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神獣朱雀『エレオノラ』
創造神の思惑
しおりを挟む「『ねぇ、何故助けてくれるの? 』」
その子が、ロベルトの口を借りて話し掛けて来た。
言いたい事は良く解る。
普通の思考の持ち主なら、当たり前の疑問だ。
この世界の者に薬師の思考、感覚は理解できないし、解らない。
だから薬師は、薬師である事の存在とその意義をロベルトと一緒にこの10年を生きてきた生き物に解く必要が出来た。
「私は君らに取って異界から来訪した神です。それも、貴方達が創造神と呼び名前を口に出来ない神と同じ世界の神」
「それも、創造神より上位の神だよ、薬師様は」
と、途切れた言葉に重ねがけするように、月光が横槍を入れた。
薬師がそんな月光を咎める目で見る。
まぁ、月光のこんな性格も今に始まった事では無いのだが。
「そんな私達が人を救済するのは当たり前になっている反面、救済の殆どは人々の死後行われる事が大半を占める。唯一、私だけが生きている人々を救済出来る、と言う状況です。それをこの世界の創造神は良く理解していたので、私がこの世界に来るように状況操作をしたのですよ。私が此処にいて君達を助ける、それが彼の目論見なのでしょうね」
薬師は一息にそう話すと深く溜め息を吐いた。
誰もが解った。
神々の中で、誰が一番貧乏くじを引いたのか。
「まぁ、仕方が無いですね。そう言う損な役回りなのは、承知の上ですしね。それに…… 」
じっと薬師の言葉を聞いていた一同は、彼の表情の変化に驚きを隠せなかった。
口元だけ笑みの形に緩め、目もにこりとした表情ある形に綺麗に造られて、まるで人形を連想させるようだったのに、ゆっくりとそれが崩れ、目を細めて口を引き結ぶ。
どう見ても不機嫌の三文字を引っさげて、薬師は櫂を出現させた。
そう見えるような変貌っぷりだった。
「あのやろうに凪を奪われたのは、俺の落ち度だった。スカスカなスポンジのようなこの世界を強固なモノにする為には、どうしても俺をこの世界に捉える必要があった。あのスカし野郎、次合ったらぶん殴ってやる! 」
そう言って拳を掌に叩き込む姿は、全くの別人のようだった。
「おいっ、晴明、ちょっと来てくれ」
櫂が虚空を見上げ、声を張り上げた。
「昨日の今日で、この老いぼれに何用かのぅ? 薬師よ」
この言葉と同時に姿を現したのは、狩衣を纏った若い男(と、言っても中年だが)。
安倍晴明だった。
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