそこのままでも良いのかな、と少し思ってしまった。
集会はお菓子食べ放題だし、行く頻度減らせば後は普通の生活を送れば良い。
そんなことを思いながら放心していると、握っていたスマホが振動した。
「返事来た……!」
少し悩んだが、彼に相談することに決めた。
私は「ちょっと相談なんですけど、お電話できますか?」と持ち掛けた。
そうして電話が掛かってきて、脱会したいという旨を伝えると、理由も聞かれず、あっさりと承諾された。
しかし、一応ということで最後に直接会って手続きを行うことになった。
指定された夜に、喫茶店で待ち合わせる。
東雲さんは先に席に着いていた。相変わらず今日もスーツを着こなしていてかっこいい。もうこの姿も見納めか……と思うと、少し寂しい気分になった。
「お待たせしました」
「いえいえ。呼び出してすみません」
席に着くと、早速退会の手続きが行われた。
私が退会届の書類に記載すると、東雲さんが代わりに届けてくれるらしい。
本当に最初から最後まで、お世話になりっぱなしだ。
「これで大丈夫です。お疲れ様でした」
「東雲さん、いろいろとありがとうございます」
「いいえ。僕の方こそ、瀬戸さんと過ごせて楽しかったですよ。寂しくなります」
「わ、私も……」
「そろそろ帰りましょうか」
「はい……」
お店も閉店間際だったので、あっさりと解散になった。
駅まで私を送ってくれる東雲さんと隣り合って歩く。
その穏やかな横顔を見上げると、途端に罪悪感が溢れ出してきて、全てを打ち明けそうになってしまった。
「あっ……」
頬に冷たい感触を感じる。みるみる内に雨が降り出していた。しばらくすると土砂降りになった。
東雲さんの方を見ると困ったような顔をしている。
「瀬戸さん、これで家に帰るのは大変でしょう。風邪を引くかもしれません。すぐ近くに僕の家があるんです。よければそこで雨宿りしていきませんか?」
「あ、は、はい! そうですね!」
私は咄嵯に答えてしまった。
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