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「特殊能力保護協会……それから超能力者がいる、ということは理解しました。ですが僕には、超能力なんて……」
口では否定しているが、新多が「エスパーだからだったりして……」と言い出した時から薄っすら勘付いていた。
塾の窓。ボコボコに凹んだペットボトル。高校のトイレの鏡。実家の窓――。
そして、成人女性が暴れただけにしては大袈裟なほどの無数の亀裂が入ったミラードーム。
思い当たる節が多すぎる。
気づかないふりをして無視していたのは、新多がなんとなくそう望んでいた気がしたからだ。
このミラードームにも行きたくなかったわけではなく、万が一の可能性を考慮し、自分を連れて行きたくなかったのだ。
時折はっきりしない態度の新多に抱いていた違和感が氷解する。
「心の底では、君は自分の力の存在に気づいていたはずだ。そうだろう?」
「……はい」
目を丸くした新多は、口を開いたが何も言わずにまた俯いた。
「ご安心を。我々は国家機関なので、衣食住は生涯補償されているし、能力が消えたあとも内勤として働くこともできる。アフターサービスもばっちり~。訓練すれば、能力も手足を動かすように使えるようになるし、副反応の眩暈も軽減するだろうね」
「拒否権は……」
「残念ながら」
「そう……ですか……」
急な展開に頭が追い付かない。冷たい汗で背中がびっしょり濡れている。
おそらく今は、自身に能力があることに恐怖を抱いているわけではない。
ずっと黙り込んでいる新多の反応が恐ろしいのだ。
「あ、新多君……」
助けを求める声に聞こえたのか、ハッとした新多はその場で土下座した。
「わわっ、えッ⁉ 新多君⁉」
「透琉は見逃してやってくれ! 俺は死ぬまで働く! この先親父の言うことを何だって聞く! だから、やっと自由を見つけた透琉だけは、どうか……」
「……はあ、駄目だ」
懇願する新多に、御門は容赦のない言葉をかけた。
「親父!」
「局長命令だ。これでも譲歩した方だと思うがね? お前の中途半端な態度が土岐透琉の能力を閉じるどころか開花させた。その事実を受け止めるべきだ」
「だけどまだ完全に開花したわけではないだろ!」
「少々私情をはさみすぎじゃないのか? ハニートラップを仕掛けておいて、ミイラ取りがミイラになるとは情けないなぁ、御門新多捜査員」
目の前が真っ暗になった。
御門新多と呼ばれた恋人は、こちらを見て青ざめている。
制服で夏空を見上げた日も、透琉の一番がいいと言った言葉も、隠れるように狭いベッドでくっついて寝た日々も、すべてまやかしだったというのか――。
喉がひゅうひゅうと鳴って、息が詰まった。
「御門……新多……」
「透琉、俺は……俺は……!」
「君の隣にいると、僕はありのままの自分でいられたけど、君はずっと偽りの岡崎新多を演じていて苦しかったの……?」
「違う! 違うんだ、透琉! 話を……」
伸びてきた手から思わず逃げると、新多の方が傷ついた顔をした。
「ずるいよ、僕はもうとっくに君を嫌いになんてなれないのにっ!」
新多のことを信じたい。
だけど、寿美子や自身の能力のこと、非現実的なことが起こり過ぎて感情が追い付いてこない。
透琉は、新多と御門から逃げるように後退り顔を覆う。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「話しを聞いてくれ! 透琉!」
「本当はずっと前からわかってた……。自分の周りでおかしな事故が多発してることも、父に見放され、母に愛されているわけじゃないことも。岡崎新多が……君が僕に何か隠し事をしていることも」
「待ってくれ、透琉……俺は……」
「もう自分が生まれてきた意味がわからない……」
透琉が部屋の最奥までたどり着くと、背中と触れた面が派手に砕け散った。そして壁にぽっかり穴が開いて、外の熱気が部屋にどっと流れ込んでくる。
室内は半壊状態だ。射しこんで来た太陽光が割れて散らばった鏡に吸い込まれて乱反射している。
「総員撤退! 建物の裏手に回れ! 対象を保護しろ!」
御門は部下に大声で呼び掛ける。
天井から大きな鏡がガラガラと落ちて、新多と透琉は分断された。
「透琉!」
「新多、状況を良く見ろ!」
「うるせぇ! 離せよ! 透琉が!」
新多は抵抗するが、それ以上の力で御門に引きずられていく。
元より逃げるつもりのなかった透琉は、新多と御門が部屋から出たのを見届けて、部屋の中心部へと進み始めた。
落下してくる鏡で顔や腕が切れてもお構いなしだ。
今まで抑え込んでいた力が全身に行き渡り、指先をほんの少し動かすだけでパリンッパリンッと鏡を破壊していく。
「バケモノみたいだ……。こんなんじゃ、愛されるわけないか……」
奇しくも透琉はたった今、力の解放の仕方を本能的に理解してしまった。
自分に関わったせいで、母も父もおかしくなって、新多は苦しんだ。
誰にも、お前のせいで不幸になった、と責められているわけではないのに、辛くて、哀しくて、寂しくて、自分を罰せずにはいられないのだ。
だが死にたいわけではなく、この瞬間から、消えてしまいたい――ただそれだけ。
その結果自身がどうなるかを考えられるほど、透琉には余裕がなかった。
負の感情に飲み込まれた透琉は、自身の胸倉をわし掴み、大粒の涙を流す。
「今まで、付き合わせてごめんね……新多君……」
建物が崩れる音に透琉の声はかき消され、聞こえるはずがない。
それなのに、新多とバチンと視線がぶつかった。
透琉は、さよならの代わりににっこりと微笑んだ。
それを合図に残りの鏡も一気に割れて、足元も崩壊し始めた。
ドンっと地鳴りがして、真っ暗な宙に放り出された。
御門を振り切ってこちらに飛び込んで来る新多の姿は、自分の願望だったのか――。
透琉の視界は闇に飲まれていった。
口では否定しているが、新多が「エスパーだからだったりして……」と言い出した時から薄っすら勘付いていた。
塾の窓。ボコボコに凹んだペットボトル。高校のトイレの鏡。実家の窓――。
そして、成人女性が暴れただけにしては大袈裟なほどの無数の亀裂が入ったミラードーム。
思い当たる節が多すぎる。
気づかないふりをして無視していたのは、新多がなんとなくそう望んでいた気がしたからだ。
このミラードームにも行きたくなかったわけではなく、万が一の可能性を考慮し、自分を連れて行きたくなかったのだ。
時折はっきりしない態度の新多に抱いていた違和感が氷解する。
「心の底では、君は自分の力の存在に気づいていたはずだ。そうだろう?」
「……はい」
目を丸くした新多は、口を開いたが何も言わずにまた俯いた。
「ご安心を。我々は国家機関なので、衣食住は生涯補償されているし、能力が消えたあとも内勤として働くこともできる。アフターサービスもばっちり~。訓練すれば、能力も手足を動かすように使えるようになるし、副反応の眩暈も軽減するだろうね」
「拒否権は……」
「残念ながら」
「そう……ですか……」
急な展開に頭が追い付かない。冷たい汗で背中がびっしょり濡れている。
おそらく今は、自身に能力があることに恐怖を抱いているわけではない。
ずっと黙り込んでいる新多の反応が恐ろしいのだ。
「あ、新多君……」
助けを求める声に聞こえたのか、ハッとした新多はその場で土下座した。
「わわっ、えッ⁉ 新多君⁉」
「透琉は見逃してやってくれ! 俺は死ぬまで働く! この先親父の言うことを何だって聞く! だから、やっと自由を見つけた透琉だけは、どうか……」
「……はあ、駄目だ」
懇願する新多に、御門は容赦のない言葉をかけた。
「親父!」
「局長命令だ。これでも譲歩した方だと思うがね? お前の中途半端な態度が土岐透琉の能力を閉じるどころか開花させた。その事実を受け止めるべきだ」
「だけどまだ完全に開花したわけではないだろ!」
「少々私情をはさみすぎじゃないのか? ハニートラップを仕掛けておいて、ミイラ取りがミイラになるとは情けないなぁ、御門新多捜査員」
目の前が真っ暗になった。
御門新多と呼ばれた恋人は、こちらを見て青ざめている。
制服で夏空を見上げた日も、透琉の一番がいいと言った言葉も、隠れるように狭いベッドでくっついて寝た日々も、すべてまやかしだったというのか――。
喉がひゅうひゅうと鳴って、息が詰まった。
「御門……新多……」
「透琉、俺は……俺は……!」
「君の隣にいると、僕はありのままの自分でいられたけど、君はずっと偽りの岡崎新多を演じていて苦しかったの……?」
「違う! 違うんだ、透琉! 話を……」
伸びてきた手から思わず逃げると、新多の方が傷ついた顔をした。
「ずるいよ、僕はもうとっくに君を嫌いになんてなれないのにっ!」
新多のことを信じたい。
だけど、寿美子や自身の能力のこと、非現実的なことが起こり過ぎて感情が追い付いてこない。
透琉は、新多と御門から逃げるように後退り顔を覆う。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「話しを聞いてくれ! 透琉!」
「本当はずっと前からわかってた……。自分の周りでおかしな事故が多発してることも、父に見放され、母に愛されているわけじゃないことも。岡崎新多が……君が僕に何か隠し事をしていることも」
「待ってくれ、透琉……俺は……」
「もう自分が生まれてきた意味がわからない……」
透琉が部屋の最奥までたどり着くと、背中と触れた面が派手に砕け散った。そして壁にぽっかり穴が開いて、外の熱気が部屋にどっと流れ込んでくる。
室内は半壊状態だ。射しこんで来た太陽光が割れて散らばった鏡に吸い込まれて乱反射している。
「総員撤退! 建物の裏手に回れ! 対象を保護しろ!」
御門は部下に大声で呼び掛ける。
天井から大きな鏡がガラガラと落ちて、新多と透琉は分断された。
「透琉!」
「新多、状況を良く見ろ!」
「うるせぇ! 離せよ! 透琉が!」
新多は抵抗するが、それ以上の力で御門に引きずられていく。
元より逃げるつもりのなかった透琉は、新多と御門が部屋から出たのを見届けて、部屋の中心部へと進み始めた。
落下してくる鏡で顔や腕が切れてもお構いなしだ。
今まで抑え込んでいた力が全身に行き渡り、指先をほんの少し動かすだけでパリンッパリンッと鏡を破壊していく。
「バケモノみたいだ……。こんなんじゃ、愛されるわけないか……」
奇しくも透琉はたった今、力の解放の仕方を本能的に理解してしまった。
自分に関わったせいで、母も父もおかしくなって、新多は苦しんだ。
誰にも、お前のせいで不幸になった、と責められているわけではないのに、辛くて、哀しくて、寂しくて、自分を罰せずにはいられないのだ。
だが死にたいわけではなく、この瞬間から、消えてしまいたい――ただそれだけ。
その結果自身がどうなるかを考えられるほど、透琉には余裕がなかった。
負の感情に飲み込まれた透琉は、自身の胸倉をわし掴み、大粒の涙を流す。
「今まで、付き合わせてごめんね……新多君……」
建物が崩れる音に透琉の声はかき消され、聞こえるはずがない。
それなのに、新多とバチンと視線がぶつかった。
透琉は、さよならの代わりににっこりと微笑んだ。
それを合図に残りの鏡も一気に割れて、足元も崩壊し始めた。
ドンっと地鳴りがして、真っ暗な宙に放り出された。
御門を振り切ってこちらに飛び込んで来る新多の姿は、自分の願望だったのか――。
透琉の視界は闇に飲まれていった。
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