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神獣青龍『香燕』
哪吒と愛染⑤
しおりを挟む彼等のお互いに対する気持ちの持ちようはは異常としか言えなかった。
まるで小説に出て来る獣人や竜人と呼ばれる者達の番のようだった。
何かの理に、ただただ突き動かされていると言える共依存。
それが番と言うシステムだ。
きっと彼等は番なのだろう。
本人達が気付かない程に、綿密に織られた縦糸と横糸の布地のように。
そんな心すら共有する二人に愛されてしまった薬師はどれだけ不運と言えるか。
想像を絶する程だ。
このストーカーっ振りは、通常の精神ならきっと病んでしまう事だろう。
その辺、流石薬師様。
精神も心臓も、鋼と言えよう。
「まぁ、哪吒にはかなりの難題を突き付けたからね。絶対元の愛染には戻れない」
薬師はそう言うとははっ、と笑った。
たまったものでは無いのが愛染だ。
鉄の鳥籠に羽をへばりつけさせたまま、薬師に向けて籠をバンバンと叩く。
そんな愛染を薬師は一瞥すると、意地悪くにやにやと笑った。
そんな彼を見て、愛染はギョッとしたのだが、その理由と言うのが、そんな顔付きをする薬師など見た事が無いと言う為だった。
そうだろう。
愛染は、薬師の正体を知らない。
素面の彼を知らないのだ。
愛染の薬師に対するそれは、総て薬師の作り出す理想の薬師像そのものなのだから。
ピーチクパーチクとけたたましくさえずるインコに辟易したのか、薬師が迷惑そうに言い放つ。
「煩いインコは言葉を話せ。許す」
簡潔に薬師が言った途端、
「こんなの詐欺だぁぁーっ! 薬師様じゃないっ!! 」
「「「間違い無く薬師様です! 」だね!!」ですね~ 」
と、三人の声が見事にハモった。
「知らない方が幸せな事ってのはね、絶対的に存在するんだよ、愛染」
そう感慨深げに言うのは月光。
その声音はまるで経験してきたかのようで、周囲の聡い者達は、月光に同情の目を向けた。
「いや、ちょっと待って、違うから、たとえ話だから。そんな可哀想な子を見るような目で見ないで」
そうは言っても時既に遅し。
月光の周りは、同情心で溢れかえっていた。
「皆、月光をからかうのもその辺にして置いてあげなさい。流石に可哀想ですから…… 」
普段なら突っつき倒す薬師が庇うとは、此、いかに。
そして、薬師が月光を玩具にしないのも珍しかった。
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